寒い場所が終わったあたりの方は大丈夫です。
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コハク桜は折れてしまったけれど、結果的に里を守ることが出来た。 私はその時のお兄ちゃんを見ていて、確信した事がある。 * 嘘吐きの嘘 * 「お兄ちゃん。ちょっと話があるの…。いい?」 今夜は叔母さんに許しを貰って、お兄ちゃんの部屋は男部屋、私の部屋は女部屋として皆一緒に家で休む事にした。時間が時間だったし、これからの準備も必要だったから。 そうして久しぶりの家での夕食を済ませて、部屋へ戻ろうとするお兄ちゃんを引き止めた。 私が確信したことを、聞いておきたかったから。 「おう。どした?」 階段へ足をかけていたお兄ちゃんは、立ち止まって振り返る。 「ここじゃ、その、・・・ちょっと外に出ない?」 お兄ちゃんの前を歩いていたクンツァイトも、数段上で足を止めてる。 シングは、先にお兄ちゃんの部屋に入って行ったみたい。 「ああ。いいぜ。クンツァイト、先に行ってろよ。」 「了解した。」 促したお兄ちゃんは、再び足を進めだす彼に向かって「あ、部屋のモン勝手に弄るんじゃねぇぞ!」なんて釘を刺している。その様子がなんだか微笑ましい。 二人並んで家を出て、丁度お兄ちゃんの部屋の下くらいの位置へ移動する。このあたりは周りの雑林のせいか他の場所より寒くないことを、私達二人は幼い頃から知ってる。 雪だるまや雪兎をこの場所に残したり、寒さに強い花を育てたりした。 つい最近だと思っていた出来事もいつの間にか昔の思い出になっていて、少し寂しくなってしまう。 「で、どうしたんだよ。兄ちゃんに何か相談か?」 少し心配そうに首を傾げるお兄ちゃん。 いつだってお兄ちゃんは、私の事を考えてくれてるもんね。 「ううん、違うの。お兄ちゃんに聞きたいことが、あっただけ。」 「聞きたいこと?」 頷いて、私はお兄ちゃんを睨むように見つめた。 「あのね、お兄ちゃんは、 リチアのこと、好き?」 私には、確信出来るだけの証拠があるの。 だから答えて、お兄ちゃん。 「ばっ・・・な、なんで、」 お兄ちゃんはいきなりの恋の話に顔を紅くして慌てふためいた。 なんだか可愛いな、と思ってしまうけど、はぐらかされる気なんて毛頭無いんだから! 「ねえ、好き?」 畳み掛けるようにそう言うと、お兄ちゃんはわざとらしい咳払いを一つして口を開いた。 「・・・ま、まぁ。意外と根性あるし、良い女だとは思うぜ。」 そっぽを向いて照れながら答えるお兄ちゃんに、私は静かに首を振る。 そうじゃないの。私の聞きたい言葉は、それじゃない。 「違うの。恋愛として。・・・リチアの事、好き?」 恋愛として、の部分を強調すると、お兄ちゃんはビクッと肩を震わせた。 その、お兄ちゃん自身も開くのが怖い本心が、聞きたいの。 それは無理矢理スピリアを暴くことになるかもしれないけれど。 心配でたまらないから。 「う・・・そ、れは・・・。」 口篭るお兄ちゃんに、私は何も言わないように、けれど逃げは許さないよう視線で捉える。 何だか、巣にかかった蝶へにじり寄る蜘蛛の気分になってしまう。 じわじわと、ゆっくりと、追い詰める。 「・・・好き・・・だぜ。」 「・・・。」 「覚悟を決めて物凄ぇモンを背負ってるアイツを、守ってやりてぇんだ。クリードんトコへ連れてく約束もあるし、な。」 「・・・そう。 そっか、そうだよね。」 嗚呼、お兄ちゃんの嘘吐き! 私には何でも話してくれると、思ってた。 隠し事なんてしないで、本音を出して欲しかった。 