* Mission! 0 *



〜プロローグ〜




「・・・お前達に集まってもらったのは、他でもない船長のことだ。」

朝。ミーティングと称して、カーテンを閉めたままの薄暗い談話室に入った2つの人影と一匹の動物。
言わずと知れたペンギン、キャスケット、ベポの組み合わせだ。
普段ならこのメンバーに船長がプラスされているのだが、如何せん今日の議題は船長のことであり、彼を加える訳にはいかない。それに話の中心人物は朝になって大分経つというのに未だ起きていないのだ。

「船長の事、っていうと、アレですね。ペンさん。」

真剣な面持ちのキャスケットが、壁を背に凭れ、秘密話でもするかのようにそっと呟く。

「そう、アレだ。」

「アレだね!」

元から感情表現に乏しい面はあるものの、いつになく仏頂面をしたペンギンが立ったまま一人と一匹の前で腕組をする。それにつられるかのようにキャスケットとベポも唸りながら腕を組んだ。

「アッチは?」

「アッチは今日のところおいておく。今日は眠れているみたいだからな。」

ベポの代名詞のみの質問にさらりと答えたペンギンは、さて、と前置きをする。
キャスケットが少し背筋を伸ばした。


「知っての通り、今日で4日目に突入する。その間口にしたものは、
オニオンスープ、
食パン(6枚切り)を二分の一、
サラダを一口、
トマトをワンカット。
あとは全て水とサプリメントだ。」


その言葉を聞いてキャスケットとベポが同時に長い溜息を吐いた。

「・・・1日目の時にオニオンスープ飲んでるの見て安心してたおれが馬鹿でした。」

「サラダ一口あげた時、もっと食べて!ってすすめれば良かった〜・・・。」

各々が己の力不足を嘆くように項垂れる。
明かりが皆無な所為だけでなく一気に部屋の空気が重くなり、それを払拭するようにペンギンが咳払いを一つ立てた。

「過ぎた事を言っても仕方が無い。おれも忙しくてあまりキツく言えなかったしな。」

その言葉にキャスケットがガバリと顔を上げる。

「でも、丸三日間そんな感じって…普通の人間じゃないですよ!」

「・・・・普通じゃないのは知ってるが?」

「キャスケット、普通の人間、の後に『保てない』って言葉が抜けてるよ〜。」

「あっ…でももうどっちでも同じじゃない?」

「同じかなぁ・・・同じかも!」

キャスケットの勢いあまった言葉にペンギンとベポが突っ込み返す。そして本人が居ないのを良い事に言いたい放題な面々に話がズレてゆくが、そこまで、とすかさず仕切り直すペンギンは流石副船長といったところか。

「おれが粘り強く船長についてやれれば良いが、生憎今日は丸一日予定が詰まっている。」

船の設備や装備の点検箇所確認、調理補助、その他雑務が諸々あってペンギンは基本的に忙しい身だ。それに加えて今船が居る海域は波の動きが独特で、いつ高い波がきてもおかしくない。朝方から天候が崩れてきているのも気になっている。そういう訳で船全体を見渡していなければならず、今日ばかりは船長に付きっ切りという訳にはいかなさそうだ。それはキャスケットもベポも良く知るところなので(何せあの船長の補佐という立場なのだ)、ペンギンの言葉に力強く頷いた。
最早、子供じゃないんだからお腹が空けば食べるだろう、などという段階ではないのだ。相手は(この場合邪魔としか言いようが無い)医学を身に着けている医者であり、一日に必要な栄養分も把握している。把握していて理解していて、ギリギリのレベルでしか物を口にせず自作サプリメントで補っているのだから性質が悪い。
やはり食事はきちんと食物で摂るべきなのだから。
忙しいが、いい加減きちんとした食事を摂らせなければならない。
この際エゴと言われても構わなかった。



「そこで、だ。今日一日で、どんな手を使ってもいい。とにかく。」




    " 何か食べさせろ "





それが一人と一匹に与えられた今日の副船長命令だった。





「了解、副船長!」
「アイアーイ!!」


元気の良い声が、薄暗い談話室に響いた。





→next 「キャスケット、いきまーす!」


さあ、彼らはどのような事をしでかしてくれるのでしょうか。
次からは各々の視点でどうぞ。

2009.05.26    水方 葎