*ハスタは仲間になりたそうな目で此方を見ている!!*(←正式タイトル)





「却下だッ!!」
ケルム火山の火口付近、例によって殺人鬼と喜ばしくない再会を果たしてしまった一行は、ハスタを追い詰めたところだった。
しかし諦めるでも命乞いでもなく、ただ己を仲間に入れろと一点張りのハスタに、スパーダがすかさず言い放った。
「センス無太郎は黙っていいピョロよ。ほらぁ、リカルド氏、今ならお買い得だよぉ?何とこの槍も一緒に付けちゃう!」
「・・・一応皆の意見を聞こうか。」
ハスタの額に直接銃を突きつけたまま、リカルドはハスタの台詞を総スルーして皆に振る。
「あたしはヤーよ!!何っでこんなヤツなんかと!!」
「だろ!?俺も賛成できねーな!!」
嫌悪感を露に吐き捨てるイリアに賛同するスパーダ。まぁ、当たり前な反応だろうと思っていたリカルドは他のメンバーにも聞いてみる。
「僕は…別にどっちでも。危害を加えないのなら…。」
「はぁ!?ルカ、アンタ本気で言ってんの!?」
「そうだぜルカ!!いきなり後ろから刺されるかもしんねーんだぞ!?」
弱弱しいルカの意見に、反対派の二人が食って掛かる。詰め寄られて後ずさりしたルカだったが、反論は忘れない。
「そ、そりゃ変な人だけど…まだ現世で悪い人って決まったわけじゃないし、強いし…。」
「さっすが銀髪の少年は頭のデキが違うねぇ〜その通り俺はイイコだよっ!」
「良い子は刃物を片手に表敬訪問したりしないがな。」
「リカルド氏のイケズぅ★」
口を尖らせるハスタを再度スルーし、まだ騒ぎ立てるイリアとスパーダを尻目にアンジュとエルマーナへと向くリカルド。ルカは哀れ、二人の捌け口の餌食だ。
「・・・二人はどう思う?」
いささか声量が大きい怒声をBGMに、アンジュは形の良い眉を寄せて困った顔を作る。エルマーナに至っては肩を竦めて首を傾げている。まだ齢11なのに、そのポーズがやけに大人びてみえるのは気のせいだろうか。
「ウチは分からんなぁ〜…どっちでもええんちゃう?元々転生者集めて旅しとったんやろ?なら退けモンにすんの可哀想やん。」
「私も半々ね。いつ邪魔されるか分からないから監視って意味で手元に置いておくのもアリだと思うし。戦闘は任せちゃえばいいじゃない?」
ただ、裏切らないとは言い切れないから、そこは何とも言えないけど。そう続けるアンジュ。
断固反対2人、どっちでも良いが3人。さてどうしたものかと悩みながら、リカルドはルカを攻め続けている二人を落ち着かせる事にした。
「アニーミ。ベルフォルマ。その辺にしておけ。これ以上の厄介事を回避するために手元に置いておく案も出ているぞ。」
その言葉に過剰に反応した二人は、標的を変えてリカルドへと向き直った。
「これ以上の厄介事ったって、ソイツ自体が最高の厄介事よ!」
「回避するどころか厄介を傍に置いとくよーなモンじゃねェか!!」
「それに危なくない保障なんてどこにもないじゃない!」
キャンキャン噛み付いてくる二人にリカルドは頭痛を覚える。どうしてこんな面倒な話し合いになっているんだと元凶を見てみれば、ピンクの塊は額に銃を突きつけられたまま、話に飽きたのか小さな砂山を作り一人棒倒しをして遊んでいた。勿論小枝などこの火口付近にあるはずもなく、そのてっぺんに差されているのは細長い小石だが。
「んー、俺、安全にしてるよー。絶対攻撃しないよー仲間じゃないかー。」
目は真剣に砂山へと向かっている。
そっと両手で砂を取り、己の方へ引き寄せて確実にその量を減らしていた。
「貴様との口約束なんぞ、無いのと同じだ。」
「つか仲間っつーな気色悪ィ!!」
苦々しげに言い放つリカルドと、間髪いれず突っ込むスパーダ。
だがハスタは(今までのことを考えると当たり前だが)そんな二人に傷付いた風もなく、砂をいじっていた手をピタリと止めてリカルドを見上げた。
「じゃー交換条件で。これをしてくれたら、俺絶対ぜぇ〜ったい、ここに居る何とかさん達を傷付けたりしないよ!」
「・・・・・いってみろ。」
屈託の無い笑みを向けられ、根は人が良いリカルドは警戒しながらも聞き返す。

