* 雨宿り *























未だ、徳川が織田の配下にあった頃。
何の理由が無くても敵同士ではないので会えると言えば会える、前田慶次と服部半蔵。しかしいつ徳川が織田を離れるか分からないし、お互いに色々忙しい身なので滅多に顔を合わせる事は無かった。戦の中でも役割的には正反対の所にあったし、いつも忍装束を身に着けている半蔵は、何か重々しい雰囲気が出ていて慶次は苦手意識を持っていた。
それでも、やはり運命という事はあるのだろうか。
ひょんな事から顔を合わせた二人は、それからと言うものの何かにつけて顔を合わすようになってしまっていた。別に意図的に会う訳でも無いのに、何故か顔を合わせてしまう。


本日もそうであった。
小さな戦が終わり、慶次は皆と一緒に織田陣営に帰る事は無く、一人でのんびりと松風を歩かせていた。多少血の臭いが混ざる風が頬を掠めるが、それすらも自分が戦い貫いた証であるような気がして誇らしい。
強風と云う訳ではない其れは、慶次の興奮冷めやらぬ心を穏やかなものにさせてゆく。
愛馬である松風の首を背凭れに、ダラリと乗っかっている慶次は深呼吸をした。
長閑だねぇ、と松風に喋りかけて伸びをする。
薄い、ゆるやかに流れる雲も、そう強くない日差しも、寝るのには丁度心地良い。街中に来てもそれは変わらず、人々の他愛の無い喋り声は雑音というよりも眠りへ誘う子守唄にしかならない。
しかし腹の虫が自己主張した事に気付き、このまま寝てしまおうかと言う考えは遮断された。
「こりゃ寝る前にちょいと腹ごしらえでもするか…。」
何も急いで帰らなければならないと言う事は無い。
慶次は身を起こして、松風を茶屋の前で止めさせた。
「・・・・・・・ん?」
松風の額を撫で、茶屋を振り向くと其処には男女の逢引中のペアが1組。
男の方は少々太り気味で、女の方を見てデレデレと鼻の下を伸ばして笑っている。もしかしたら女の方は軟派されているのかもしれない。対する女は、スッキリとした細い体型で、艶の有る黒髪を腰の辺りまで垂らしている。華やかさを主張しない紺色の着物は女に良く似合っていた。
慶次にはほとほと関係の無い事だった。
軟派されているならば女の方がもっと嫌がっているだろうし、何より自分の出る幕ではない。
しかし慶次は何故かその女が気になって仕方が無かった。確かに美しいし自分の好みではあるが、人のものを横取りする程意地汚くは無い。それならば何故こんなに女が気になるのだろうかと考えながらも慶次は団子3串を店に頼む。同時に代金も手渡しておく。
「ちょっとお待ちくださいな。」
云われた通り表通りで待つ事にした慶次。
眠たさも手伝って何度も欠伸が出る。
「はい、口をお開けになって?」
「あ〜〜〜ん。」
長椅子を一つ隔てた向こうでは、今にもピンク色が飛んできそうな事をやっている。
女は良く通りそうな透明感が有る声で口元を隠し、クスクスと艶やかに笑っていた。
「美味しゅう御座いますか?」
「うむ、やはりお半が食べさせてくれる団子は美味いのぅ。」
「有難う御座います。もう一口如何ですか?」
「うむ。お半が食べさせてくれるのなら、いくらでも食そうぞ。」


・・・・・・


・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・お半?



