火山の名前が出てきたあたりの方は大丈夫です。
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「コハク。話がある。」 「どうしたの?クンツァイト。」 クンツァイトに呼ばれた少女は、いつもと変わらずに明るく振り向いた。 * 正直者の言葉 * カルセドニーのソーマを特殊エボルブして飛行ソーマにすべく、素材の一つとして緋眼石のペンダントの入手に成功した一行。次なる目的は煉獄竜のフレアホーンだったが既に日は落ちており、この時間に火山に近付くのは危険だと、休憩も兼ねて帝都にて一泊する事になった。 その夜。 宿での食事も終わり、後は各々部屋(今回は人数が多い為、男女で二部屋づつ取っている)で休むだけという時だった。割り当てられた部屋へ戻ろうとするコハクを、クンツァイトが呼び止めた。 そうしてコハクは、クンツァイトとヒスイ用に割り当てられた部屋へ足を踏み入れた。 「あれ、お兄ちゃんは?」 「隣だろう。シングに道具の事で話があると言っていた。」 同室の筈なのに不在の兄が居ない事が気になって訊ねるが、答えは簡潔なものだった。コハクはそう、と頷いてからベッドへと腰掛ける。ヒスイの荷物が枕元に置いてあるので、こちらのベッドはヒスイが使用予定なのだろう。家族独特の「お兄ちゃんのなら使ってもいいや」という気持ちが働く。 「・・・」 「どうしたの、クンツァイト。」 呼び出したにも関わらず、クンツァイトはなかなか口を開こうとしない。 だが、ヒスイが居ないタイミングで呼び出したということは、もう話の筋は見えているも同然だった。 「…お兄ちゃんのこと、だね?」 「・・・・肯定。」 珍しく、彼からの返事が遅れた。 「お兄ちゃんから、聞いた?私が、お兄ちゃんに質問した事。」 ピクリとクンツァイトが反応する。 先ほど返事が遅れたのは、「ヒスイから話を聞いた事を言ってもいいものなのか」という葛藤があったからなのか。それとなく話すか、芯を持って話すか、迷っていたからかもしれない。 しかし、コハクが切り出した事により、選択肢はなくなってしまった。 今更知らないフリをしてももう遅い。 「肯定。ヒスイから、聞いた。」 「そっか。」 厭うでもなく、コハクは頷いた。 「お兄ちゃんに、悪いことしたかな。意地悪な質問しちゃったから。」 「・・・コハク。」 「私、お兄ちゃんに信頼して欲しかった。」 ポツリと漏れたコハクの言葉。 一度出てしまえば、あとは塞き止める方法など、分からずに。 「お兄ちゃん、今まで私のせいで沢山大変な目に合って、自分の幸せなんて考えられずに、…私の事ばっかりで。」 「だから、クンツァイトとお兄ちゃんが、ただ仲が良いだけじゃないって気付いた時、凄く嬉しかった。」 「やっとお兄ちゃん、自分の事に目が向けれてるんだなぁ、って。」 「クンツァイトが相手っていうのは少し驚いた、けど、納得しちゃったし、それに。」 「昨日だったかな。二人がね、キス…してるのも、見ちゃったんだ。」 「それが、凄く自然だったから・・・。」 「祝福して、応援したいくらい、なのに。」 ぽつりぽつりと話される言葉はまるで涙のようだった。 二人を見守りたい、祝福したい。なのにそれが出来ず、歯痒いのだろう。 何も言わず、コハクの言いたいままにさせていたクンツァイトが漸く口を開いた。 「コハクの意志は、理解した。」 「クンツァイト…。」 「ヒスイは、コハクへ嘘を吐くのに罪悪感を感じている。だが、嘘を吐かずにいられない事をコハクならば理解していると察した。」 「・・・うん。ちゃんと、分かってる…。」 いきなり旅の仲間、それも同姓を妹に紹介出来る兄など居るものではない。 頭の中で分かってはいても、面と向かって嘘を吐かれるとスピリアが痛んで仕方が無いのだ。 身内だからこそ、言い辛い。 身内だからこそ、心配かけたくない。 それは兄も妹もお互いがお互いに持つ感情であった。 「・・・コハク。もう少しだけ、待っていて欲しい。」 「へ?」 クンツァイトの言葉に、ぽかんと口を開けるコハク。 ああ、こういう反応が似ているのはやはり血縁者だな、とクンツァイトは口元を緩めた。 「落ち着いたら、必ずヒスイは言うだろう。