いつからお兄ちゃんは、私のものじゃなくなったの? 悔しい。けれど表情になんて、出せない。 本音を出さないって決めたお兄ちゃんのスピリアを、土足で踏み荒らす真似はしたくないから。 「ごめんね、話ってそれだけなんだ。」 「そう、か?」 「うん。ありがと、先に戻ってて。」 「ああ。コハクもあんま長く出てるなよ。風邪ひくぞ。」 「うん。」 いつものように心配性な台詞を出してから、私を背に歩き出すお兄ちゃん。 遠のいていくその背中を見つめていたら、くるりと綺麗に振り返った。 「・・・コハク。」 「なぁに、お兄ちゃん。」 少しだけ、胸が高鳴る。 もしかして。 「兄ちゃんは、ずっとお前だけの兄ちゃんだからな。リチアの事とか、気にすんなよ。」 違う違う、違うよ! そう、大声を出したくなった。 確かにリチアに対してお兄ちゃんを取られる、なんて思った時はあったけど。 今私が欲しい言葉は、それじゃない。 きっとお兄ちゃんは、私の不安そうな顔を見つけてしまったから、そう言ったんだろうけど。 「・・・うん…。有難う、お兄ちゃん。」 少し笑って、今度こそその背は私の視界から姿を消した。 お兄ちゃんの、嘘吐き。 嘘吐き! 私、知ってる。 本当はリチアの事、恋愛としてみてないって事を。 シングへ気持ちを寄せて自立しつつある私から一歩引いて、"私の代わり"にリチアを見てるだけ。 ずっと私の中に居たリチアに、私の影を見てるだけ。 私、知ってる。 最近お兄ちゃんが綺麗に笑うのを。 そして、そんな顔をさせるようにした人も。 その人もリチアを大事に思ってるのに、お兄ちゃんと話してるのを見かける方が多いの。 いつもは無表情に見える彼が、優しい目でお兄ちゃんと話してる。 今日までは漠然と、お兄ちゃんはリチアの事が好きなんだと思ってた。 彼とは仲が良いんだな、とか、最初はあんなだったけど打ち解けて良かった…位にしか思ってなかった。 たまに感じる違和感は二人のじゃれ合い程度にしか感じなかった。 だってお兄ちゃんはリチアが好きだと思ってたから。 けれどそれは恋じゃなくて、家族愛なんだと気付いてしまったから。 気付いてしまえば、お兄ちゃんと彼の違和感は自然でしかなくて。 私には、きちんと話してくれると思ってた。 実はリチアが好きなんじゃない、って。 彼の事が好きなんだ、って。 この戦いが終わったら二人はどうするのか分からないけれど。 一緒に居たいと思ってる、位言って欲しかった。 さっきも夜ご飯の時、小さな喧嘩をしてた。 いつもなら「仲がいいね」で済ませちゃうけど、知ってしまったから。 応援したいと思ってるし、喧嘩をしたら仲直りさせたい。 皆が二人のことを知らなくても、私だけは分かってるよ、理解者だよ、って安心させたい。 お兄ちゃんには幸せになってもらいたい! 力になりたいと思って話を切り出したのに、お兄ちゃんがそうやって煙に巻くなら私はどうする事も出来ないじゃない。 折角私がお兄ちゃん離れしてきたのに。 またそうやって、誰かの面倒を見るつもり? 彼と愛し合ってる事を誰にも言わずに、いつまでも"妹"を気に掛けて。 少しは私を頼ってくれたっていいじゃない! 少しは自分自身に目を向けてよ! だから、ああ、どうか、 私に対して嘘を吐かないで! クンヒス←コハク お兄ちゃんの幸せを望むのに、何も出来ない"妹"という守られる立場。 確信はあるけど、あえて「クンツァイトと恋人同士なんでしょ?」とは言わず、逃げ道を残しておくコハク。 とりあえず水方の頭の中ではブラコンとシスコンなコハヒスですよ。(※逆ではありません) 2009.01.11 水方 葎 |