* 不機嫌街道まっしぐら *



「俺を子供扱いしないでくれ。」

17のガキが何を言う、という言葉は寸でのところで飲み込んだ。
だが代わりになる言葉を見つけられずに、結果、リカルドはスパーダの台詞に無言で返す事となる。
「・・・聞いてんのか?」
スパーダは魔物の血液が付着した剣をブンと払い、再度リカルドへと向き直る。
戦闘終了後、リカルドは直ぐに銃の具合を確かめるのだが、それをする事も無くただスパーダを見詰めた。
「(・・・反抗期、か?)」
至極冷静な判断だ。
だが目の前の軽い興奮状態に陥っている人間にそれを説いても逆効果だろう。
「子供扱いなど、していない。」
「へぇ〜、そ〜か、ふぅ〜ん」
言うが否や、ジト目の低音で返される声。スパーダから掛けられる会話はいつも適当に切り上げられていたのだが、今回はそうもいかないらしい。どこか苛立ったその声に、今日は機嫌が悪いのかと分析してみる。
「先程の戦闘で、俺が何かしたか?」
「子供扱いだっつってんだろ、オッサン。」
「・・・。」
まるで会話にならない。
既に他のメンバーは戦闘の片づけを手早く終えて先に歩き出しそうとしているのに、この前衛は何をやっているのだろう。
「話なら後で聞く。ほら、歩け」
「勝手に話終わらせるんじゃねーよ!」
「話さないのはソッチだろう。」
「話してんじゃねーか!」
堂々巡りの会話に疲れてきたリカルドは腰に手を当て、一つ溜息をつく。
が、何故かそれすらスパーダの怒りに触れる動作だったらしく、ピクリと眉を動かした。
「・・・俺は。」
漸く話す気になったか、と言うのは心の中だけにしておこう。
「・・・っ俺はアンタのフォロー無くても、一人でも倒せた!守られるなんてごめんだ!」
「・・・・?」
やはり先程の戦闘を言っているらしいが、リカルドは肝心の戦闘内容をあまり思い出せない。ウルフ系が数匹居て、いつも通り前衛と後衛に分かれて戦っていた筈だが。
「ちょっと待て、何の事を言っている?」
「アンタに向かった奴が一匹居て、俺がそいつを倒そうと追いかけただろ!?」
「あぁ、そういえば居たな。」
後衛の隙を狙ったのかウルフが駆け寄ってきていたな、と思い出す。だが別段物凄い危機だったとか、命が危険に晒されたという覚えはない。リカルドが数発撃ち込んで怯んだところへ、駆け寄ったスパーダがトドメをさしただけの事・・・だったはず。
それをスパーダはどう捉えてしまったのか。
「俺一人でも倒せたっつってんだよ!俺に魔物一匹任せられない程ハラハラしてたってのかよ、アンタは!?」
「フォローを入れるのは当たり前だろう?」
「別の奴に入れりゃいいだろうが!?」
「俺を標的にしていたのに、か?」
「・・・。」
言い返される言葉に分が悪くなってきたのか、自分が無茶な事を言っていると自覚してきたのか、段々と大人しくなるスパーダ。終いにはバツが悪そうに視線をキョロキョロと泳がせ、盛大な舌打ちをしてリカルドに背を向け歩き出す。
その完全な反抗期の態度のスパーダに、怒る気も失せたリカルドは再度小さく溜息をついた。