服部半蔵。
「っ!!!」
それまでそっぽを向いて団子を待っていた慶次は、思い当たる名と女に対する違和感を思い出してバッと勢い良く振り返った。長椅子一つ隔てた先に居る、こちらに横顔を見せているであろう美しい女を。
瞬間。
殺気も此処までくれば其れだけで人を殺せるのだろう、という位睨みつけられた。
ピシリと慶次の身体が固まる。
だがその睨みはほんの一瞬の事で。
「?どうしたのだ?食べさせてくれぬのか?」
「ぁ・・・大名様、何所を触られて…。」
「良いでは無いか・・・。それとも何か?ワシが嫌いか?」
「ぃえ、そのような事は・・・寧ろ好いております・・・。」
団子がきたというのに手を伸ばせないでいる慶次。
「んんっ・・・ぁ・・・まだ、太陽は高う御座います…。」
「お主の肌は気持ちが良い。」
「あっ・・・。あ、あの、大名様・・・。」
「如何した?」
「心を、決めました。今日の子の九ツ時、此処でお待ちしております故…。」
「おお、おお。そうか。やっと心を決めてくれたか。ようやく之でワシとお半は結ばれるのだな。」
「あの…あまり、大声を。」
「分かっておる。それでは余り家臣に怪しまれぬよう、今の所は館に帰らせてもらおう。家臣達め、ワシが夜出て女房となる女を連れて帰ったらさぞ驚くだろう。何せお半の事は誰にも喋っておらんしの。」
「そうなのですか。・・・・名残惜しゅう御座います。」
「そのような事を言うでない、ワシの可愛いお半よ・・・。」
「はい、ではお待ちしております。」
「うむ。」
機嫌が良さそうな男は立ち上がり、『お半』と呼ばれている女の額に軽い接吻を落とし、去っていった。
背を見送っていた女は、人込みに消え行く男の背が完全に消えるのを待ってから立ち上がる。そして道の真ん中辺りで、大名が消えて行った方向に向かって着物を口に当て、柔らかく恥らいながらお辞儀をした。
「・・・・・・・・・・・・・・『お半』さん??」
一部始終を見ていた慶次は茶屋に向かって歩いてきた女に向かってそう声をかける。
が、無視。
「ちょ・・・っ!」
そのまま素通りして店の中に入ろうとする女に慌てて声をかけるが、近くに居た慶次に団子を持ってきたと思われる茶屋の女に咎められた。
「駄目ですよ。」
「お雪さん。」
何がだ、と問う前に『お半』が茶店の女に声を掛けた。
「お半さん。良かったわ。お幸せに・・・。」
「有難う。今まで迷惑かけて御免なさい。」
「いいのよ。貴方がたまに来るあの方に一目惚れして1週間。応援してきて良かったわ。」
「もう此処に来れる事は無いと思うけれど、本当に今まで有難う。」
「うん・・・。じゃあ、幸せにね。」
「はい。」
お雪と言うらしい店の女と会話を済ませた『お半』はペコリとお辞儀をし、通りへ出て行った。
後を追う事も出来ずに慶次は唯突っ立ったままで。
「お客さん。だから言ったでしょう?あの子に声をかけても無駄ですよ。」
明るく笑って言うお雪。
しかしお雪が気付いた時には、もう彼の愛馬も彼自身も、茶屋から消えてしまっていた。
・・・・・・手のつけていない団子を残して。
「・・・・・あらあら。そんなにショックだったのかしら?」



「おーはーんーさぁーん。」
「・・・。」
「おーはーんーさぁーん・・・。」
「・・・。」
あれから直ぐに『お半』を追って店を出た慶次。
別に彼自身に特別用は無いのだが、何故かその姿を引き止めたくてしょうがなかった。
先程から業と偽名を呼び続けながら数歩後を松風と一緒に歩いているのだが、どうにもこうにも振り返ってくれない。下手に距離を縮めると影のようにサッと消えてしまうかもしれなかったので、それだけは避けたかった。
そうして、街を離れてしまった。
林の道をいとも簡単に縫って歩く姿は、まるで幻の様。着物に傷一つつけないで歩いている。
「・・・・・・・・いつまでついて来る気だ。」
「お。やっと振り向いてくれたねぇ。」
振り向き様に返って来た声は、やはり姿形とは合わない低い彼のモノで。
「何の用だ。」
「用・・・・は、別に無ぇんだけど。」
「・・・・・・。」
「ちょ、ちょっと待ってくれって!」
「用が無いのなら、待つ意味も無い。」
スッパリと切り捨てて森の奥に姿を消そうとする半蔵を、慶次が捕まえた。振り解かれると思われたが、半蔵は慶次に手首を掴まれたまま慶次を睨む。
が、その瞬間二人の身体に振ってきた雨粒。
いきなりで強い雨足に驚く慶次。それもその筈、先程まではあんなに良い天気でお天と様が拝めたのに。
「あちゃ〜・・・どっか雨宿り出来る樹はねぇかな・・・。」
青空が差しているので、長く降り続くことは無いだろう。自慢の武器が錆びてしまうので、雨の中佇む事だけは避けたいと、慶次は空を見た後半蔵を振り返る。しかしその姿は目の前に無くて。
「・・・・・・何所を見ている。」
先程まで手首を掴んでいたのにと、慌てて辺りを見回す。
すると5間くらい離れた大樹の下から声がかかった。
素肌に着物を貼り付けた半蔵が、鬱陶しそうに髪をかき上げながら慶次を呼んでいる。松風も一緒だ。
「・・・・濡れるぞ。」
「あ、あぁ。」
あんなに拒絶されていたのに今は同じ樹の下で雨宿りをする事を許してくれるのだろうか。
何だか自分の間抜けさに溜息をつきたい気持ちになりながら、慶次は半蔵と松風が居る樹の下まで小走りで走った。成る程、この樹は余程樹齢を重ねているのであろう、人間二人と松風が入っても全然雨が落ちてこない。それどころかこの場所だけ雨が降っていないかのような空気だ。


