港では、静かに解散式が行われた。 というよりも、誰も声が出なかった。 「おれから、最後の命令だ。」 皆の前に立ったペンさんが、変わらない表情で言う。 「自身がハートの海賊団だった事と、船長が死んだ事。この二点の口外を禁止する。」 いいな、という念押しに、皆は力無く頷いた。おれと一緒で、まだ実感が湧いていないのかもしれない。だって昨日の今頃は、楽しく朝食を取っていた筈なんだ。 いつも通り眠れなかった船長を、食堂に引き摺って。 ベポがサラダを食べさせてて、 おれは目玉焼きにマヨネーズかけちゃって、 ペンさんが呆れて、 船長が笑って。 船長の遺体は、ペンさんが船と共に連れて行くらしい。 誰もが付いて行きたがってた。けれど、駄目だの一点張りで許しは出ない。 ペンさんの頑なな様子に、おれは船長が死んだという事実を少しだけ認識した。 「キャスケットは、どうするの。」 不意に声をかけられて、ゆっくり振り返る。 船長が死んでから、誰とも口を聞かなかったベポが小さくおれに尋ねていた。 小さな瞳は真っ赤になっている。 少し、やつれてた。 船長がいつも気持ちいいって触ってた毛並みが、嵐に煽られたままでボサボサだ。 「キャスケットは、どうするの。」 返事の無いおれに、もう一度尋ねるベポ。 そこでおれは、自分の事を何も考えていなかったのに気が付いた。 いや、正確に言うと考えられなかったんだ。 あまりに突然すぎて。 他のクルー達はこの島に拠点を置いたり、旅に出たりするらしい。 現在の宝も分配する為、しばらくはこの街に身を置くようだった。 「ベポは・・・どうするんだよ。」 てっきり、ペンさんに付いて行くと思ってた。 最後まで船長と一緒に居ると、思ってた。 「おれは、旅に出るよ。」 だからこの一言には少しだけ、驚いた。 「旅?」 「・・・うん。」 「何処へ?」 「・・・分からないけど。」 「何しに?」 「キャプテンの、悪魔の実を捜しに。」 なるほど、と思った。 ベポは、誰にも渡したくないんだ。 船長のものである、あの悪魔の実を。 「次に会ったら、渡してあげるの。」 ベポはそう言って、少しだけ笑った。 けどその笑顔は曇っている。 無理、しすぎだよ。 ベポ。 「キャスケットは、どうするの…。」 3度目の、問いだった。 おれは― → 街に残る → ベポと行く → ペンさんと行く |