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* 教訓 * 新しく来た世界は、妙にざわついていた。 耳が痛くなり、近くに居る筈の仲間の声も聞こえなくなるようなざわめき。何しろ人が多いのだ。 人が空から落ちてきたにも関わらず、酒の臭いを漂わせた赤ら顔の人達は平然と振舞っている。何も聞こうとしないし、それどころか日常茶飯事のような感じだ。 大人も子供も、男も女も。皆、手に瓶を持ち酒と思われるアルコールを飲んでいた。 確かに辺りは暗いし、もしかしたら夜という時間帯なのかもしれない。しかしこの街全体に染み付いた酒の臭いから察するに、昼も夜も関係なく酒を飲んでいる世界なんじゃないかと考えるシャオラン。 サクラとは手を繋いでいた為逸れずに済んだが、あとの二人は何処に行ってしまったのだろうと、人込みを掻き分ける。 「シャオランくーん!サクラちゃーん!この世界には、羽、無いみたい、だよー!!」 地面が見えない程の人込みの中から、柔らかな声がした。 凛と通る声の方向を辿れば、其処には不機嫌な黒い姿と人込みに参っている金髪の姿。 「待ってください、今そっちに行きますから!!」 「え、何ー!?」 ダメだ、こちらの声は全然届いていないと判断すると、シャオランは辺りを適当に見回した。何処も彼処も酒場のようなお店ばかりだったが、店内に入ればまだ話は出来るだろうと一軒の酒場を指差す。「入りましょう、」と口パクで伝えると、伝わったのか伝わっていないのか、ファイは首を縦に振った。 それにしても酷い世界だ。 大通りは人で一杯だし、時々酒でハメを外すのか、2〜3階の窓から酔い潰れた人が落ちてくる。運悪く頭に当たった人も居たが、その人も酔っているのでお互い気にしないで居る。自分達が落ちてきても此処の住民が気にしなかったのはその所為だろうと考えた。 「サクラ姫、大丈夫ですか?」 「・・・うん。」 やっとの事で手を繋いで酒場に入る。 まだ通りよりは人が少ないものの、矢張り人は一杯だ。皆、マスターらしい店の人に酒を頼んだり、喧嘩を吹っ掛けたりしている。 以前桜都国の酒で苦い思いをした事があるシャオランは、一刻も早くこの街から出てしまいたかった。何しろ柄の悪そうな人が多いので、騒ぎを起こしたら大変だ。 「ふ〜・・・。二人とも、大丈夫?」 少しした後で、ファイと黒鋼が酒場に入ってきた。どうやら先程の口パクはきちんと伝わっていたようだと安心する。 「はい、俺たちは大丈夫です。」 「何か血気盛んな人が多い国みたいだねぇ。」 腕を擦りながら言うファイは、どうやら先程絡まれたようで少し赤くなっている。手当てしますとシャオランが言うが、少し掴まれただけで、そんな大袈裟なものじゃないよとファイはその申し出を辞退した。黒鋼が面白くなさそうに舌打ちをする。 そうしてお互いの無事を確認した後で、4人と1匹は改めて店の中を見回した。 酒 賭博のようなもの 酔っ払い 身売り お世辞にも治安が良さそうとは思えない。 「何だか大変な所に来ちゃったねー・・・。」 「羽が無いんだったらさっさと次に行くぞ。」 酒が集まる所は碌な事が無いと学習している黒鋼は、眉間に皺を寄せて言う。 いくら子供も飲んでいるから、とは言え危険な場所には変わりないので皆がその意見に従おうとした。しかし、その瞬間サクラの腹の虫が虚しく響いた。 「ごっ・・ゴメンナサイ・・・!」 恥ずかしくなって顔を隠すサクラ。 「モコナもお腹空いたー!」 今までファイの頭で踊っていたモコナがそれに反応して、肩に降りて主張する。確かに、前の世界で朝ごはんを食べたのは大分前なのだ。 「そうだねぇ…次の国で食べれるか分からないし、今食べておいた方がいいかもねぇ。」 