慶次は黙って2間程先に落ちる雨を見つめていたが、2尺程離れて樹の幹に身体を預けていた半蔵がいきなり着物を脱ぎだした。同時に懐から取り出した布で丁寧に顔の化粧を拭き取ってゆく。髪に差していた空色の簪も優雅な手付きで抜き取って、懐へ仕舞う。
スルリスルリと2〜3枚の着物を脱いだ先にはいつもの黒い忍装束ではなく、薄い白いほうの忍装束があった。脱いだ着物は綺麗に折り畳む。
「あ…半蔵さん。それ、脱いじゃっていいのかい?」
「?・・・・・何故。」
「や、まだ、その、・・・・夜。さっきの奴と会うんだろう?」
『お半』から『服部半蔵』へ変わってゆく様を何故だか恥ずかしくて直視出来ずにそっぽを向いていた慶次が、質問する。
影の仕事は色々ある。
多分先程の物も仕事の一部なのだろうと思うが、心を寄せもしない大名に色仕掛けをするのはあまり関心出来ない。というよりも何処か心が痛む慶次。その仕事の中には勿論身体を許すものもあるのだろうし、先程のように誘い出して夜に殺すものもあるのだろう。
そう思ってのことだった。
しかし半蔵は鉄仮面を剥がす事無くしれっと答えた。
「もう死んでいる。」
「・・・・・・え?」
どういう事だろう。
仕事に詮索を入れる気は無いが、この服部半蔵という男の事は気になる。
慶次は、忍の仕事を聞く訳じゃないと自分自身に言い訳をして、再び尋ねた。
「でも、さっき夜中に会おうって約束してなかったかい?そんで、嫁に行くんだとか・・・。」
「・・・実際今日の夜中に会って殺せば曲者が居ると怪しまれる。茶稽古の後に寄った茶店の団子に毒を入れて殺せば、少なくとも『服部半蔵の仕業』であると気付かれる事は無い。」
あぁ、そういうことか。
だから、もうその着物を着ていなくてもいいんだ。
妙に納得した慶次は難しい顔をして頭を掻いた。
「何だかそういうやり方、俺は分からねぇなぁ。」
「貴様に分かってもらおう等とは思わぬ。」
「それもそう、だけどよ。」
生きている場所が違う、と半蔵は思った。
光があれば、影もあるのだと言いたかったが、それは口の中へ押し込んだ。
雨は、未だ止まない。


