「暑ぅ〜・・・」
「暑いな…。」
「暑い・・・。」
「暑いですね・・・。」
今四人が居る場所・・・それはフレイランド。暑いのも当然なのだが、何しろ一人もこの大陸に来た事が無くて、その暑さを侮っていたのだ。その所為で今、オリーブヴィレッヂに辿りつく前に力尽きそうである。
「この異常気象・・・それにこの大陸だけ雲が出ていない・・・。元々こういう大陸なのか、それとも何らかのモノが原因で・・・。」
いつものようにぶつぶつと考え出すクラースを横目にアーチェが本格的に騒ぎ出した。
「あたしもう歩けないーっ!」
「でもアーチェさん・・・。休憩するにしても、日陰一つ見当たりませんよ?」
そう言っているもののミントも相当参っているようだ。
日は真上から差してきていて、自分達の影すら残らない。それに、こんな砂漠地帯であるのだからオアシスでも見つけない限り休む事は不可能だろう。
それでもアーチェは諦めきれないのか頭に荷物を掲げて日陰を作りながら座り込んでしまった。
「ほら、アーチェ。頑張れって。」
クレスがなんとかして立たせようとするが、当の本人は「うー」だの「あー」だの言って、聞く耳は持っていないようだ。
「クラースさんも、大丈夫ですか?」
各々持ち歩いている水筒から水を補給しているクラースを見て、クレスが声を掛ける。
「ん・・・。私は平気だ。」
日除けの為全身を布で覆う形で出てきた四人。暑いのは元からなのでこの際布があってもなくても同じ、という事から、日に焼けない為布で肌を隠しているのだ。
ふぅっと一息ついてフードを取るクラース。そして現在位置を確認する。
平気だと言われても暑さは皆同じなので、やはり気になって仕方が無い。パーティの(一応)リーダーとしても、(自称)恋人としても。
「クラースさ・・・」
「ほらアーチェ。ここで暑い暑い言いながら休むより、早くオリーブヴィレッヂに行って休んだ方が楽だと思うぞ。」
「・・・ふぁ〜ぃ・・・。」
いつまでもこんなところでダラダラしているわけにもいかないと頭では分かっていたアーチェが、素直に立ち上がり水を飲む。
何となくクレスは不愉快だ。
「ねぇクラー・・」
「ミントも、大丈夫か?地図によるとあと少しだから、着いたらゆっくり休んで今度はきちんと準備をしよう。」
「はい。」
全然あと少しじゃないくせに、という言葉をクレスは必死で飲み込む。
そう、暑さを侮っていい加減な準備しかしてこなかったのは事実だ。
そして不愉快さは増してゆく。
「ねぇってば!」
「クレス?置いてくぞ?」
女性人二人が励ましあいながら前を歩いていく。いい加減苛々してきたクレスが今度は強めの口調でクラースを呼ぶが、少し振り返るだけ。
クレスは閉口して3人の後を追った。





「僕の前では気丈に振舞わなくていいんですよ?」
「・・・そういう訳にもいかんだろう。」
結局、パーティを励まし続けたクラースは、オリーブヴィレッヂが見えたと同時に倒れてしまった。
倒れたクラースを抱えて宿に入ったのは数時間前。
意識を取り戻したクラースの目の前には、クレスが座っていた。
「皆を励ますのはいいんですけど、クラースさんが倒れたら元も子もないじゃないですか。」
「それは・・・悪かったと思っている。」
「僕に気付かれないように避けたりして。」
「・・・。」
「嫌われたのかと思いましたよ。」
実際ここのところクラースの態度はクレスを嫌っているのか好いているのか微妙な態度で、クレスはハラハラしていた。
「だって・・・お前はすぐに、気が付いてしまうだろう。」
自分が風邪だという事を。
という言葉を飲み込んだクラースは代わりにゆっくりと目を閉じる。額に乗せた氷の袋が水に変わりつつある。
「そりゃクラースさんの事ですし。」
さらっと言ってのける姿に思わず眩暈を覚えるが、少し予想していた答えだとクラースは思った。
「ねぇ・・・クラースさん。」
「何だ?」
「寝てください。」
「・・・・・・・あぁ。」
クレスはゆっくりとクラースの目の上に手を置いた。
冷たい手が火照った身体に気持ち良いらしく、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

「・・・おやすみなさい・・・。」
まだまだ自分は頼りない存在なのだと、クレスは心の中で溜息を漏らした。





2007.10.1 改    水方葎