「けど、此処でですか?」 あまり安全とは言えない上、アル中の国だ。シャオランが警戒して言うのも最もだろう。 「でも、この国は何処に行っても同じだと思うよー?第一、またあの通りに出たくないし。」 「…そうですよね。」 先程の人しか見えない通りを行くのは躊躇われる。 「それに、もし誰かに絡まれても黒わんが居るし?」 「ってまた俺かよ!」 そうして4人と1匹はこの薄汚い酒場で遅めの昼食を取る事にした。 不幸中の幸いと言うべきか、メニューは意外とまともそうな物が多かった。唯、酒のメニューと比べると貧弱なものだったが。 4人は店の端に席を取り、「食べたらさっさと出て行こう」と言わんばかりの態勢だ。 いつもなら他の世界に好奇心旺盛なシャオランですら、この世界はもういいと言いたげである。ファイも人込みが好きでは無いらしく少し疲れ気味だ。 それぞれメニューから品を決め、料理が出来るまでの間サクラに賭博で稼いでもらう事にした。これはいつもの方法と言って良い程のお決まりコースで、必ずと言って良い位資金が集まる。服などを売るときもあるが、これが一番手っ取り早いのだ。 「じゃあ、コレで。」 「「おおおーっ!!」」 喧嘩っ早い人は少ないのだろうか、それとも唯酔っているから頭の中で状況が理解出来ていないのだろうか、珍しくサクラに因縁をつける人は少なかった。もしかしてイカサマが公認されている国なのかもしれない。だからサクラをイカサマだと思っても何も言わないのだろうか。 何にせよ、争いが無いのは良い事だとファイはサクラが稼ぐ様子を少し遠くからじっと見ていた。 黒鋼とシャオランがサクラのボディガードをしているので、もし何かあっても大丈夫だろうと見越して伸びをする。黒鋼はファイの方をチラチラと見て気にしていたようだが。 そんなファイの所へ数人の男がフラフラと歩み寄ってきた。服装は薄い布で出来たモノで、少々薄汚い。 心の中だけでファイは身構える。 「よぅ、兄ちゃん素面かい?」 「えぇ、まぁ。お酒飲めないんでー。」 言ってやると、男達は目を丸くして顔を見合わせた。 同時に湧き上がる笑い声。 「馬鹿言っちゃいけねぇな。子供の頃から飲んでんだから、飲めない筈無いだろ?」 「んー、でもー・・・。」 「それとも兄ちゃんは、コッチの人間かい?」 言いよどんでいるファイに、別の男が懐から何やら小さい棒を取り出す。 それは?と聞こうとしたファイだったが、其の前に男がその棒の片端を咥えて、もう片方の先端に火を点けた。途端、先端から発せられる煙。 「この世界には酒を飲み続ける奴か、煙草を吸い続ける奴しかいねぇ。其の内酒が駄目とくれば、兄ちゃんはコッチだろ?」 その台詞で、ファイは理解した。 この世界には、二つの部類の人が居るのだ。 一つは酒を主として、昼も夜も関係無しに酒を飲む。アル中の人達。 もう一つは、煙草を主として、毎日毎日煙草を吸い続ける人達。薬中とでも言えばいいのだろうか。 どっちにしても良くない。 しかし、酒が駄目だと言ってしまった以上、自分は「煙草側」の人間として振舞わなければならない。臭いを嗅いだだけで咳き込みそうになったのだが、無駄な騒動は起こしたくない為に煙草人間とした方が良さそうだと考える。 「えぇ、そうなんですー。丁度たばこ、無くなっちゃって。」 前の国の「きせる」の様な臭い。一瞬吐き気がした。確か、口に咥えて息を吸い込むソレ。 「それなら丁度良い。知り合いに貰ったんだけどよ、コレ。上等な濃度の濃い煙草なんだけど、俺は酒人間だし、いらねぇ。アンタにやるよ。」 いらない。 喉から出かけた台詞は紙一重で飲み込まれる。 「有難うございますー。」 3箱受け取って、ファイはペコリと頭を下げた。 しかし男達は立ち去ろうとしないので、仕方なくソレを取り出して一本口に咥えるファイ。 