「まぁ…、何かと突っ掛かりたい年頃なんだろうな。」

「違うと思うよ。」
「!?」
いきなり背後からかかった声に、思わずビクリと身を竦めてしまう。振り向けば何処か遠い目をしたルカだったから良かったものの、魔物だったら傭兵失格だな、と眉を寄せた。
気配を断ってまで背後に回りこみ、かけられた台詞はリカルド自身の独り言を否定するもので。何故かと問わざるを得ない。が、ルカは先程の彼とは違い細々と喋り始めてくれるので、その手間は省けそうだ。
「スパーダはね、きっとリカルドの事が気になるんだよ。だって戦闘中、チラチラチラチラ後衛を気にしてるもん。」
「後衛など、他にも要るだろう。セレーナやアニーミが。」
暗に、そこら辺の二人に恋をしているのではないかと言ってやっても、ルカは静かに首を振るだけである。
「絶対リカルドだよ。リカルドに魔物が向かうと、自分が相手してた魔物を僕に任せて、すぐソッチに向かうんだ。」
遠い目が伏目に変えられ、苦労させられていたのだなと他人事ながら思ってしまう。
自分ではスパーダに気に掛けられている自覚はないものの、もしもルカが言う事が本当ならば守られているのは自分ではないだろうか?などと思ったリカルドは、先程のスパーダの台詞の理不尽さに肩を竦めた。
「この辺りの魔物はまだ大丈夫だけど…もう少し進むと、スパーダに置いてきぼりされるとキツイんじゃないかな、って思って…」
どうやらルカは、主にそれが言いたいらしかった。確かに前衛が急に一人抜けるように後衛フォローに行くのは厳しいものがあるだろう。
「分かった、俺から少し言っておこう。」
「うん、ありがとう!」
スパーダとリカルドの関係も気になるが、まずは魔物に集中しなければならない立場のルカは、用が済むと前へ駆け出していった。あんな子供に前衛を任せてしまっている事に今更後悔を抱きつつ、リカルドもまた、小走りでスパーダへと追い付くのであった。彼はまだ機嫌が悪いのか、それともリカルドと話をしたくないだけか。隣に並んだリカルドを一瞥しただけですぐに前を向く。幸い見通しが良い草原地帯なので、周囲に魔物が居ない事は知れるので長期戦になっても問題はないだろう。
風は揺れるように優しく吹き、こんなにも良い天気だというのに何故自分は子供の機嫌を取らなければならないのかと思うリカルドであったが、今後戦闘に関わる事の為だ。そう己に言い聞かせて話しかけた。
「ベルフォルマ。」
「っだよ。」
「いい加減機嫌を直せ。」
「機嫌悪くなんてねぇっつーの。」
どこからどう見ても悪いだろう、と言ってしまえば再度堂々巡りになってしまう。
それだけは避けなければと思ったリカルドは、言いたい言葉をグッと飲み込んだ。

「お前を信頼してるんだ。」

「っはぁ!!?」
ポツリと言ってみた言葉なのにスパーダの反応がやけに大きくて、言った本人のほうが焦ってしまう。見ればスパーダは立ち止まり、呆けた顔でリカルドを見詰めていた。…というより凝視に近い。
「・・・何度も言わせるな。」
間違った事を言ったかと思い、リカルドは苦々しく言い放つ。もしかしたら信頼なんて言葉は迷惑だったのかもしれない。だがスパーダは、今の言葉は聞き間違いではないのかと繰り返し何度も尋ねてくる。
「本当か?あんた、いま、信頼してる、っつったのか?」
「・・・・。」
「なぁなぁ、答えろって!俺の聞き間違いじゃないよな?」
「…信頼している、そう言ったんだ。」
いい加減煩くなってきたので再度言い聞かせるように言うリカルド。するとスパーダはその言葉を噛み締めるかのようにゆっくりと頷き、リカルドの前に出る。
「何だよ、アンタ。戦闘で俺の事信頼していないような素振り見せといて。ったく…」
「打ち込んで足止めしておけば、お前が追いついて来そうなのが見えたからな。」
本音を言えば、撃ち殺すつもりで撃っていたところにスパーダが追いついてきただけなのだが。今回はこうやって丸く治めたほうがいいのかもしれないと思ったが故の配慮だった。戦闘では敵の息の根を止める事に集中するので、パーティの心情や機嫌など一々構っていられないのが現実だ。
「ベルフォルマ。後衛のフォローに入るのは嬉しいが、きちんと前衛の役割を果たしてからにしろ。ミルダが迷惑している。」
少し機嫌が良くなったらしいスパーダに、今しかないと本題を切って出す。
するとスパーダは、しまった、とバツの悪そうな顔をした。
「あー、悪ぃ…。」
「その台詞はミルダに言うべきだな。・・・まぁ、本当に後衛が危険になれば、お前の名を呼ぶ。それまでは俺を信頼していろ。」
「・・・あぁ、分かった。」

寧ろ後衛にまで敵を行かせねぇよ、瞬殺してやる。と不敵に笑うスパーダに安心したリカルドは、戦闘開始と同時にシャープネスをかける事を約束するのだった。

そうしてスパーダの機嫌が良くなり、且つルカの不安材料も取り除けた事に安心したリカルドは、何故スパーダが戦闘中に自分ばかりを気にするのかを聞き忘れてしまっていた。
結果をルカに報告したリカルドが、「で、一番大事な事は聞けたの?」というルカの問いに、首を傾げたのは言うまでもない。







今回は、進歩ナシかなぁ・・・?(byルカ)





クリスマスイブのスパリカ絵茶、楽しかったです…!
お相手して下さった皆さん、有難うございました!
当サイトではいつも通りの二人で申し訳ありませんが(何の捻りもなく)、お土産とさせて頂きます★
参加者の方のみ煮るなり焼くなりお好きにドウゾ!!
字書きには…これくらいしか出来る事が・・・!orz

もし次回ありましたら、そのときはまた宜しくお願いします〜♪


2007.12.25    水方 葎