着物を畳み終わり、髪を結おうとしている半蔵に慶次が欠伸をしながら恨めしそうに声をかけた。
「ふぁあ〜・・・。団子食って寝ようと思ったのに、予定が狂っちまったな。」
「・・・金なら渡す。」
「違う違う。そんなもん別にいらえぇし。お半さんを追いかけたら食いはぐれたって事。」
「貴様が勝手に追いかけて来ただけのこと。」
「そりゃそうだ。だけど眠くて仕方ねぇな・・・さっきの戦、別に梃子摺るもんでも無かったのに。」
「・・・・・・・何が言いたい。」
遠まわしにある事を要求しようとすると、それよりも先に勘の鋭い半蔵が自分より下から上目遣いで睨んでくる。
良い眺めだねぇ、と思いながら慶次は大樹の根元を指差した。
「まだ半蔵さん時間大丈夫だろ?ちょっと座ってくんねぇ?」
「何故。」
「う〜ん、ま、人助けだと思って。」
「貴様を助ける義理は無い。」
「お堅いねぇ。」
そうして暫く睨み合っていたのだが、結局折れたのは珍しくも半蔵で。
「・・・・これでいいのか?」
「あぁ、うん。膝崩してくれて構わないよ?」
ちょこんと正座する半蔵に何か愛らしいものを感じた慶次。最初から1尺と少し背の差がある二人だったが、半蔵が根元に座ることによってその差は更に広がる。そうして半蔵が膝を崩したのを見計らって、慶次も半蔵の近くに腰を降ろした。
そして。
「!?」
「あー気持ち良いわ。」
半蔵の太腿を枕にゴロリと寝転がる。
巨体である慶次の膝枕にしては少々頼りないが、何故かとても心地良かった。
「は・・離せ!」
「やーだね。」
立ち上がろうとする半蔵の腰に両手を回してしまえば、いくら忍頭目服部半蔵と言えども抜け出せる事が出来ない。半蔵の腹の方に顔を向けて慶次は微笑んだ。
「少しくらいいいだろ?減るもんじゃねぇんだし。」
運が悪ければ武器が己の首を掻っ切るかと思っていた慶次だったが、意外に半蔵の抵抗は口と少しばかりの力だけで、次第に抵抗をなくしてゆく。慶次は腰に回していた片手を上げて、半蔵の腰程まである見事な黒髪を梳いた。
「綺麗な髪してんなぁ・・。」
「それ以上触ればこの場で滅す。」
「ごめんなさい。」
慌てて手を腰に戻して、上目遣いに半蔵の表情を伺う慶次。
いつもとさして違いは無かったが半蔵も諦めがついたのか、木の幹に身体を預けて溜息をついていた。
そうして逃げられる事が無いのだと悟った慶次は満足そうに瞳を閉じた。
元々腹が減っていたよりも眠たかったのが手伝って、すぐに夢の世界へと旅立ってしまう。意識が混濁する直前に見たのは、半蔵の頬を伝う一粒の雫。それは、雨が落ちてきたのか、それとも。



最初半蔵を見た時に、人ではないのかと思った。
それこそ、『闇』が人の形を取っているかのようなもので。
それに酷く興味を覚えた自分が居た。
性格から仕事から役職、全てが自分と正反対の影。
表情を無くしてしまった其れは、どんな風に笑い、どんな風に泣くのかと。
どんな風に怒り、どんな風に悲しむのかと。
『闇』の中の『服部半蔵』を、見たい。


あぁ、何が何でも見たくなってきた。





慶次が意識を混濁させている間、半蔵は空を眺めた。
其処からでは空模様は余り分からないが、この分だと一刻もしない内に止むであろう。それまでは、こうしていても良いかもしれない。第一腰に両手を回されては動けるものも動けなくなってしまう。それほど慶次の力は強かった。
「(何故この男は・・・・)」
動けないのは、慶次に押さえつけられているだけだからだろうか。この温かさは・・・。
否、そんな事はどうでも良い。
それよりもこの男は、何故自分に構おうとするのだろうか。
不思議でならない。
解せぬ、と口中で呟いて息を漏らす。
今まで自分に構うものは、誰一人として居なかった。影なのだから、その存在自体が怪しまれ、時には闇自体のように扱われる。それが良かった。自分にとって、心地良い筈だった。
なのに、今自分の腰にしがみついて眠る男は。
「・・・。」
やたらと、自分に構いたがる。
不思議で仕方が無いと同時に、新鮮なものを覚える。そうしていらない感情まで戻ってきてしまうのではないかと思ったが、そんな事は無いだろう。
ただ、この男は自分が光だから、闇である自分が珍しいと思うのだろう。そうでなければ自分に興味を持つはず無い。そうして『闇』に飽きたらまたいつものように、戻るのだ。いつかは敵対するかもしれない。
その事が。
何故か、心の何処かが痛くなる。
ズキリと差すような痛みではなく締め付けられるような、直接的でない痛み。
この痛みは何なのだろうと半蔵は僅かに首を傾げた。
目の奥がジワリと熱くなったと同時に、上から一粒の雨が落ちてきて、頬を濡らす。それは重力に従って直線を描き、慶次の頬へ落ちた。
「・・・・。」
何が何だか。
この男と居ると分からぬ事ばかりだと考えを中止して、半蔵も存在感がある木の幹に身体を預け、眼を閉じた。




