おれはベッドの上に寝転がって、ぼうっとしていた。


どのくらいそうしていただろう。
寝転がったまま上を見ると、窓の外はいつの間にか暗くなっていた。少しの明るさも残していない闇は、日が落ちて時間が経っている事を示している。ぼんやりと、よく他の海賊船に出くわさなかったものだ、と思った。島に入る前と出た後は、特に注意しなければならないとペンさんが言っていたのを思い出す。


そうだ・・・ペンさん、どうしたかな。


おれは目を擦って起き上がった。
今の状況じゃあペンさんからはおれに話しかけてこないだろうし、お互い一人になってから大分時間も経ってる。おれ自身含めて落ち着いたとは言えないけれど、今後の事を話しておかなきゃならない。

・・・今後?

おれは自分で思った単語を反復した。
今後なんて、あるのか?
「・・・・・・。」
兎に角ペンさんに会おう。
そう思って、部屋を出た。





「寒・・・。」
さっきの島は秋島だった。けれど明らかに酷くなっている寒さに、次は冬島なのかもしれないと思う。着慣れたツナギは防寒にも役立っているけれど、冬用は別にあるので今は少し心許ない。
そう思いながら、船長の私室をノックする。
勿論返事は無かった。
「開け、ます・・ね?」
そろりと声をかけてノブを捻る。
カチャリという金属音がやけに大きく廊下に響いた。
「・・・・ペンさん?」
いつも通りカーテンが閉まった船長の私室は真っ暗だ。
入り口横にあるスイッチの内の一つを付ける。これはいつも船長が座っている定位置…つまりベッドとは反対側にある電灯のスイッチだ。ベッド側を付けるのは気が引けたから。
「・・・・・・あれ…?」
けれどベッド付近にペンさんの姿は無かった。
いや、『二人』の姿が。
「ペンさん・・・?」
キョロ、と部屋を見回しても、その姿は見当たらない。
「あれ・・?」
階段近くにある自分の部屋からは、人が通る気配はしなかった。けど、ついさっきまでぼーっとしていた自分を思い出して、もしかしたらと考える。船長は元々軽いし、静かに抱き上げて通るなんておれ達には慣れたものだ。気付かなくても、不思議じゃない。
「・・・・・。」
だとしたら、何処に。
おれは回れ右をして、船長の私室を後にした。





外に出ると、益々暗闇が身近に感じられる。
冷たい空気がおれから体温を奪っていくけど、あまり気にならなかった。そのまま上を見上げると、いくつもの星が輝いてる。船長が勝手に貼っていった、おれの部屋のポスターみたいな景色だ。・・・おれは多分行った事が無いけれど、北の海はこんな感じなんじゃないかと思う。

『寒ぃけど、空が一番綺麗なんだぜ。』

いつだったか、船長がそう言ってた事があった。
おれ、見たかったなあ。
グランドラインを一周して、北の海に行って。
船長の故郷の海を、見たかった。
「(みんなで、一緒に・・・。)」
無表情で空を眺めていたら、ふいに甲板から人の気配がした。
最悪の事態を想定しないでもなかったけど、ペンさんが居る事に安心したおれは船首の方へと歩き出す。いつから出てるのか分からないから、中に入るように促したほうが良いかもしれない。もしも風邪なんてひいたら、これから。

・・・これから?

これから、って?
「・・・・・。」
ふる、と首を振って、おれは止めていた足を再び動かした。











「あ、ペンさん…。」

やっぱり甲板に居た。
おれに背を向けるように座り込んで、膝に船長を乗せて、抱き締めて。


おれは声をかけながら、ペンさんの前方に回りこんだ。





「ペンさん?」