* すれ違い過多 * とある日の午後、扉を軽く叩く音が響いた。 「ちょっと良いか?」 「あら?どうしたの、スパーダ君。」 本日は金銭的な余裕があり、「少し位贅沢をしても構わないだろう」と年長者から許しが出たため宿は一人一部屋で取ってある。日が沈む前に街へ入り、各々羽を休めている時間帯だ。 アンジュも例に漏れず、狭いが十分寛げる部屋で、宿に備え付けてある軽装になり本のページを捲っていたところだ。軽いノックの後に現れたのはスパーダで、アンジュは彼が部屋を間違えたのではないかと首を傾げる。 「リカルドさんなら隣よ?」 丁寧に右隣を指差してやるが、スパーダは眉を寄せて否定する。 「間違えてねェよ。ちょっと聞きたい事があってな。」 「私で答えられるなら、何でもどうぞ。座って?」 アンジュは己が腰掛けているベットの向かいにある、小さな丸イスを勧めた。少し考えた後、スパーダは後ろ手にドアを閉め、勧められるままイスへと腰掛けた。アンティークかと思わせるようなそれが重みで少し軋む。 「悪ィ。本読んでたのか?」 落ち着きが無くキョロキョロしていたスパーダが、ベットの上に放り出された分厚い本に目を留める。 「そんな気配りするなんて、スパーダ君らしくないわね。どうかしたの?」 が、逆に不信感を募らせてしまったらしく、アンジュが颯爽と切り返してきた。これにはスパーダも言葉につまり、否定する事も無く口を閉ざして俯いた。 「リカルドさんと喧嘩でもしたの?」 「・・・そんなんじゃねェ。」 「またリカルドさんに子ども扱いされた?」 「・・・・・別にィ。」 「なら、リカルドさんの…」 「あぁもう、何であのオッサンの事ばっかなんだよ!」 聞きたい事と言ってはいたものの、限りなく相談に近いだろう。そう思ってアンジュは、十中八九自分の傭兵の事だと目星をつけ質問を重ねるが、声を荒げたスパーダによって阻止される。しかしそれはアタリですと顔に書いてあるような反応の仕方で。 「違うの?」 ニッコリと言葉で確認をとってやれば、スパーダは上げかけた腰を下ろし、再び俯いた。 しかも今度は溜息付きだ。 さて、どうしようかとアンジュは悩む。 このまま放置しても良いのだが、もうすぐ夕飯の時間だ。それまでには何とかしたい。自分から切り出せないのなら、と手伝えば先程みたいな事になり、余計にダメージを喰ってしまうだろう。やはり自分から言わせなければならない。そう結論を出したアンジュは、余計な言葉を省きスパーダを促すだけにした。 「ほら、スパーダ君。言わないと分からないでしょう?」 「・・・気を、悪くすんなよ。」 ようやく顔を上げたスパーダが、真顔で言い放つ。 とりあえず頷いておいたアンジュに、スパーダは意を決したように口を開いた。 「傭兵の仕事って、どっからどこまでだ?」 「・・・え?」 「ほら、最近つか今日も言ってたじゃねーか。雇い主と傭兵の立場ってやつ。首飾りを話題に出してよ。」 なるほど言われてみれば、最近首飾りの値段をネタにリカルドをからかっていた覚えがあるアンジュは、その事かと微笑んだ。 「なんだ、そんな事だったの。」 「そんな事じゃねェよ…。確かに俺の家でも見たこと無い位高価そうなネックレスだったけどよ、やっぱり傭兵ってモンはソレで何でも言う事きくもんなのか?」 行儀悪く前のめりになるスパーダ。 アンジュは困ったように眉を寄せ、顔に手を添えた。 「それは人それぞれね。彼は仕事熱心な人みたいだから、雇い主には忠実だと思うけど。」 例えば契約金だけで適当に動いて、あとは知らん顔をする傭兵だっている。下手すれば持ち逃げ、なんて話もザラである。逆に傭兵とはそんなもんだと割り切っていたアンジュは、リカルドに会って考え方を変えたのだ。 「だよなぁ…」 「でも、本人に聞いたほうが早いんじゃない?」 その方が彼の部屋に行く口実も出来る。そう添えてやるが、スパーダは一層顔を暗くした。 「まぁ、そうなんだけどよ…。今の件を含めて、アンジュに聞きてェ事があって。」 