ふと、頬を撫でる生温い風に慶次は眼を開けた。
パチ、パチ、と、数度瞬く。
辺りはもう夕暮れ色に染まっていて、あれからどれくらい経っているかなんて容易に想像がつく。
しまった寝過ごしたか、と思いながら身体を起こすと、やはりそこに半蔵の姿は無かった。
気が付くと、己の頬に不自然にポツリと落ちている一粒の雫。上体を起こすと同時に流れ落ちそうになる其れを指で掬う。そして何の躊躇いも無しに、ペロリと舌で舐めた。僅かに…そう、ほんの僅かだが、涙の味がした・・・気がする。
自分が眠りに落ちる前に見たあれは、本物の涙だったのだろうか。
「簡単に泣く奴だとは思えねぇけど。」
雨が落ちてきたという可能性も否定できないし、と思っていると、そういえば半蔵が居ないのならば頭にあったあの柔らかさはなんなのだろうと、後ろを振り返る。
するとそこには、綺麗に畳まれた紺色の着物。
更に今気付いたのだが、自分に掛けられた外側に着ていた着物と思われる、畳まれた其れよりも濃い色の着物。慶次からすれば結構小さいので掛けてもあまり意味が無いのだが、無いよりはマシと思われたのだろうか。
「・・・・意外だねぇ。」
時間になったら己を振り落としてでも帰るのだと思っていたが、それはどうやら間違いだったようだ。自分に気付かれぬように、しかし頭を痛めないように置いていった其れは、持って帰れば今度会う時の口実にもなるだろう。
闇しか広がっていないと思っていたが、どんどん知れてゆく半蔵の内面に慶次はウキウキする。
もっと、彼を知りたい。
もっと、もっと。
「さぁ帰るか松風!」
掛けられていた紺色を綺麗に畳み、枕として使われていた其れも一緒に胸元へしっかりと抱き締める。
暇だったのか、そこら辺をはぐれない程度に散歩していた松風が主人の起床を見て近寄ってきた。慶次は松風の額に手を乗せると、松風も応えるかのように摺り寄せる。
「・・・・・ん?松風、何だいそりゃあ。」
鞍の上に乗っている小さな包み。鞍に紐が縛り付けてあって落ちる事は無かったが、少々危うい。
手にとって解いて見ると、そこには慶次が食べ損ねたと駄々をこねていた団子が3串、綺麗に並んでいた。
「・・・・。」
これは。
これは、もしかしなくても。
自分が『闇』としての服部半蔵ではなく彼自身に興味があるように、彼も自分に興味を寄せてくれているのだろうか。考えて慶次は嬉しくなる。
少なくても、嫌われては無い筈だ。
雨宿りする前の気弱さは何所へやら、慶次は一転してそれを大事そうに持って松風へと乗り、走り出す。
着物を懐に、団子を手に。
この団子は、帰るまで食べないでおこう。
帰ったら味わって食べるのだ。

















fin.







*************
一時の雨宿り。てか半蔵が優しすぎた。ちぇ。
多分風邪引かれたら(軍として)困るのと、餓死されたら困るのでだと。素直じゃないなぁ。
あ、お半っていうのは多分偽名のネタが尽きてきたのでたまたまソレにしたものと思われます。

慣れ始め慶半が書けてればそれで。
どうでもイイけど、半蔵実機EDの『光有る所に影は有 されど影は輝けず…』ていう一節が凄い好きなんですよ。これぞ慶半って感じで。
半蔵って慶次の事「貴様」って言うのかな。「戦人」とか「お主」とかかな・・・。
いずれにせよ不完全燃焼作品で申し訳ない気が。


071001 水方 葎