「これから宿に泊まるときは、俺とリカちゃんを同じ部屋にして欲しいんだぷー。」

キャッキャと一人ではしゃぐハスタを他所に、皆その台詞に色々な意味で固まっていた。
「どうして俺が貴様と同じ部屋n」
「誰がンな事許すかよ!!!死んで転生の輪廻から外れろ!!!」
いち早く回復したリカルドが呆れ半分に台詞を吐くが、途中からスパーダにより阻止されてしまった。
「えー?エエんちゃう?被害者はリカルドのおっちゃんだけで済むんやし。」
「それもそうね。彼もここまでリカルドさんに執着してるんだから、滅多な事なんて起こさないと思うし。」
単に自分へ被害がこなければ別に良いという、ある意味無責任な頷き方ではある。
あれほど反対していたイリアでさえも悩んでいるのだ。
「また急に出てこられて邪魔されてもメンドウだし…。かと言って、ずっと一緒は嫌・・・でも相手はリカルドがしてくれるし。」
そんな事を一人ブツブツと呟き、皆がその声に耳を傾けたと同時に彼女は晴れやかな笑顔で顔を上げたのだった。
「うん、良いんじゃない?」
「はあああああ!!?」
とても爽やかな笑顔で一人解決顔のイリアに、スパーダが声を上げる。
さっきまであれ程断固反対していた人物が手の平を返したような態度に、裏切られた気持ちになるスパーダ。
「近い未来とリカルドの被害を天秤にかけた結果よ。」
「お前あんだけ嫌がってたじゃねーか!!」
「うっさいわねー、女は現実的なの!妙なときに妙な邪魔されるよかマシかもしんないじゃない!?」
「っだよソレ!」
口を揃えていた先ほどは何処へ、二人はギャーギャーと言い争っている。
渦中の人物はと言えば、柔らかい火山灰での棒倒しは飽きたのか今度は地面をキャンバスにお絵描きを始めている始末。
「大体この先に何が起こるか分からないんだから、悪の芽は早めに摘み取るのが筋ってモンでしょ!?」
「だからってコロコロ意見変えてんじゃねェっつーの!背後から斬られたらどーすンだよ!」
「変な事しぃひんかったら、おもろいヤツで終わるんやけどなぁ〜」
「お、面白いかなぁ・・?でも、旅は賑やかになるよね。」
「う〜ん。この場合、賑やかって良い事なのかな?あ、でも戦闘は楽になりそうかも!」
これではまるでペットを飼うか飼わないかでモメている家族のようだ。
それぞれが好き勝手な事を言い出して収集がつかないな、と判断したリカルドはハスタへと向き直った。
「おい。」
「にゃー。」
「来るか?」
「!」
この一言に、今まで騒がしかった空気が一気に静まった。
ずっと俯いて砂いじりをしていたハスタでさえ、その台詞に目を見開いてリカルドを見つめている。
「何だ、その目は?・・・あと、口を閉じろ。」
「…だって、絶対ダメって言うと思った。」
「言って欲しいのか。言ってやろうか?」
「いやいやいやいや、それは自重しとくと大吉ぃ〜。」
ハスタ自身許可が下りるとは思っていなかったらしく、適度なところで退散していようとした。しかし一番の難所とも思えるリカルドが了承した事により願いが叶えられたのだ。
それが本当に嬉しかったのか、邪気の無い笑顔を浮かべてハスタは立ち上がり砂を払う。槍を拾い上げたところで、やはりスパーダの反論が飛んできた。
「ちょ、本気かよ!?絆されてんじゃねェだろうな!?ペットとは訳が違うんだぞ!?エサも水もやらなきゃなんねェんだぞ!?」
「混乱するな、ベルフォルマ。試用期間を設けようと思っただけだ。2〜3日置いてみて、妙な事をするなら撃つ。」
「だからって!!」
「まぁまぁ、緑なんとか君?リカルド氏もああ言ってる事だしぃ〜★」
「テメェは黙ってろ!!!」
一人ムキになるスパーダだったが、皆それぞれリカルドの発言に納得したのか、下山支度を始めている。
納得したというよりは、火山の暑さに我慢の限界が来た、というほうが正しいだろうが。
「スパーダ、行くよ?」
「ちょっと待て俺はまだ許可出してねぇぞ!?」
先頭きって歩こうとするルカがスパーダに声をかける。
ハスタとリカルドでさえ歩き出そうとしているのに、一人記憶の場に突っ立って一歩も動こうとしない彼の姿はまるで子供のようだ。
「ベルフォルマ。何でもいいがとりあえず下山するぞ。」
「そうそう。暑いと冷静な判断を下せないかもしれないしね。」
「待てよ!!リカルド!アンジュ!」
平然と下山を始めるメンバーに、信じられないという顔で一人佇むスパーダ。エルマーナに至っては、一刻も早く火山から出たいのか、既に姿すら見当たらない。
地団駄を踏むほど子供ではなく、かと言って己の感情を押さえて理屈を飲み込めるほど大人ではない。
リカルドとの距離を縮めようと努力している彼にとって、ハスタという存在は邪魔すぎた。だがライバルなどとは呼びたくないのは彼のプライド故か。
やけにチョロチョロとリカルドの周りをウロつくハスタへ、射殺すほどの視線を送るスパーダだった。



「歩けるのか?」
「心配してくれるのリカちゃん!」
「こんな山道で倒れられたら厄介だからな。…倒れたら置いていくが。」
「いやんツンデレ★」
「撃つぞ。」
スパーダの視線を物ともせず、ハスタはとても楽しそうにスキップを始める。山道でスキップとは妙に器用な奴だと呆れながらリカルドは溜息をついた。
「全く、どうしてこんな事になったのやら・・・。」
面倒事は御免だと一人ごちると、少し前の岩場を足取り軽く降りていたハスタが急に振り向いて一言。
「あー、そうそう、言い忘れてた!」
「今度は何だ。」

「ベットはダブルでねん♪」
「調子に乗るな!!」

リカルドが吐き捨てるように言い放つと、追いついてきたらしいスパーダが両者の間に割って入る。
「(もう少し静かに旅が出来ないものなのか・・・?)」









リカルドの願いも虚しく、これからこの一行は余計に騒がしくなるだろう。





こんなルートがあってもいい気がするんだけど。
大人の事情(ゲームバランスなどの)が絡んでくるし、元々敵役だから無理なんだよな…。
せめて(?)此処ではハスリカ←スパで!おや、いつもと逆じゃないか!スパーダの奥手!
あと、ここのハスタはたまに素直になります。ブタバルド?知らね、知〜らね!

2008.02.03    水方葎