「・・・行くよ。」

キャスケットはそう言って、頷いた。














なんてかわいそうなひと。









「キャスケットは、海に出ない方がいいよ。」
おれはそう言ったけど、キャスケットは首を振った。
「街に残る気なんて、しないんだ。」



「そう・・・なら、どのみち一緒かあ・・・。」



「え?」
おれの言葉に、キャスケットが首を傾げる。







その眼は、光を失っていた。


かわいそうなひと。



でもね、もう大丈夫。







「んーん、何でもない!」
おれはいつものように、明るく振る舞う。








ねえ、キャプテン。

こうしてれば、まるでキャプテンが死んだなんて、嘘みたいだよね。





此処にキャプテンだけが居ないなんて。











「じゃあ、行こう。キャスケット。」

「もう?せめてペンさんに、報告だけでも…。」

キャスケットは少しだけ慌てていた。
かわいそう。
その世界はもう、真っ暗なのに。












「大丈夫、すぐに会えるから。」












「・・・そう?そう、か。うん、分かった。」
キャスケットは何も考えずに頷いた。
そんな風に単純だから、よくキャプテンに弄られてたんだよね。

「じゃあ、しゅっぱーつ!」

お金は既に分けてあったから、すぐにでも小さな船を買って出航できた。














二人だと流石に操舵しにくいけど、出来ない事じゃない。
ああ、キャスケットが居て良かったなあ、と思う。
「・・・何考えてんのさ、ベポ。」
ぼーっとしてたら、キャスケットに声をかけられた。
まあ、船にはおれかキャスケットの二人しか居ないから、すぐに分かるんだけど。
「うん、あのね。キャスケットが居て、良かった。」
ぽつりと呟くと、一瞬きょとんとしたキャスケットが少し笑った。
「何言い出すんだよ。」

相変わらず、その眼には光が無い。

きっともう、今自分が何処に居るかも分かってないんだろうね。












「本当に、キャスケットが居て、良かった。」
















だって、


これでキャプテンが寂しがる事が無い。