寒い場所が終わったあたりの方は大丈夫です。
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「・・・クンツァイト、まだ起きてるか?」



それは、ゼロムによる里襲撃事件が終わり、里に泊まった夜のことだった。

ヒスイは久しぶりの己のベッドにも中々寝付くことが出来ず、上体を起こして彼の名を呼んでみた。



先程のコハクの問いが、頭から離れない。




* 嘘吐きの真実 *




「稼動中だ。ヒスイ、眠れないのか。」
「稼動・・・普通に起きてるって言えよ・・・。」
「起きている。ヒスイ、眠れないのか。」
訂正箇所以外、繰り返される問いの部分にヒスイは舌打ちをする。
喧嘩を売っているのかとも思うが、それを述べれば「喧嘩を販売?理解不能だ。」と、分かっている癖に分からない振りで返してくるのが目に見えている。結局素直に認めざるを得ないのだ。
「あぁ、眠れねぇよ。・・・折角ベッド譲って貰ったのにな。」
折角の自宅だ、ゆっくり自分のベッドで休みなよ。
そう言って客用の敷布団に潜り込んだシングは、既に安らかな寝息を立てている。
クンツァイトもシングに同意し、本当は必要無いのだが形だけ布団を借り、潜り込んでいる。
…筈なのだが、声は意外と近いところから聞こえてきたような気がする。
「・・・てめ、何してやがんだよ。」
暗がりに慣れてきた目を瞬かせて声の出所を探れば、やはり身近すぎる位置に紫の鎧が目に入る。
「自分は布団を使う必要が皆無だ。里の者の掃除する時間も少しは短縮される。」
「おまえなぁ。そーゆー事言うな、っつってんだろ。」
「本当の事だ。自分は自分を卑下しているつもりもない。」
何時の間に移動したのか、ベッドを背凭れに座り込んでいるクンツァイトに溜息を吐く。
「それに、オマエの事が気になった。」
「あ?」
「眠れていなかっただろう。目は閉じていたようだが。」
「・・・まぁな。」
今度こそヒスイは素直に肯定した。
「先程コハクに呼び出されてから少し考え事をしているようだが。」
「・・・。」
丁度その事で起きているかどうか分からないクンツァイトに声をかけたのだが、先に切り出されて思わず閉口してしまう。言外に「オマエは分かりやすい」と言われた気がして面白くない。
「無理に聞き出そうとは思わないが。」
「コハクに、言われたんだ。」
遮られるように返され、今度はクンツァイトが閉口する番だった。

