*絶対自信* 精霊を従えようと考える人間は、きっと高慢な者だろう。 人間とは、そういうものだ。己が優位な立場とする為にありとあらゆる手を尽くす。 「そう、考えていたのだがな…」 「ん・・何か言ったか?」 此処は忍者の里。すずが忍者の試練を受けるために、と少しばかり寄り道の途中である。一刻も早くダオスを倒さなければならないとは分かっているものの、準備不足で自分達が消えてしまうような事はあってはならない。その為に、各地を回って『準備』を進めているところであった。 オリジンは己の本体とも言える石版が安置してある森に来たせいか、少し前のことを思い出していた。それは、主であるクラースと契約をする前の事。 声に出すつもりは無かった呟きが漏れ、道具袋を手入れしていたクラースが振り返る。戦闘でもないのにオリジンが実体化しているのは最早いつもの事であり、TPを消費している筈のクラースも黙認している。だが、実体化してすぐ虚空を見つめ、何やら物思いに耽る精霊には声の一つでもかけたくなるというもの。 「オリジン?」 「・・・」 「オリジン。」 クラースの、ただオリジンを呼ぶだけの声に反応をして、すっと顔を向ける。 だが、心此処にあらずといった様子であった。 呼びかけることを諦めて、クラースは小さく溜息をついて立ち上がる。そうしてオリジンが立つ窓辺へとそっと歩み寄り、柔らかく視線を合わせた。見詰め合った時間はどのくらいだっただろうか。決して長くは無かったものの、まるで心に直接語りかけるかのようなクラースの視線はオリジンに心地よいものだったらしく、すぐに途絶えることは無かった。 「・・・・主よ。」 ようやく開かれた口に俄か安心したクラースは"ん?"と小さく首をかしげる。 「愛しているぞ。」 「な!い、いきなり何を言い出すんだお前は!」 予想だにしない突然の告白に、クラースは一気に顔を赤くして俯いた。オリジンから何度も言われている台詞ではあるものの、未だに慣れはしない。そんなクラースの様子にふと微笑を漏らしたオリジンは、彼の頬にそっと手を伸ばす。 「こんなにも惹かれるとは、思いもしなかった。」 「我は精霊の癖に、"人間"という生き物を決め付けていたようだ。」 「だが、それは違う…。人間にも、色々とあるのだな。それを主から教わった。」 「我自身に、こんなにも温かく柔らかく入り込んできたのは、主が始めてだ…」 愛しそうに、何度もその頬を撫でた後にオリジンはクラースにだけ見せる笑みでもって微笑む。赤面しながらも慎重にその言葉を受け取っていたクラースは、何度も視線を彷徨わせながらオリジンに続いて言葉を紡ぐ。 「わ、私だってオリジンをこんなにも好きになるなんて…思っていなかった。」 「信頼とは、別の、…他の精霊達には抱かない、この感情が何なのか分からなかったし…」 「それでも、オリジン。お前は私に沢山の事を教えてくれ、与えてくれた。」 「叶わない願いかもしれない。それでも、ずっと共に在りたいと願ってしまうんだ。」 お前の考えるとおり、人間は強欲だよ。 そう漏らすクラースだったが、オリジンはその言葉すら嬉しそうに受け止めて、勢いに任せてクラースを抱き寄せた。抵抗する訳でもなく、そのままオリジンの腕の中に収まったクラースはそっと目を閉じる。今この時、かの精霊は此処に居るのだと確認するかのように。 いつか訪れる別れに備えて、精一杯今を感じるように。 「安心しろ、主よ。」 「・・・オリジン?」 自信満々、それどころか威厳さえもつオリジンの声にクラースは顔を上げてオリジンを仰ぎ見る。 「そんな事を不安に思っていたのか。」 「そんな事、・・・そんなこと、か…」 「…そういう意味で言ったのではないからな。なぁ、主よ。」 自嘲気味に俯こうとする主に一つだけ釘をさしてから、オリジンは一度区切って言葉を続ける。 「主を愛しているモノは何だと思っているのだ?万物の創造主、精霊王のオリジンだぞ。」 全く、この精霊には敵わない。 その腕と香り、温かな鼓動に安らかな心地良さを覚えながら、クラースはそんな事を考えた。 〜 その後 〜 「っと…オリジン、その、そろそろ皆が帰ってくるから…」 「?それがどうした?」 抱き合って、その気持ちよさについつい時間を流されてしまった。気付けばそろそろ里を回っていた皆が帰ってくるであろう時刻。 緩やかにその腕を解こうとしても、やんわりと、だが力強く止められてしまう。 「良いだろう、あと少しくらい。」 「っ、そうやってクレス達に見付かりそうになった事が何回あると思ってるんだ!」 「全て未遂だろう?我はきちんと奴らが"扉を開ける寸前に"離しているではないか。」 「それが問題だ、それが!私にだって心の準備というものが…」 「ほう?そんなに我と離れるのが寂しいのか。だから離れる心の準備が欲しいと?」 「いや、お前人の話聞いてたか…?」 「ふむ。それは簡単なことだぞ、主よ。単に離れなければ良いだけの話だ。」 「オリジンー!!!」 その頃、廊下には既にパーティの皆が揃っていたとか。 「あのう…今開けると不味いでしょうか?」 「ミントさん。ここは空気を読んだ方が得策かと。」 「え〜!?いいじゃんもう、バレてんだしさ!入っちゃおうよ〜!」 「待て待てアーチェ!ここはクレスに乱入させた方が楽しくねーか?」 「でも買い物で疲れちゃったし〜…あ、クレス!買い忘れ頼んじゃってごめ〜ん★」 「いいよ、別に。ん?皆なんで入らないの?クラースさんは?」 ガチャ 「「「「あっ・・」」」」 KYなクレスと人の話を聞かない(仕様)オリジン。 たまにこんな激甘が書きたくなってくr だがしかし何を言いたい話なのか…。 2008.5.18 水方葎 |