赤い果実 「・・・楽園の果実を食ったのは、本当に罪だったのか?」 その呟きに似た問いに、まず"どこかで聞いたことのある問いだ"と思った。 おぼろげな記憶を掘り起こすのは面倒だったので、記憶を辿ろうとした思考を元に戻す。 目の前で、ベルフォルマが此方を見つめている。 「後世に残った人間が"罪"だと言っているから、罪なんじゃないのか。」 実際、それを罪かどうかを判断するのは此方ではない。 勝ち残れば正義、善悪を判断するのは個人に非ず。 人間社会はそうやって成り立ってきた部分がある。 答えに納得したのかは知れないが、ふぅん、と相槌を打った後に再度質問を投げられる。 「例えば、平和すぎて退屈な所に、あんたは居るとする。」 「そこへ、"絶対に食べてはならない"と、美味しそうなリンゴを渡された」 「 ど う す る ? 」 一瞬、目の前が真っ赤になった気がした。 「見た目、普通のリンゴならば、きっと」 捨 て る 。 「甘くて美味しいかもしれないのに?」 「そうだな。」 それは、きっと稚拙な防衛術。 「それでも、・・・もしも、手にした瞬間気になって仕方がなければ…」 「なければ?」 「割ってみる、くらいするかもしれん。」 「不器用だな。」 「用心深いと言え。」 何も思わずリンゴを口に出来るほど、若くないんでな。 普段年のことを口にするのは躊躇ってしまうが、こういう時に使えるのは悪くない。 「お前はどうなんだ。」 ふと、会話の続きとして、当たり障り無く問い返す。 「俺か?」 待ってましたと言わんばかりの瞳に、今までの話はただの伏線だったのかと呆れてしまう。 「俺なら、手にした時から抱え込んどくね。」 甘い甘い、その果実を。 「いつでも、食えるように。」 視界に、ベルフォルマの顔しか映らなくなる。 ああ、こいつが 果実を食べるのは きっと時間の問題だ。 ちょっとした解説→果実=恋心、とか、愛、とか。あとはお察しの通りです。スパーダはきっと愛しそうにキスをする。まだ応えないリカルド。 2008.03.12 水方 葎 |