「リチアが好きなのか、って。」

「家族の、とかじゃなくて。その…こ、恋、とか。そういう意味で、だ。」

クンツァイトはその言葉に音もなく立ち上がり、ゆっくりとヒスイを見下ろした。
彼は、ゆるく膝を抱えて俯いていた。
「どう、答えたのだ。」
問いただすようなものではなく、酷く優しい声に、ヒスイも、そしてクンツァイト自身も驚いた。
二人が関係を持ち始めて、そう短くはない。
色々な出来事を過ごしてこの位置に落ち着いた二人であったが、仲間の、周りの誰にもバレてなど無い筈だ。それもそのはず、二人はリチアを優先として行動しているが為、一緒に居てもリチアを挟んで認め合っている位にしか思われない。
そして、コハクの質問の答えは、表立った二人の関係を自ら肯定するようなもの。
「気になるか?」
「肯定。」
「・・・そりゃそうだよな・・・」
下手にコハクの問いに否定して、コハクを傷付けたり仲間との関係を壊したくはない。
リチアは勿論大切な存在で、けれどどちらかというと家族に対するそれである。
クンツァイトにとってもそうだろう。最初からリチアの存在をインプットされている彼にとって主は絶対的なものであり、何者にも変えられない。それ以上でも、以下でもない。
けれどそれを口にしてしまえば、今の均衡が崩れてしまう気がして。
「・・・嘘、吐いた。コハクに。」
「ヒスイ。」
「リチアの事、恋なんだって。」
「…ヒスイ。」
「はは、わりぃ。当然の答えだもんな。別にてめぇに報告するほどの事じゃねぇけどよ。」
何となく、言っておきたかったんだ。そう小声で続けるヒスイに、クンツァイトがいい加減にしろと言わんばかりに強く肩を掴んだ。
「ヒスイ。聞け。」
「何をだよ!」
いつになくナーバスになっている彼は、今にも噛み付かんばかりの勢いで振り返る。
その眼は力強く、しかし暗がりの中少しだけ潤んで見えた。
妹に嘘を吐いた事に対しての罪悪感と。
嘘を吐かなければ保てないこの関係と。
クンツァイトに報告したくなった、己の弱いスピリアと。
色々なものが、その瞳に混ざって垣間見えた気がした。
「自分は、ヒスイを大切に思っている。」
「・・・は?」
「他の何とも違う。女性に対するそれとも違う。だがオマエの隣に居たいと願い、大切にしたいと思い、このような機械の体でもオマエに対して欲情現象が起こる。」
「…。」
直接的な言い方にヒスイは顔を紅くするが、クンツァイトはお構いなく続ける。
「この感情は、決してリチア様に対しては起こらない。オマエだけだ。」
「あ、ああ…。」
「だからオマエが持つコハクへの罪悪感や心配をかけてしまったという思いも、消去してやりたいと思っている。」

「自分は、コハクにも、シング達にも、ヒスイへの感情を告げて構わない。」

「リチア様はそれで自分を排除するような方でもない。」

「シング達の、自分達を見る眼が変わるというのなら、自分は全力でオマエを守る覚悟でいる。」

ああ、先程から彼の声が酷く優しかったのは、その覚悟がとうの昔に出来ていたからなのか、と。
ヒスイはクンツァイトからの深い思いを見せられた気がして、まじまじとその顔を見た。
「・・・?どうした。」
「い、いや別に、何でもねぇ…。」
その言葉を聴いていただけで不安や罪悪感など薄れてしまっているのだが、口に出したら負けのような気がして、ヒスイは慌てて顔を背けた。
「・・・悪ぃ。何か、変な事言っちまったな。」
「問題ない。」
それで、どうする。皆に告げるか。
続けられた声にヒスイは黙って首を振った。
「いい。」
「だが。」
「大丈夫だ。今はまだ、先にやるべき事があんだろ?」
その声に頷き、クンツァイトはやっとヒスイの肩から手を離した。
「コハクの言葉に、ちょっと驚いただけだ。」
見透かされている気がする、とまでは、話さなかった。
余計話が拗れてしまうし、その結論に至るまでの確信が持てない。

