0<ゼロ>







僕と貴方は出会わなかった。

そんな風に突きつけられる現実なんていらない。

だって貴方は僕と一緒に居た。


旅をした。

冒険した。

怪我をした。

怒った。

笑った。

悩んで、解決して、また悩んで。

ずっと、一緒に居た。


愛し合った。








「クラースさん・・・。」

僕は今、墓の前に呆然と突っ立っている。

さっき別れたばかりの愛しい人は、もう居ない。

突きつけられた現実にどう抗ったらいいのかも分からず、僕はただ涙を流した。

声のあげかたも分からず、表情を作る余裕も無く。

ただひたすらに。















「クレス!お前今鍋の中に何を入れた!?」
「ヤだなぁクラースさん。愛の妙薬ですよ。(媚薬)」
「そんなモノ入れなくていいっ!スープが紫色してるだろう!ていうかその前にソレ全員が飲むんだぞ!?」



「ねぇ、クラースさん。一緒に寝ていいですか?」
「今現在一緒に寝ている奴の言う台詞じゃないだろう。」
「そうじゃなくて。・・・布団。一緒に入ってもいいですか?」
「・・・。」
「お願いします。」
「・・・はぁ。いつもなら強引に入ってくるのに。どうしたんだ一体。」
「人肌が恋しいんです。」
「チェスターが居るだろう。親友が。」
「それじゃナニ出来ないじゃないですか。」
「出てけ!」



「ぅああっ!」
「クレス!大丈夫か!?」
「ってー・・・・クラースさん、キスして下さい。」
「はぁ!?」
「ヤル気がどうも出ないんですよね。今日。」
「お前・・・。」
「あーぁ。ヤル気を失くした僕に飽きた魔物がチェスターを襲ってるー。苦戦してるし、早く助けなきゃー。」
「くっ・・・・今日!寝る前に1回だけだぞ!」
「よっし!行ってきます!!」



「愛してます。」
「は?」
「だから、愛してるんです。」
「誰かへの告白の練習台に私を使うんじゃない。」
「・・・・クラースさん。愛してるんです。貴方を。貴方じゃなきゃ駄目なんです。」



「この扉、どうやったら開くんですかね。」
「じゃあコレをこうしてみるとか?」
「わ!・・・開いた!凄いクラースさん!」
「少しは考えろ・・・手でこじ開けても開く筈がないだろう。」






旅をした。

恋をした。

愛した。

触れて・・・抱き合った。


その時間は偽りではないけれど。










     ーあぁ、すべてがゼロになってゆくー



2007.10.1 改    水方葎