誰よりも、リチア様より先に。」 だから、待っていて欲しい。 ヒスイからの言葉ではなかったが、コハクは呆然と頷いた。 まるで青天の霹靂のようにその言葉はコハクの中に染み渡り、負の感情が渦巻いていたスピリアを消し去ってしまう。何もこのまま有耶無耶に、ずっと隠した状態でいる訳ではないのだと言外に言われ、安心する。 この旅が終わって落ち着いたら、その時は今度こそ嘘を吐かずに言ってくれるのかもしれないという期待がコハクの胸を占めた。 「・・・ホントかな。お兄ちゃん、言ってくれるかな。」 「自分が保証しよう。」 力強く返される言葉。 クンツァイトがそう言うなら大丈夫なのかも、と、コハクは小さく頷いた。確かに焦って問いただしても悪い結果しか目に見えていない。ここはクンツァイトの言う通り、ヒスイのスピリアが覚悟を決めるまで待っていても悪くなさそうだ。 「良かった。お兄ちゃんの相手がクンツァイトで、良かった。」 「?」 突然の言葉に首を傾げるクンツァイト。 少し笑って、コハクはその先を続けた。 「だって、クンツァイトになら色々相談出来るし、お兄ちゃんを任せても大丈夫な気がするもの!」 「そうか。」 「正直、ね。もしもリチアとお兄ちゃんが一緒になってたら、私、きっとリチアに嫉妬してたかも。"そこは私のポジションだったのに"って。」 その台詞を聞いてクンツァイトは少しだけ眉を顰めるが、それは決して咎める部類のものではなかった。寧ろ、今自分が目の前の少女に妬かれていないだろうかと心配しているような表情だ。 「大丈夫。クンツァイトはね、何ていうか…パズルのピースが当て嵌まったみたいに自然だったの。確かに取られちゃったっていう感じは少しあるけど、嫉妬とは違うから。」 「了解した。…コハク、感謝する。自分とヒスイの仲を認めてくれた事を。」 コハクの言葉に今度はクンツァイトが安心したようで、顰めていた眉は元に戻り穏やかな顔になっている。 いつの間にか(実際そのような間柄なのだが)、すっかりヒスイの伴侶のような言い方になっている事を微笑ましく思う。心から、兄の相手が温かいスピリアの持ち主で良かったと思う。こうして心配し、嫌味にならない程度に間へと入ってくれるのだから。 「ううん。感謝なら、私がしなくっちゃ。有難う、心配してくれて。クンツァイトに話を聞いて貰ったら、スッキリしちゃった。」 これからもお兄ちゃん共々宜しくね、という言葉に、クンツァイトは力強く頷いたのだった。 程なく雑談を進めていると、ヒスイが隣の部屋から戻ってきた。 入った瞬間目に入るコハクの姿に目を見開く。 「コハク?どうしたんだよ。」 「別に?ちょっとクンツァイトとお喋りしてただけだよ。」 いかにも含みがある言い方に、ヒスイはキリリと眉を吊り上げた。 「クンツァイト!テメ、人の妹に手ぇ出したんじゃねぇだろーな!」 その言葉に、クンツァイトとコハクは一瞬黙り、顔を見合わせて笑いを堪えた。 手を出された本人だけが何も分からないでいるのが可笑しくて仕方無い。 「何笑ってんだよ、クンツァイト、何か言え!」 「じゃあ私寝るね、おやすみ二人とも!」 真相を問い質そうと、喧嘩腰でクンツァイトの前まで歩んだヒスイ。だがクンツァイトはそんな彼をまるで相手にせず、コハクへ夜の挨拶を済ませたのだった。 「(早く・・・早く、ガルデニアをやっつけなくっちゃ!)」 いつまでも心配かけるようでは、到底兄の幸せは望めない。 心から欲する人と幸せになって欲しいから。 だからまずは目の前の脅威を取り払わなくては。 全てはここから、始まるのだから。 そうしてまた一人、戦いを終わらせる決意を新たにする者が増えたのだった。 難産すぎてどうしようかと思った…。コハクとクンツァイトって動かしづらい! でも両方ヒスイの事を想ってるのは確かなんだよ! この連絡、最初思ってたモノと大分形を変えてしまいましたが。これはこれで楽しんで頂けると幸いです…。 因みにクンツァイトは「昨日のキス」をコハクが見ていたのに気付いてました(^=^) 時間取れれば(盛大に)書き直したいモノNo.1です。 ていうかこの連作を書き直しt(ry 2009.01.25 水方 葎 |