ただ、コハクに対して嘘を吐いた。その事実だけが現実となって残ったのだった。





「・・・眠れそうか。」
「あぁ。話したら少しはスッキリした。」
「そうか。」
ヒスイは再びベッドへ横になり、クンツァイトも元の位置に座り込む。
結局何の解決にもなっていないし、進展もしていない。しかし明らかに先程よりも眠気が襲ってきている。
これなら早く眠れそうだ、と思っていたヒスイだったが、はたと気がついて再度彼へと声をかけた。
「・・・・クンツァイト。」
「どうした。眠れないのか。」
「違ぇよ。眠れそうだっつったばっかじゃねぇか。」
反射的にそう返すクンツァイトへ苦笑いが漏れてしまう。
「布団入れよ。俺も眠れそうだしよ。」
「・・・。」
近くで座っていてくれるのは嬉しいが、と柄にもないような事を思ってしまうあたり、自分も相当彼が好きなのかもしれない。そう思ってはいても、やはり彼には自分達と同じようにしていてほしいのだ。寒さを肌で感じる事がなくても、里の人が片付ける手間を思っても、宿に居る時のように振舞って欲しい。
これは自分のエゴかもしれないが、と思ったところで、ようやくクンツァイトが返事をした。
「オマエの事や里の者の手間だけを思っている訳ではない。」
「?」
「自分が此処に居たいと思うから、ここにいる。」
ヒスイが生活してきた場所。部屋。机、箪笥、ベッド。
それから、ヒスイ自身。
それらを感じ、少しでも長く見渡していたいのだ、と。
「これからの旅で此処に泊まる確立は皆無と言っても良いだろう。だから、布団よりも此処が良い。」
言い切られてしまえば、それ以上ヒスイは何も言えなくなってしまう。
なまじ思われているだけにどう反応していいのか分からず、顔を紅潮させたまま勢いよく布団へ潜り込んだ。
「てめぇは本当に…」
「ヒスイにはこの位直接的な方がいいだろう。」
「って、確信犯かよ!?」
モゴモゴとした呟きに返された言葉に思わず反応してしまう。
ここまで(聞いているこっちが恥ずかしくなるような)思いを告げられては、ヒスイも黙っていられない。というより、半分自棄に近かった。
「よっく聞けよ、俺だっててめぇの事、色々思ってんだからな…。眠れないのを気にしてたり、とか、俺が考え込んでるの見破ったり、とか。そーゆーの、・・・俺のことを、注意してみてくれてんだろ?」
「肯定。」
「だぁら、そーゆーのが、凄ぇ嬉しかったりすんだよ!」
「・・・」
「嬉しくて、なんつーか、好きだな・・・って思う、っつーか…。」
どうも、彼は恋愛の話となると恥ずかしくて口篭ってしまうらしい。布団に潜り込んだまま視線を彷徨わせ、消え入りそうな声になっていくのをクンツァイトは唇の端を上げて聞いていた。
「大丈夫だ。ヒスイの想いは自分に届いている。」
クンツァイトの表情を見ることの無いヒスイは、からかわれたと勘違いして舌打ちをする。
「・・・も、いい。寝る。」
「了解した。おやすみ、ヒスイ。」
「・・・・・・・おぅ。おやすみ。」
希少価値の高いクンツァイトの笑顔を見ることもなく、ヒスイはそのまま不貞腐れて目を閉じた。元々の眠気が目を閉じることによってゆるやかにヒスイを覆い、眠りへと誘った。


そうしてヒスイの寝息が規則的なものに変わったのを確認して、クンツァイトは小さく呟いた。
「・・・ヒスイ。まだ起きているか。」
それは先程ヒスイが声をかけた言葉そのままで。
勿論反応は無かったが、クンツァイトは構わずに言葉を続けた。



「クリードの件が終わったら、自分はリチア様に、いや、皆に告げようと思う。」


「自分の素直な気持ちを。」


「そして、オマエと共に居たいという願いを。」


リチア様の為にも、世界の為にも、自分達の為にも。
早くこの戦いを終わらせなくては。






もう一度、ヒスイの緩やかな寝息を確認して、今度こそクンツァイトは瞼を閉じた。
妹を心配し、嘘を吐く事に苛まれる彼を、いつか安心と幸せで満たしてやりたいと願いながら。









この、捏造すぎる二人の性格をどうしてくれよう(^=^)
アレです、両親(クンヒス)の仲を心配する子供(コハク)のような感じにしたかったんです。
いくら喧嘩してようと、仲悪そうでも、上手くいってなさそうでも、二人には二人の世界があって、第三者から見るより、意外と上手くやっている…っていう感じにしたかった。

何か全然違うのが出来上がりましたが。(…)
あと一本、クンヒスでクン+コハクのをアップしてこの連作を〆たいと思います。


どうでもいいけど、ウチの兄貴は何かあると眠れない人設定みたいになってる。
本当はそんなに繊細でもなさそうなんだけど<失礼
2009.01.18    水方 葎