「それにしてもまぁまぁこんな大所帯での行動なんて久しぶりなんだポン★何せ孤独を愛しちゃう俺だから戦場では俺以外の奴が立ってるだけで吐き気がしてたっていうか硝子細工のように繊細な俺の胸焼けを治める為に血を血で洗い流していた訳なのですけれどもそういえばあの時からリカルド氏だけは俺の傍に立ってても別に何とも否寧ろ」 「黙れ」 * 密室不協和音 * 苦労してハスタにフードマントを被せ、無事集合してガラムの宿へ入り込めた一行は部屋割りという問題に直面していた。船の問題で本日は宿の宿泊を余儀なくされた…までは良かったのだが、時間が時間だったので部屋はたったの2つしか取れていない。とりあえず男女で分かれて荷物を置いていた先発組代表であるアンジュが、手中の鍵を揺らしてみせた。 「やっぱり男女で分かれるしかないよね?」 短時間だが深い睡眠を取れたらしいハスタが元気いっぱいに喋るのを、リカルドが黙らせる。その瞬間を見計らい、アンジュは当然と言える結果を口に出したのだが。 「ちょっと待てよそしたら俺たち皆同じ部屋か!?」 とんでもない、と寝起きの頭を働かせたスパーダが前のめりになる。俺たち、の中に入っているであろうルカは少し困ったような顔を作り、それでも仕方が無いと諦めているせいか異論は出なかった。 「じゃあ、スパーダ君だけコッチに来る?」 「う・・・」 アンジュの返答が分かって言っているとしか思えない提案に、スパーダはそれ以上の反論を飲み込まざるを得なかった。 普段ハスタの事となると一緒になってムキになるイリアも、今回ばかりは自分に関係ないとそっぽを向いている。裏切られた気がしてスパーダはギリリと小さく歯軋りを立てるが、誰に気付かれることもなく部屋割りは決定していった。 「じゃあ、リカルドさん。部屋の鍵はルカ君に渡してありますから。」 「承知した。夕飯はどうした?」 「私達は先に済ませちゃいましたけど、リカルドさん達のはルームサービス頼んでおきました。」 「すまないな。」 軽めのが来る筈ですよ、と微笑むアンジュ。 時間は既に宵の口に入っていたので、先発で火山を出たメンバーが食べ終わっているのは当然のことだろう。正直これ以上3人で町へ繰り出す、などという事はしたくなかったので、リカルドはアンジュの好意を有難く頂戴した。 「おい、ハスタ。行くぞ。ベルフォルマもだ。」 花瓶に活けてある花を握り潰したハスタと、不貞腐れたままのスパーダに声をかける。図らずとも両者が背を向けている形になっているのを見て、リカルドは深い溜息を吐いた。空気の悪さを読んだルカが、とりあえずスパーダに声をかけている模様だが、それでも機嫌悪そうに部屋へと歩き出すスパーダに頭を抱えてしまう。 ため息を吐きながら、女性陣が部屋に入っていくのを見届けたリカルドは再度ハスタに声をかけた。 「店のモノに手をかけるな。ふらふらするな。置いてくぞ。」 付いて来ないならば知るものか、と踵を返すとようやくハスタから返事が聞こえた。 「リカルド氏と一緒のピンクな部屋じゃねーの?」 「・・・とりあえず一緒だろう。」 「二人っきりじゃねーじゃん。なぁなぁなぁなぁ、これって反故じゃね?」 「お前は"二人っきりで同室"とは言っていなかっただろう。よって、反故にはならんな。」 「しかもよりによって緑と一緒とかさー、コレ絶対新人苛めだぜ、まんまとハメられた可哀想なオレ!…イヂメ、カッコワルイ。」 リカルドの言葉を無視しながら、ぶつぶつと文句を吐くハスタ。 これ以上相手をしていられるかとリカルドが歩を進めだすと、まるで雛鳥のようにハスタも歩を進める。 何故自分ばかりがハスタの面倒を見なければならないのだろうかとリカルドは思う。しかし傭兵の頃からの変わらぬそれに、最早諦めに似た気持ちが生まれてくるのも事実だった。 「(まさか奴より年下のガキ共に面倒を押し付ける訳にもいくまい…)」 それに、何だかんだ言って懐かれているのは自分で、今のところ彼を一番理解しているのも自分であると思う。…勿論、意図してそうなった訳ではないが。 「リカルド氏、オレなんだかムラムラと一次欲求が」 「黙れ」 部屋には足早で戻ったらしいスパーダとルカがベットに腰掛けて何やら真剣に話し合っていた。というよりもスパーダが何かを一方的に喋っているだけなのだが。 