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* 毛100% * 「そうか、ペンギンって・・・毛、抜けるんだな。」 あまりに唐突なその言葉に、おれは返答できなかった。 分厚い生物図鑑を眺めていた船長は、一人納得顔で頷いている。 「えーと、船長。そりゃペンさんだって一応人間ですし・・・。」 おれの中ではあまり人間としては認めたくないのだけれどなんて思っていると、会話を聞いていた本人がはぁと溜息を吐く。 「おれじゃななくて、鳥類の方のペンギンの事だろうが。」 言われて気付く。あぁそうか。 改めて船長の方を見てみれば、角度でよく分からないが頁は確かに鳥類のペンギンの項目を示していた。骨格やら内臓やらが詳しく記載されているので、おれからすればまじまじと凝視したい代物ではない。 船長の横顔はうっすらと笑みを浮かべていて、その笑みの種類があまり良くないものだと感付いて、己に火の粉が降りかかりませんようにと祈るばかりだ。 「船長、その笑みでおれの心拍数が危ない事になってます。」 「そりゃ恋だろ、恋。」 突っ込んできたのは船長、ではなくてオスロだ。真昼間から健全な太陽の下、グラビア雑誌片手にこんな事言うのはコイツしかいない。 「お前に同調するのは癪だけど恋は認めるよ。」 「じゃあそのついでにそろそろおれの事も先輩で超カッコ良くてイケてるって認めろよ。」 「嫌だね変態万年発情期。」 「あぁ・・・その褒め言葉・・・イイかもッ・・・。」 悶えてみせる奴に反応すればつけあがるから、無視。 これはおれが最近学んだ奴の対処法だ。反応をして貰えなかったオスロは小さく愚痴を呟いて唇を尖らせている。可愛くねーから。 「で?それがどうしたんだ、船長。」 おれたちの遣り取りをまるで聞いていなかった(というより船長に関する事以外興味を持たないのは自他共に認める事実だ)ペンさんは、船長の後ろまで歩み寄る。さっきまで面倒な書類で手一杯じゃなかったっけ?この人。 船長は、んーと唸りながら、背後に来たペンさんの腹へ頭を寄せる。 「クッション・・・・。」 先程の台詞とこの単語の意味が繋がらないおれは小さく首を傾げるけれど、ペンさんはあぁと頷き即座に答えを出す。その勘の良さに呆れ半分、嫉妬半分。 「作りたいのか。毛で。」 毛というより羽と言って欲しいのだけれど、目の前の二人の会話には入り辛いものがある。 「船長。北の海に居た頃ならともかく、この辺じゃペンギンなんて見かけないぞ。」 「まぁ、結構温かい海が続いてるしな。」 「第一ペンギンの毛なんてあまり良いものじゃない。」 「何でだよ?」 「防寒には優れているし水も弾くかもしれないが、あまりふわふわしたものではないだろう。」 嗚呼正論。 というよりいくら船長が作りたいと言っても今すぐ作れるものじゃない。まず材料源が無いのだから。そしてあったとしてもそんなに大量にむしれるものじゃない。確かに船長の趣味は虐待だけれど、その対象は人間に限るのだ。 しかし船長は諦めきれないというように眉を寄せて、拗ねた表情を作る。さっきのオスロとは段違いな破壊力で、その表情に釘付けになってしまうおれはやっぱり恋する青少年、だと思う。 「んなの分かってる。けど大事なのは手触りなんかじゃなくって。」 中身がペンギンの毛って事なんだよ。 そう言う船長は、恍惚とした表情で『夜その羽で作ったクッション抱けば眠れそうだよなぁ』なんて呟くものだから。 やめてくれ、貴方の何気ない言葉一つで、ほら。 「よし狩ってこよう。」 どんな無茶でも聞き入れたいと思ってしまっている人が。 「・・・おれも付き合います。」 「おー、じゃあオニーサンも行こっかなー。」 少なくとも、此処には3人も居るのだから。 fin. ******** ペンギンの羽ってつるつるでふわふわ感は無さそうだよね。 最初ペンギンの髪の毛を毟るギャグにしようとしてたごめん。 結局はペンギンが居るからやっぱいいや、って話になったそうです。 120221 水方 葎 |