* 心理テスト *





















「ひろ〜い草原に一匹の兎を見つけました。さあ、貴方は兎に対してどう思った?」
「・・・・・・心理戦か何かか。」
「いや、テストって言って下さい。心理テストって。」
雑誌を眺めていたと思えば、唐突に妙な事を口に出したキャスケット。ペンギンが船内資料から目も離さず答えるが、それは彼の望んだ答えではなかった。
「ていうか何でそう物騒な方向へもっていきたがるんですか。」
ぶうぶうと文句を垂れたキャスケットは、船長室に居る面々・・・と言っても主であるローとペンギンといういつものメンバーに加え洗濯物を届けに来たオスロ、を見回した。
「なにナニ〜、面白そうじゃん。」
好奇心丸出しのオスロはサングラス奥の猫目を細めて雑誌を覗き込む。が、それより早くキャスケットが乱暴にそれを閉じた。
「見たら意味ないだろっ!お前から答えろ!」
「え〜?しょうがねぇなあ。」
そう言うと少し黙り込んで上を向く。
きっと豊かな想像力を行使して全力で妄想しているのだろう。
が、出てきた答えはキャスケットの予想を嫌な方に上回っていた。
「エロイ。」
「・・・・・・・・・はぁ?」
思わずキャスケットの米神がひくつく。ついでに唇の端も歪んだ。
「お前馬鹿じゃねーの何で兎がエロイんだよとうとう見境無くなったのかよ!」
この変態!と罵るキャスケットに、オスロはどこ吹く風と首を傾げる。
「だって兎だろ?バニーちゃんだろ?黒ビキニに網タイツは捨てがたいけど、白もイイよな、いや大穴で野兎色のお姉s・・」
「そっちの兎じゃねーし!!!」
やってられるかと雑誌を丸めてオスロの頭を叩くキャスケット。
もう日常となっている二人のやり取りに、ローとペンギンは一言も、視線すら交わさず手元の書類を黙々と読み続けていた。
そんな自分達と対称的に冷えた空気へ、キャスケットが身を割り込ませる。
「ね、ね、二人は?」
「船長に危害が及ぶモノかどうか判断するのが先決だ。」
「それ兎じゃなくてもいつもやってる事じゃないですか。」
即答するペンギンに脱力するキャスケット。先程から激昂したり落胆したりと忙しい。
「ふん・・妙な兎だ、と思うだろう。」
「妙?」
「外敵に見つかっても逃げ場が無いところに一匹で居るのは妙だろう。」
「え、ああ、まあ・・・。」
言われてみれば、と返事をするがそう現実的な話をして欲しかったのではない。
眉を顰めてそれはそうですけどと口籠るキャスケットへ、ペンギンが小さく付け足した。
「・・・そこにしかない大切な何かを守っているのかもしれないな。」
「うっわ、ペンちゃん意外とロマンチスト〜!」
即座に茶化すオスロの笑みは見ない事にして、キャスケットは満足した面持ちで小さく頷いた。
「そうかも、しれないですね。」
「ねーねー、ローたまは?兎だって兎!」
いつの間にか移動したオスロがローの肩に手を置いて顔を覗き込んでいる。
敏感肌であるため人に触られるのを嫌うローだが、親しいクルーにはそれを許す。いわば特権のようなものだった。たまに自分の位置を確認するように触れるオスロをペンギンがチラと横目で見たが口を開く事は無かった。
「・・・・・・うさぎか・・。」
話を振られて漸く考える気になったらしいローは、んー、とオスロに倣い斜め上を見る。
「・・・いいんじゃねーの?」
「へ?」
これまた意味のわからない答えを返され、わくわくと待っていたキャスケットは目を瞬く。
「いや、だから。・・・可愛いじゃねーか、うさぎ。」
多少言い辛そうに放たれた答えは、ローがふわふわもこもこ好きだった事を思い出させるに十分だった。
「食料としてなら旨そう、ただ見ただけなら可愛い、だろ。あとはそうだな・・・抱いてみてぇよな・・・。」
想像上の綿毛のような毛を纏う兎に想いを馳せるローは、小さく微笑んだ。
病的でマッドサイエンティストの気がある容姿とは裏腹に、彼は可愛いものが好きだ。一日に一度はベポに抱き付き頬擦りをするし、以前ペンギンの形をした抱き枕を手放さなかった事もある(オフ本:日常クリップ参照)。その時の事を思い出したのか、想像上の兎に嫉妬しているのか、ペンギンが詰まらなさそうな顔で横を向いた。
心理テストの結果を知るキャスケットは、そんなペンギンのようすにどうかこれ以上彼の機嫌が悪化しませんようにと願いながら苦笑した。
「で?キャス坊。コレで何が分かるんだよ。」
聞いたからには結果を寄越せとオスロがキャスケットの肩を組むと、祈りを諦め雑誌の頁を捲りだす。何だかんだ言って他の二人も興味があるのだろう、視線は雑誌に向かっている。