「他に?」 今のは本題ではなかったらしい。まだ渋るスパーダに、そこまで言い辛いことなのかとアンジュは逆に心配になる。それも、今の会話を含めてとなると、尚更訳が分からない。 「リカルドのヤツには聞けねェし、でもアンジュに聞くのも失礼だとは思ったんだけどよ…。」 「別に構わないけど?ほら、言って?」 ゴクリと、スパーダが息を呑む音が聞こえた。 「・・・夜、の、相手を頼んだり…とか・・・」 「あぁ、何だ。気になってたの?」 段々小声になるスパーダに笑みが漏れるアンジュ。 「そりゃ・・・。」 どこか不貞腐れたような、拗ねた様な、唇を尖らせて落ち着き無くごそごそするスパーダだった。 そんな彼にそっと言い放つ。 「たまーに、ね?」 「!?」 皆にはナイショにしててね、と人差し指を可憐な唇に当て、微笑む聖女。スパーダは思い切り立ち上がった。 「や、やっぱり、そういう事もあんのか!?」 「そうね…リカルドさんも今までに誘われた事はあるって言ってたし…。普通にあると思うけど?」 スパーダがショックを受け、ガクリと床にひざをつく。しかしアンジュは、そんなにショックを受けるほどかと内心首を傾げた。ブツブツと何事かを呟きながらよろめき立つスパーダは、ハッキリ言ってあまり見たくない。 「ほら、私だって無理矢理誘ってる訳じゃないのよ?多少は雇い主の立場っていうのを示すときもあるけど。」 「…けどよ、リカルドは、俺が…」 「そんなの皆知ってるけど…たまには貸してくれてもいいでしょう?」 リカルドに対してスパーダが猛烈にアプローチしているのは、正直見ていて飽きない。 だが、たまにリカルド自身スパーダにかかりきりな時があり、羨ましいと思ってしまうアンジュだった。そんな時はわざと邪魔しに入ったり、リカルドに無理難題をふっかけて遊んだりはするのだが。 そして、それとは別に夜も少し借りる時がある。お互いの親睦を深めるためという建前で密会をしているのは確かなのだ。 「アンジュんトコにいくのも…同じ男として分からなくもねーけどよ…。」 「逆を言うと私しか居ないしね。」 「旅してるとそんな暇ねェしな…ましてや宿なんて…。」 「そうね。色々溜まっちゃうもの。だからたまにはいいじゃない、見逃して?」 からからと明るく笑うアンジュを他所に、スパーダの表情は暗い。とても暗い。17歳にもなる男が涙目だ。 「けどっ…けど、俺だってリカルドと・・!!」 「あら、駄目よ。スパーダ君にはまだ早いじゃない。」 「―!!!」 アンジュの一言に、ガン、と頭の上に石が落ちたかのような衝撃を受けるスパーダ。彼自身石になったかのように微動だにしない。そんな言葉でショックを受けているようではまだまだ子供ね、なんて思うアンジュを他所に、暫くしてスパーダは力なく立ち上がる。 その覇気の無さに口を開いたアンジュだったが、それを制するようにスパーダが持ち上げた拳に力を込めた。 「いくらアンジュでも何処の馬の骨とも知らねェ雇い主でも、リカルドは渡さねェ!俺がどんだけ我慢してたか…!!」 「・・・・・・我慢?」 「俺だって童貞じゃねーんだ!ヤってやるー!!」 高らかに宣言し、部屋を飛び出すスパーダ。すぐに隣室のドアが勢い良く開かれた音が聞こえてくる。 同時に「リカルド、ヤらせろ!!!」という物騒な怒声も。 そこでアンジュはようやく間違いに気付いたのだった。 「ああ…その事だったのね。私、てっきりお酒の事かと思っちゃった。」 銃声が聞こえてくるのも時間の問題だ。 翌日・・・。 殴られた痕の残るスパーダと、その話をネタに笑い転げるメンバー(主にイリアとアンジュ)。 そして終始無言のリカルドは、きっと今回一番の被害者だろう。 リカルド照れてればいいよ! ルカは同情と哀れみの目でスパーダを見てればいい。 そしてエルマーナは"我関せず"を覚えた! 何か本当、文章が書けないなー 分かりづらいというか、文字運びが下手というか。 言葉の引き出しが少ないorz 2008.01.23 水方葎 |