私だって一応感情は持ち合わせている。 怒りもするし、笑うし、主の心配だってする。 だから時には・・・ そう、時には甘えたくなる時だってある。 「オリジン・・・どうしたんだ?」 「別にどうもせぬが。」 「だったら何故私にくっついてるんだ?」 今日も旅は続いている。 今はすずのご両親を探す為、色々なところをレアバードで巡っているのだ。そうして久しぶりに景色が良いベネツィアで休もうという事になり、宿を取った。150年経っても変わらぬ海の色に改めて感嘆する。 遅くなってしまったが、そんな景色を堪能しながらいつものお茶会をしようと、クラースが機嫌良くオリジンを召喚したのはつい先程のコトで。 『今日は茶はいらぬ。それより、此処に座れ。』 どちらが主か分からないような台詞に圧倒されながら、クラースがその言葉に従ったのもつい先程のこと。 ベットの上に腰掛けたクラースの太腿を膝枕に、オリジンが横になる。気持ち良さそうに目を閉じる精霊になんて声を掛ければいいのか分からずに居たクラースは溜息をついて窓の外を見た。 いつクレス達が付近の聞き込みから帰ってくるか分からない。別に疚しい事は何もしていないのだが、何だか気恥ずかしい気持ちに捕らわれているこの場面を見せたく無い事は確かだ。 「オリジン?」 2度目の声。 クラースには彼が何をしたいのかさっぱり分からずに居る。 ふと、唐突に自分の膝の上に頭を預けている彼がとても幼い子供のように見えた。 自分より大きい身長なのに、とクラースは心の中で笑い、彼の長い髪を手で梳いた。まるで太陽みたいな明るいそれは、何度自分を照らしてくれただろうか。 ほら、今でも・・・ 今でも・・・・? ギュ・・・ そのまま横になった状態で、オリジンが己の身体の向きを変えてクラースの腰に手を回した。まるでしがみつくような形になっている。 「・・・。」 不思議とクラースは慌てなかった。 寧ろ、嬉しく思う。 心の奥から湧き上がってくるような不思議な嬉しさにこそばゆいものを感じる。 「オリジン…。」 小さく呼ぶと、腰に回された手が少し強くなる。返事のつもりなのだろうか。 「オリジン、眠いのか?」 僅かに振られる頭。 「疲れたのか?」 これも違うようだ。 なら、答えは一つだろう。 「オリジン・・・顔を上げてくれ。」 ゆるゆると上げられた顔はいつもの表情と変わらなかったが、それでも目線をベットの上に置いている。何だか悪い事をしたかのように泳ぐ目線を捕まえようとクラースは彼の顔を覗き込んだ。 「オリジン。」 名を呼ぶと、合う目線。 同時に再び抱きつかれた。 「主は・・・温かい。」 唐突に紡がれた声にどう反応して良いか分からず、クラースの一度開かれた口は声を発することなく閉じられた。 「・・・・・温かい・・・。」 それでも、そんなクラースを気にする訳でもないオリジンは良く通るテナーの声で弱弱しく呟く。 抱き返してやると、それに応えるようにまた強くなる力。 離すまいと、しがみつくような抱擁に多少息苦しさを感じるが、それはとても嬉しい。 だって、彼が甘えてくれているのだから。 彼が、そして自分が、今此処に居ると肌で直接実感できる 決して離れないように 消えてしまわないように 安心できるように ずっと触れていたいから 「私で良かったら、いつでも甘えてくれ。」 な?オリジン。 そう言うとオリジンは多少怒った顔でクラースを睨んだ。 「我が甘える?冗談じゃないぞ・・・。」 現に今が甘えているというものだが、自分の中で分かっていても口に出して認めたくは無いらしい。それでも何かを充電するかのようにクラースから離れない。そしてクラースも同じようにオリジンから離れられずに居る。 もう少しで皆が帰ってくるかもしれないのに。 あと少し あと少しだけ、触れていたい もうあと少し 「キスしても良いか?」 怒ったと思えば一転、不安そうな顔に尋ねられてクラースは噴出しそうになるのを堪える。 「好きなだけ。」 言ってやると、優しいキスを贈られる。 クラースはオリジンからのキスが好きだった。 相手を気遣うような、それでいて優しく暖かい気持ちになれるようなキス。 自分を、求めてくれるキスが。 キスの雨を降らせましょう 貴方が飽きても降らせ続ける だってそれは私の愛情の量だから 決して止まる事の無い、優しいキスを 「たっだいまー!!!」 「「!!!」」 そうして二人がべったりくっついていたところに皆が帰ってきて慌てた二人は、思いっきりお互いの額をぶつけてしまったとか。 2007.10.1 改 水方葎 |