* ミッション *


















ミッション:情報を集めて密書を手に入れよ!



「あの密書は真田家の命綱じゃ・・・。」
豊臣家と真田家の間で不穏な動きがある模様!


「幸村様も落ち着かんのじゃろうて・・・。」
幸村はソワソワしている模様!


「幸村様は今何処に?」
「あぁ、先程から城内を自ら見回っていらっしゃるようだ。」
幸村自らが城内をウロついている模様!


「何やら『半蔵半蔵半蔵半蔵・・・』と小声で呟いていて、眼が血走って鼻息を荒くして忙しそうだったから、声を掛けなかったが・・・」


・・・身の危険を感じる!!




ミッション変更:身の安全を確保しつつ、密書を手に入れよ!




「見付けたぞ半蔵ー!!」
密書の前まで来て、これから印を結び手にしようとしたところで背後から声がかかった。半蔵は手の動きを止め、軽く舌打ちをして振り返った。


情報通り鼻息荒く、眼が血走り顔が紅潮している。


危険だ。


実に危険だ。


今までの経験から言って、この状態でこの男に会えば碌でも無い。
兎に角早く済ませてしまおうと半蔵は武器を構える。
「来い、武士・・・!」
「え!?」
一言呟いて威嚇したつもりの半蔵は、そこで何故幸村が頬を赤らめて立ち止まったのか分からない。
しかし、身の危険を倍以上に感じるのは確かだ。
「いいのか!?半蔵!」
「・・・何の話をしている…。我は早く命を終わらせる為、」
「大丈夫だ後悔はさせぬー!!」
「っ!!!」
ま た か 。
どうやら真田幸村には人の話を聞かぬ上、人の話を最後まで聞かない性質があるらしい。何度目か分からない言葉の遮りに嫌な予感を覚えていた半蔵は、幸村が言い出すと同時に脇へ退いた。案の定変な事を口走りながら此方へ突っ込んできた幸村はカベに激突する事となる。
「酷いぞ半蔵!来いと言ったではないか!」
「戦えという意味だ!」
思わず口をついて出た声は、いつもより大きく怒気を含んでいた。話す事すらあまりない半蔵が怒鳴る事など滅多に無い(それでも一般人が聞いたら普通くらいの声量だろうが)。
数少ない半蔵を知る人間が此れを聞いたら驚くだろう、幸村も例に漏れず少しだけ驚いた。
「は、半蔵・・・そこまで怒らなくても…。」
「武士、お前のミッションは何だ。言え。」
「え?」
項垂れた幸村に、御遣いの内容を思い出させる母親の様に言う半蔵。少しは目の前の人物が敵だとかいう事を認識してもらいたい。そうでなければさっさと密書を渡して欲しいというもの。
「私のミッションか?」


幸村ミッション:服部半蔵を捕獲・真田家に嫁がせろ!


「『服部半蔵を撃破!』だろう!」
「嘘じゃない!ほら見てくれ!」
「書き直すな!」
だんだんと地が出てきている半蔵は、ハッと気が付いて一つ、深呼吸をする。
一方幸村はこれが指令だと言わんばかりに胸を張り、「さぁ捕獲捕獲」と意気込んでいる。
「(敗北条件は我の敗走・・・。兎に角逃げ回った後隙をついて密書を手に入れるしか、)」
「半蔵。」
どこまでも人の言葉や考えを遮断する男だ。
呼ばれて顔を上げれば、いつもより9割増しで真剣な顔をしている真田家の次男が其処に居た。返事の代わりに眼を合わせる。
「・・・・・・密書が欲しいか。」
「我はその為に此処に来た…。」


「ならば、くれてやる。」


ある種とんでもない発言に半蔵は何かの罠かと思い、ほんの僅かに眉を顰め、武器を構える。
しかし幸村はヘラッと笑った後、愛槍の先端を下に向けた。それは、戦う意思が無い事を示す。
「何のつもりだ、武士。」
密書を取り出そうと半蔵から視線を逸らした幸村に、半蔵は問うた。
「私は、半蔵が好きだ。けれど密書は守らなければならない。だが、半蔵と戦うのは嫌だ。・・・負けぬ自信はあるが、半蔵を傷付けるのも嫌なんだ。双方無事に済みはしないだろう。それに半蔵には私を討てという命は出ていないのだろう?それなら・・・渡した方が、双方の身の為になる。」
「・・・。」
半蔵の胸の辺りが、ズキリと傷んだ。
古傷があるわけでも無い。
心の中が痛い。
「・・・正気か?」
「あぁ勿論正気だとも。私は半蔵を、愛しているからね。」
カタン、と戸棚が開く。中の物に手を伸ばした幸村は、大切そうに大切そうにそれを取り出した。心無しか、寂しそうな横顔。
「武士。・・・・我は、武士の事を、」
「だから此れを、受け取ってくれ。・・・・・・っ今回は、追うのを止める。私だって密書が惜しい。・・・さらば!」
得意技の台詞遮りを最後まで遣り遂げた幸村は、密書を半蔵へ手渡した後上へ昇る階段をやたら速く走って行った。最後の方は、声が震えていた気がする。
何となく後味の悪いミッションとなってしまった。先程自分は何と言いかけていたのか考えるが、其れは心の奥底へ入っていってしまったらしく出てこようとしない。一陣の風が、半蔵を包む。
「・・・。」
もしかしたら自分もあの男が好きなのかもしれない。
相手が敵だろうが男だろうが、自分の想いを貫き、真っ直ぐで熱血な、自分とは正反対の男。
昔無くした感情が蘇ってきそうで、とても深い不安に捕らわれる。


違う。
自分は、あの男を邪魔に思っているだけで。
だってあの男は『光』なのだから。


半蔵は気付いていない。否、彼は彼自身で気が付かないようにしている。
『光』には『闇』が必要で、『闇』には『光』が必要だという事を。
そして、無意識に真田幸村という男を『光』として認識しているという事を。




「・・・此処にこれ以上用は無い。」
低く、己の考えを振り払うかのように呟き、ふと手にした密書に眼を遣った。


『恋文 〜服部半蔵殿〜 幸村より愛を込めて』


「――!!!」
僅かに顔が強張った。
瞬間、幸村が駆け上がった階段の方から気配がした。バッと顔を向けると、階段の隅から幸村が顔だけを出して、本物の密書をピラピラ振っている。あれが本物だと言う事は、眼の良い半蔵には一発で分かる。




そして、いつもとは逆転した立場の鬼ごっこが始まった。




「真田幸村・・・滅!!!」
「おおお、怒るな!私にとっては大切な密書なんだ!」
半蔵は自分で気が付いているのだろうか。
幸村は名を呼んでくれた事に頬を緩ませながらも不利な鬼ごっこを続けていた。足は断然半蔵の方が速いのだから。




距離が縮まりすぎた時、不意に逃げ込んだ部屋は幸村の自室で。
布団を引いて、蝋燭を立て、契りを交わす準備万端だと言わんばかりの部屋。
「やっと半蔵を誘い込めた!さぁ私の部屋で契りを交わそう!!」
布団の上で両手を広げてそう言う幸村に、
「・・・っ殺!!!!」
キレた忍者が無双奥義を炸裂さた後、本物の密書を奪って徳川軍に帰って行った。


それは上田城に居た全員が知る、周知の事実。





半蔵:ミッション成功!徳川軍勝利!
攻撃力+5 無双+3 防御力+10 移動力+7 跳躍力+1 回避+7

幸村:ミッション失敗!真田幸村敗北!
頭脳-10 移動力-3 半蔵への愛+100














fin.






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これはひどい。



071001 水方 葎