「えー…その答えは、『周囲の人間があなたへ思う事です。』」


「・・・・。」
キャスケットの答えに、先程の和気藹々とした空気が嘘のように静まり返る。
「『例えば寂しそうと答えた人は、周りから寂しそうに見られている、という事です。結果を元に自分を分析し、行動を振り返ってみては?』・・・・って事です。」
注釈をも丁寧に読み終えたキャスケットは、恐る恐る雑誌を閉じる。
同時に彼の肩に回された腕が震えた。
「ぶっ・・・くく・・・・、」
堪える声は5秒も保たなかった。
「でひゃひゃひゃひゃ!ペンちゃん妙な人ー!!!」
「黙れ歩く淫猥物!」
「ひゃっひゃっひゃ!!自分で自分を変な人って、あっは、分かってんじゃーん!!」
余程ツボに入ったのか息継ぎのタイミングが掴めないまま笑い続けるオスロ。
しかしペンギンは己の評価が妙な人、という事で声を荒げている訳ではなく、オスロが自分を笑う事に怒っているのだとキャスケットは冷静に分析して溜息を吐いた。
「つーかおれが歩く淫猥物なら、妙なペンちゃんだって同じじゃーん!」
息子さんと一心同体なのはしょーがないでしょー?と笑いの型を崩さず反論するがペンギンはお前は特別卑猥だと蔑む。もう怒るのも無駄だと既に呆れモードである。
というより彼の問題は他にあったらしく、それよりも、と話題を切り替えた。
「抱きたいとはどういう事だ抱きたいとは。」
話題の先は言わずもがなである。
オスロも便乗するかのように笑いを卑下たものへと変え、標的を変更する。
「可愛い、旨そう、抱きたい、だっけぇ?うはー、ローたま積極的ィ!」
二人ともこれはあくまで心理テストだから本気にしないで、などというキャスケットのフォローは威圧感ある二人により黙殺される。彼らからすれば本気じゃないなど今更で、だからここまで騒げるのだ。
当のローはと言うと、いつの間にやら意識は既に本の中だ。
「船長、自覚があるなら手っ取り早い、もう少し貞操観念を―・・」
「あぁ?何言ってんだよペンギンおれは『獰猛で鬼畜で強そうな兎』っつったろ。」
「いやそんな兎どこを探しても居ませんから。」
「何そのドラクエに出てくる一角兎みたいなの。」
視線は活字に向けたままいけしゃあしゃあと返すローに、流石に無理があるとキャスケットとオスロが突っ込みを入れる。が、ローは譲らない。
「『獰猛で恰好良くて強くて頭も良い世界で最高の兎』・・・だよな?ペンギン。」
念を押すように低い声でローが問えば、彼の人の首は即座に縦に振られる。
「あぁ、確かにそう言ってたな。」
「出たよ船長が黒と言えば白も黒!!!」
「何か増えてっし・・・。つーか結構当たるもんなんだな、心理テストって。」



そうしてキャスケットが持ち込んだ心理テストは、この後数日船員達の間で妙な流行をみせたのであった。オスロが言いふらした、ローの『可愛い、旨そう、抱きたい』という答えと共に。














fin.





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皆さんの答えはどうですか?




120221 水方 葎