どうせ愚痴が大半だろうと検討をつけたリカルドは、話が途中だったようなので軽く手を挙げただけで声をかけようとしなかった。これ以上何か喋って面倒を起こすのは癪だ。 しかし後ろを付いて入室した男にそんな気遣いが出来るはずもなく。 「んん…お坊ちゃまと、・・・誰だっけ、マリモマン?」 「誰がマリモマンだテメェ!!」 「せっかく名前覚えようと頑張った新人に対してその仕打ちはとても人間とは思えぬよって万死に値するんだぴょん★」 「上等だ、追い出してやる!!ってか、殺ってやる!!」 分かり易い挑発(但し本気かもしれない)に、いとも簡単に反応するスパーダ。 「落ち着いてよスパーダ、今彼を追い出したら宿が大変なことになるよ・・。」 ルカがとりあえず宥めに入るがフォロー出来ているかというと、否だ。二人の間に割って入っているものの、オタオタと手を振るだけに終わっている。 そんな中、荷物を下ろしたリカルドが二人の台詞の合間を縫ってポツリと呟いた。 「これ以上騒がしくしてみろ…。全弾くれてやる…。」 「・・・。」 「・・・。」 精神的なものを含めリカルドの疲労はピークに達していたようで、低く唸る様に呟かれたそれは二人を黙らせるのに効果覿面だった。静かになったことに安堵するルカは、肩の力を抜いて手を下ろして荷物の整理へと戻る。 固まったままの二人に半眼の視線を投げたリカルドは、一瞥しただけで背を向け、割り当てられたベットへと腰掛けた。 場が凍てつき、空気が止まったのは何分だっただろうか。暫くしてから、時が戻ったかのように動き出す二人。あくまで、慎重に。そうして細く息を吐いたスパーダに被さるように降ってきた嘲笑。バッと顔を上げればニタニタと哂うハスタの姿が目に入る。元来頭に血が上りやすい性質のスパーダは黙っていることなど出来ずにハスタへ食って掛かった。 「っのヤロ…」 「リカルド氏ィ〜、この土が付いたレタス煩いんだぽん★」 「土って何だよ土ってこの帽子の事 「あ」 ハスタの視線に気付き思い切り帽子を脱ぎ捨てたスパーダだったが、台詞を途中で遮られる。何事かと移動した彼の視線を嫌々ながら追えば、此方に背を向けたままのリカルド。スパーダは首を捻るが、ハスタは既にスパーダの事を眼中に入れていないのか、リカルドの方へ足音を立てずに歩み寄る。 「おい!」 軽々しく近付くなだとか、また妙なことを企んでいるんじゃねェだろうな、という言葉は彼の口を出ることはなかった。 目を軽く見開いたまま口を閉ざしてリカルドの正面まで回りこんだハスタは、 数回瞬きをして、穏やかに微笑んだ。 荷物を片付けながら様子を見守っていたルカも、喧嘩腰のままなスパーダも、思わず息を呑む。 「・・・。」 しぃ。 ハスタが瞳だけを動かし二人をとらえた後、口元に人差し指をそっと立てる。 あんぐりと口を開けたままだったスパーダは、まさかと思い眉を寄せる。と同時に、ハスタが視線を戻し、再度その表情を覗き込んで満足そうに笑う。愛しい人を見守るように。優しく、柔らかく。 そう、そのハスタの様子から察するにリカルドはきっと浅い睡眠へ堕ちている。 「・・・っ!」 見た事の無いハスタのその雰囲気に思わずスパーダは唇を噛み締めた。 眠るリカルドに気付けなかった事、ハスタが予想以上にリカルドを想っている事、自分がまるで相手にされていない事。色々な感情が混ぜ合わさってしまい、しかし今この場で自分に何が出来る訳でもなく、仕方なくその場面に背を向けた。 「・・・オレも何だか疲れちゃったんだぷー。」 それ以上スパーダが自分に絡んで来ない事に多少の物足りなさを感じながらも、ハスタはリカルドの正面位置の壁を背に床へ座り込む。そうしてハスタは、余程疲れていたのかこくりこくりと船を漕ぐリカルドを眺めながらルームサービスを待つ事にしたのだった。 「(どうでもイイけど、そろそろルームサービス来るんじゃないかな…)」 ルカの予想が的中してリカルドがその音に起き、二人の男がブチ切れるまであと数十秒。 リカルドの事には敏感なハスタ! ハスタが無邪気に笑ったりしたらカワイイと思うのですがどうでしょう(病気) きっとハスタは滅多に見れないリカルドの寝顔が見れて嬉しかったんじゃないかな! 2008.03.02 水方 葎 |