すると先に煙草を吸っていた男が、スッと腕を伸ばして発火装置の様なものから火を点ける。 ファイの煙草も目の前の男と同じように煙が伸びた。 「・・・有難うー。」 喋り難いが、お礼だけでも言わなければとファイは微笑んだ。 そうしてやっと男達は去っていった。 揉め事にならなくて良かった、と思いながらファイはサクラ達の方へ振り返る。 まだ勝負は続いているようだ。・・・勿論サクラの圧勝で。 ふと視線を感じて振り向くと、先程の位置から一ミリたりとも歩いていなさそうな黒鋼が不機嫌そうにファイを見ている。顔に「その口のモンは何だ」と書いてあるようで苦笑が漏れる。 本当はもう咥えているのも、持たされた煙草も捨てようかと思ったのだが、コレがあれば酒が飲めなくても怪しまれないで済むだろうと、裏工作のために咥えている事にした。 しかし、煙い。 吸う真似ですら煙たくなるそれにファイは涙目になる。 これだったら、思いっきり肺に入れてしまったほうが苦しい思いをしなくて済むのかもしれないと考えたファイは、黒鋼に近付こうとしながら煙を煙草を通して思いっきり吸い込んだ。 ・・・ ・・・・・・・ ゲホッゲホゲホッ どうやら咥えていた方がマシだったらしい。 「何やってんだよお前は・・・。」 近付こうとしながらもいきなり咳き込んだファイを見かねて、黒鋼が人込みを掻き分けて近付いた。 煙草を手に持ち替えて背中を丸め咳き込むファイ。もう片方の手を振って「大丈夫」だと言う事を伝える。黒鋼は柄にも無く、無骨な手でファイの背中をゆっくりと擦った。 「ゲホッ・・・ケホ・・・!」 「煙草か?こりゃ。」 下手したら咳き込んだ弾みに落としそうな煙草を取り上げて、黒鋼が呟く。 落ち着いたらしいファイが、その言葉を聞いてからこの世界の「酒人間」と「煙草人間」の話をした。 「でー、コレさえ持ってれば、少しは怪しまれないで済むかなーと思ってー。」 「それで咳き込んでたら余計怪しまれるだろうが。」 間髪入れずに突っ込んでくる黒鋼に、ファイは笑顔で答えた。 「もう大丈夫ー。吸い込み方も分かったからー。」 煙草を受け取って、大分短くなったそれを再び口に咥えた。 「いいか、煙草ってのは薬みたいなモンだ。吸いすぎんなよ。」 「へぇー、黒さま物知りー。」 茶化すファイには心配要らないと思った黒鋼は、溜息を一つ零してサクラとシャオランを呼んだ。食べる分だけの金があればいいのに、少々稼ぎすぎている感があるからだ。 「じゃあ、テーブルに戻ろっか。」 賭博をしていたテーブルから金を袋に詰めて歩いてきたシャオランとサクラ。ファイが咥えているものに二人同時に首を傾げたので、黒鋼にした説明を再びするハメになってしまったファイ。シャオランとサクラにも、火をつけないまま一本づつ渡しておく。形だけでも有れば分からないだろう。 「ほら、黒ぴっぴもー。」 「あぁ。」 す、と一つ煙を吸い込んでから前を歩く黒鋼にも煙草を渡そうとする。 が。 「・・・あれ・・・?」 ふら・・・ どさっ 「ぅわ!?どうしたんだい兄ちゃん!」 いきなりファイの足が縺れて、イスに座っている人の所へ倒れ込んだ。ガタイの良い男が咄嗟に酒を片手に軽々と受け止める。 煙草が強すぎたのだろうか。 「ファイさん!?」 驚いた黒鋼が足を止めて振り返るよりも早く、後ろを歩いていたシャオランが反応を示して駆け寄る。 「ん・・ぁ・・・?」 ファイの目は焦点が合っていないまま、天井を向いている。多分意識はあるのだが、頭の中がぼんやりしているのだろう。 「すみません、」 謝りを入れてからファイを抱き起こそうとしたシャオランだったが、抱きとめた男がそれを拒否する。 「子供が何、人の獲物に手ぇ出そうとしてんだよ。」 そうだ。 