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* 喫茶店事情 6 * カランカラン・・・・カラン 「お」 「わっ」 「黒鋼帰ってきたー」 やっと家に辿り着いてドアを開けた黒鋼だったが、今にも飛び出さんとしているシャオランと軽くぶつかり声を上げる。対するシャオランは目の前すら見えていなかったのか、黒鋼に顔面を直撃してしまって顔を押さえていた。唯一匹モコナだけが、ぶつかる直前に黒鋼に乗り移った為危険を回避できたのである。 「く、黒鋼さん、おかりなさい!ファイさんは・・・!」 「落ち着け。ここに居るだろ。」 捲くし立てるように言うシャオランに呆れながらも黒鋼は背負っているファイに一瞥を投げた。意識を失い昏睡するファイを見てシャオランは部屋へと促した。 この少年はこういう気が利くところがあるので嫌いじゃないと黒鋼は思う。根掘り葉掘り聞かれるのは苦手だ。 しかしやっぱり気になっているのだろう、ファイの部屋に黒鋼の後ろに付いていくシャオランはファイの容態を心配するように視線を投げかけている。歩く途中に出してきたのだろう、手には救急箱を持って。 ファイに宛がわれた部屋は閑散としている。きっとこの4人の中で一番部屋に置いてあるモノが少ないのはファイだろう。ベットさえあればそれでいい、という無機質な部屋は主の心そのものを表しているようだった。ただサイドテーブルに、申し訳なさそうにサボテンが一つ置いてあるだけ。一応は異世界を旅している身なので部屋に置くものはそうないのだが、黒鋼は自国にあるような座布団を1〜2枚仕入れてきたし、サクラの部屋には可愛いクッションや花が置かれている。シャオランも常備している救急セットや観葉植物が部屋に居座っているのだが。 「見事に何もねぇな・・・。」 「電気付けますね。」 「いや、いい。」 電機のスイッチに手を伸ばそうとしたシャオランを制して、ベットへ運ぶ。 何だか電気をつけてしまえばこの冷たい部屋や、刺を持った持ち主の心のようなサボテンが一気に晒し者になるような気がして、それを躊躇った。 何を考えているんだと思いながらもファイの身体を丁寧にベットへと横たえる。余り揺れないスプリングが心細かった。 傍へ来て珍しく静かに、そして心配そうに見守るモコナとシャオラン。徐に抱えていた救急箱を取り出して、軽く怪我した部分の手当てを始める。幸い大怪我は一つも無く、昏睡の原因は酒にあると黒鋼から告げられたシャオランは酷く安心した顔を見せた。モコナは何処からかコップ一杯の水を取り出して、サイドテーブルに静かに置いた。成る程、喉が渇いて起きたなら下に降りなくても飲めるようにちょっとした配慮だろう。 「鬼児ですか?」 「あぁ。酔ってフラフラなところを数匹の鬼児が囲んでやがった。」 「間に合って良かった・・・。」 消毒を終えて救急箱を閉じる。モコナが挟まれそうになっていたのはこの際見なかった事にする。 黒鋼さんが出て行った後に台所でブランデーの匂いがしたからまさかとは思いましたけど、と続けるシャオラン。モコナは無事な事に安心したのか眠たそうな表情を隠そうとしなかった。それに気が付いたシャオランは言葉を止めて退室しようと立ち上がる。 「夜ご飯、二人分持ってきます。」 「あぁ。頼む。」 黒鋼がこの場所を動かないであろう事を察知していたシャオランは、言ってドアまで向かった。ノブに手をかけ、振り返る。 「黒鋼さん。」 「あぁ?」 「俺も、ファイさんが好きです。皆、ファイさんが好きです。」 「・・・・・・あぁ。」 だから彼を一人にしないで下さい、そう伝えたかったのだろうシャオランの言葉に黒鋼は小さく返事を返した。 パタン。 さて、一人じゃないんだと少年から釘刺された、先程から狸寝入りをしている奴の表情を拝ませてもらうとしよう。月明かりの中黒鋼は意地悪い笑みを浮かべた。 小さな嫉妬から始まったこの話は、こうして幕を閉じたのだった。 後日、いつもの仏頂面の中にも機嫌の良さが見えたサクラは不思議に思って首を傾げた。 どうやら昨夜「街へ出る時は一人にならない事」「店の中でも決して一人にならない事」という二つの約束を取り付けるのに成功した事が影響しているらしかった。 fin. ************* 何だか最後の方ぐちゃぐちゃになってスミマセン。 ファイの不安な気持ちと黒鋼の嫉妬とファイへの気持ちが伝わればいいなあ・・・。 コレにて連載終了ですv有難うございました! 最後の方、言葉だけ見ると黒ファイ←シャオランみたい! 「俺も、ファイさんが〜」の部分。喧嘩売ってるようにしか見えないよね!!(わざとだ・・・) 071001 水方 葎 |