「なぁ、」
「・・・なんだ。」

いつのことだったかなんて、覚えていない。
酷く曖昧なその場面の背景が戦場だったという事実だけを記憶している。

リンゴ

血の海と比喩しても違和感が無い程、荒れ果てた地に立つ男が呟く。
己の姿もきっと似たり寄ったりなのだろうが、付着している赤の量に、差がある筈だ。


赤を通り越して黒くなりはじめ、独特の異臭を放つそれ。


そう、きっと奴はそれを見て
リンゴなどと口走った。


「食べたい、なぁ。」
「今この場所でそういう事を思えるのか。」
「食べたいよ。」

辺りにちらほらと生き残りの気配は窺えるものの、動く気力は残っていないらしい。




襲ってくるものは皆無。

残るは自分達二人のみ。

まるで世界には、己と、目の前の男だけのような静寂。






「(冗談じゃない。)」










流れる空気に乗せて溜息を吐けば、こちらを振り向き槍を掲げる、

奇 抜  死 神 。







「楽園の
果実を食ったのは、罪?」




「ならどうしてカミサマは
果実を造った?」




「どうして、二人に
 食 べ さ せ た ?












食べたのは神話に出てくる奴らで、カミサマが食べさせた訳ではないだろう。

けれど
果実を造ったのがカミサマならば、結果、食べさせた事になるのかもしれないな。














噛み付くような
接吻を受けながら、らしくもなくそのような事を考える。

















一つ言えることがあるとするならば。

















果実を食べたのは


必然だったのだろう、






・・・と、いうことだ。














ちょっとした解説→果実=恋心、とか、愛、とか。あとはお察しの通りです。ハスタは果実に齧り付く。リカルドはそれを咎める術を知らない。
2008.03.12    水方 葎