この街は酔っ払いの巣窟だと言う事を忘れていた。 そのままファイを抱き締めるように胸元へ引き寄せる男に、黒鋼が前へ出た。 「オイ。そいつは俺達の連れだ。返して貰おうか。」 「しらねぇな。俺の元へ倒れたんなら、俺のだ。」 どういう理屈なのだろう。 元々ファイは色白だし、整った顔立ちをしている為、絡まれる事も少なくない。しかし今日のような理不尽な理由をつけられるのは初めてだった。もしかするとそういう法律があるのだろうかと、シャオランは一瞬真面目に考えた。 「ファイさん・・・黒鋼さん・・・。」 隣でオロオロしているサクラを取り合えず安全な所へ避難させようと、シャオランは黒鋼に目配せする。このままでは力ずくで取り返さないといけないような雰囲気だから、戦う事になるのは必須だろう。 店の破壊を考えたら、やはり先程沢山稼いでおいて良かったと思うシャオラン。 「サクラ姫、こちらへ。」 「あ、うん・・・。」 其の間も二人の不毛な言い合いは続いていた。 「返せっつってんだよ。ぶった切られてぇか?」 「誰が返すかよ、こんな上玉。滅多にいねぇぜ?まだ一回も汚れた事の無さそうな奴。」 酒の為なら人身売買でも何でもする、と言いそうな世界の人間だとは思っていたが、予想が的中した黒鋼は眉間の皺を深くする。 それよりも何よりも、ファイのことを(自分以外の男が)そんな目で見ているのが許せなかった。 ペロッ 「ふ、ぁ・・・?」 「な、ななな・・・!!!」 「これでもうコイツは俺のだ!」 黒鋼がどうやってぶちのめそうかと考えていると、いきなり男がファイの頬に舌を這わせた。 その衝撃で思わず情事中の様な色っぽい声がファイの口から漏れる。同時に黒鋼が固まった。 店の中に居た者は目敏く(耳聡く?)その声を聞き、顔を向ける。 男は瓶の酒をもう一口煽り、得意気に回りに言い触らしていた。 「おうおう!こいつは俺のだー!!」 ファイを抱き締めたままテーブルに立ち上がる男。その声の大きさに、どんどんファイの正気が戻されてゆく。未だ定まらない焦点をなんとか合わそうと努力した先には、黒鋼の姿がぼんやりと霞んで見えた。 「・・・ぁれー・・・黒ぽん・・?」 いまいち状況を把握出来ていないファイは、固まっている黒鋼に柔らかく微笑んだ。いつもとは違うような、純粋に物事を楽しんでいるような笑み。 「ざ・・・ざけんな!!!!」 ゴツン!! 「―――ッ!!!」 その微笑みで我に返った黒鋼が、今までの鬱憤を晴らすべく、目線の上にある男の股間に鞘に納まったままの刀で突き上げた。声も無き悲鳴を上げて悶絶しながら崩れ落ちる男。ファイを抱き締めていた手も自然と離されてファイの身体も倒れたが、それは見事黒鋼がキャッチした。 「ったく、お前は何やってんだ!」 倒れてきたところをキャッチしたのでお姫様抱きとなっている事にすら気付かず黒鋼はファイに怒鳴る。しかしファイは虚ろな瞳で黒鋼を見て微笑むだけだった。 一瞬静かになった店が、再び賑わいを取り戻す。これも一種の日常茶飯事なのだろうか。 男は床に伏したまま股間を押さえ震えている。多分意識も失っているだろう。 「オイお前ら!!終わったぞ!!!」 手にはしっかりとファイを抱き締めて、店の端に避難していたシャオランとサクラに声を掛ける黒鋼。大声を出したのは鬱憤が未だ晴れていないからだろうか。 間に多くの人は居たが、聞こえたのだろう頷いて返事を返す。 すぐ傍で聞こえた大声に反応を示すのか、ファイが再び意識を取り戻した。 「んん・・・黒りん?」 「あぁ!?」 苛々しながら返事を返す黒鋼。 「お前はこれから酒も煙草も禁止だ!!」 ここ何処だっけ、あぁそうか、お酒の国か、煙草貰って、どうしたんだっけ? 言葉を続けようとするファイに黒鋼が禁酒禁煙令を出す。 全く意識が無かったらしいファイは、その言葉の意味を黒鋼の腕の中で考え込んでいた。 「・・・もしかして俺、絡まれたー?」 「・・・あぁ。」 不機嫌そうに言い捨てる黒鋼。 「そっかー。で、黒わんが助けてくれたんだ。」 「お前が居ねぇと次の国に進めねぇだろうが。・・・約束もしちまったし。」 「・・・約束?」 仕方が無さそうに言う黒鋼だったが、ファイは何の約束をしたか覚えていない。「俺を守って」なんて、何時約束しただろうかと一瞬変な考えが脳に走る。 「テメェ、自分で言っといて忘れたのかよ。」 シャオランとサクラの姿が漸く視界に入り、黒鋼は足を速めた。 黒鋼の其の言葉にファイは抱き上げられたまま首を傾げた。 「・・・・・・・あ。」 ――それに、もし誰かに絡まれても黒わんが居るし? ――ってまた俺かよ! そういえば、酒場に入ってからすぐにシャオランとサクラを安心させる為にそんな様な事を口にしたかもしれない。律儀に覚えているなんて流石黒様、とファイは定まらない思考の中で微笑んだ。 「ファイさん!意識あります!?」 「あー・・・シャオラン君ー。大丈夫だよー、ちょっと煙草が強すぎたみたい・・・。」 本当は頭の中身が掻き回される様な気持ち悪さが襲ってきたのだが、迷惑をかけないようにとファイは幾分かシャオランに近い目線で苦笑する。 「ファイ、ヘロヘロー!」 何処に居たのか、モコナが何時の間にか黒鋼の肩の上で踊っている。なよなよとした動きに黒鋼以外の3人が思わず笑みを漏らした。黒鋼の肩の上で踊り続けるモコナに向かって、降りろだの落ちろだの怒号を飛ばしている黒鋼。 「ねー黒んたー。」 「っあぁ!?」 「どうせなら、このまま席まで運んでってよー。」 「ふざけんな!」 けれど、モコナのように降りろだとか、落ちろだとかは言わない。 いつもの馴れ合いが始まったと思ったシャオランとサクラは、仲良く逸れない様に手を繋いでテーブルへ向かった。 「ファイさん!黒鋼さん!食べましょう!」 いつまでたっても来ようとしない二人に、耐え切れずシャオランが声を掛ける。 結局席まで運ぶ事になった黒鋼。ファイは意識がハッキリしてきてわざと甘えるように黒鋼に擦り寄った。 「黒わんた、優し〜い。」 「黙ってろ!」 こんな想いをするのもたまには良いかもしれないと思ったファイだったが、それでももう煙草だけは勘弁だと心の中で呟いた。 新しい世界に来て、なんとか宿を確保出来た夜。 「そんなに煙草が吸いたいならこうしてやるよ。」 残っていた煙草の一本に火を点ける黒鋼。 「え、もういいよー苦いだけだし・・・また意識飛ぶかもしれないし。」 遠慮してベットの上を後退するファイに、黒鋼が迫った。 今このベットの上で意識が飛ぶのは構わないと、真紅の瞳は言いたそうである。尚も反論するファイを、どうせ意識が飛ぶような事をしてやるのだから同じだ、と黒鋼は一蹴する。 「ちょ・・・んー・・!」 それってどういう事、と聞こうと再び口を開いた隙に、黒鋼が一度煙草を吸い込んでからファイにキスした。その際に舌を入れてファイ自身を存分に味わう事も忘れない。 その夜、そのまま押し倒されて体全体で煙草の味を教えられたファイは、二度と煙草は口にしないと、昼間よりも堅く誓ったらしい。 fin. ************* そんな感じの黒ファイって駄目かなぁ。 本当は喧嘩してて〜…っていうようにしようかと思ったけど、それだったら前の連載と同じような雰囲気になりそうだったからやめました(笑)ファイは狙われやすいんだよ!だから男に声もかけられるし、すぐに男に抱き締められちゃうし! 「ファイ、煙草の臭いがするー。」 「あれ本当だ。どうかしたんですか?」 「んー・・・昨日のが抜けてないのかなぁ。」 翌日、魔術師の言い訳。 071001 水方 葎 |