* メイン *





















おれの食事には大抵メインが無い。
いつものように食堂のテーブルへ着きながら、夕食の皿を確認する。
隣に座るキャスケットが嬉々として「さかなさかなさかな〜♪」などと妙な歌を歌っている。どこかで聞いた事があるのは気のせいだろう。それにお前は魚を食べても一向に頭が良くならないから、その歌は間違いだ。斜め向かいのオスロはキャスケットの歌に鼻歌を合わせながらコップに水を注いでいる。ベポは見張りの時間か。
その他、サッと食堂を見渡して特に変わった事が無いのを確認し、食事へと向き直る。


・・・足りない。


けれどそう口にするのも憚られる。
餓鬼ではないのだから、駄々を捏ねる訳にはいかない。
が、やはりメインの無い食事というのは味気ない。夕食はいつも通り美味しく、栄養バランスにも問題無いように思う。当たり前か、ウチの優秀な栄養士が監修しているのだから。
その他今日一日の流れや船の事を考えながら黙々と食事をしていると、キャスケットが顔を覗き込んできた。
「ペンさん、物足りない顔してますね。」
まるでメインディッシュが無いような。
そう続けるキャスケットにわざとらしさを感じておれは無視を決め込む。
メインが無い食事の後はどうしても空腹感を伴うが、副船長がこんな事でどうする、と呆れに似た溜息が出る。が、これでもう連続して4日、いや5日になるのか?毎日毎食こうだと流石にストレスが溜まる。
「いやー、ペンちゃんイライラしてるねぇ。」
オスロが焼き魚の白身を頬張りながらニヤニヤとしている。
「イライラなどしていない。」
即座に言い返すが、キャスケットとオスロは目を合わせて苦笑するだけだ。
何だお前達、普段はあんなに気が合わなさそうな素振りをしておいて、こういう時だけ。
ガヤガヤとにぎわう食堂はいつも通り。
スープの良い匂いと焼き魚の香ばしい香りが部屋中を満たしていた。
おれはスープをくいと飲み干しながら、意地汚い事は思うまいとする。しかしそう思えば思うほど欠けたものが気になり、存在を主張してくる。一度意識してしまえば簡単に離れてくれそうにない。朝食の時はそれほど気にせずいられたというのに、自分も精神的にはまだまだという事か。
「・・・・・・毎度のことだ。」
別に昨日今日の事でもない。
自身を納得させる為に発した言葉は、喋り始めていたオスロ達に聞こえずに済んだらしい。思わず口をついて出てしまったので良かったと思う。
夕食は栄養がとれて、ある程度腹を満たせればいい。
メインがおれの夕食に無いからといって、別に、早くこの部屋を出てしまえば、こんな想い。
「あ!船長!」
キャスケットの声に、おれは飲んでいたスープを下げる。視線の先では、居心地悪そうに入ってくる船長。それに気付いたクルー達が我先にと声をかけ始める。キャスケットも立ち上がって出入り口へと駆け寄った。
2、3他のクルーと言葉を交わしたローがおれの視線に気付き、小さく笑った。



どうやら今日の夕食には、珍しくメインがあるらしい。






















fin.





********
好きな人ととる食事の美味しさは異常。
ペンギンは異常すぎて正常運転です。

昔ボツにしたものを採掘アップ。
もっとペンギンが苛められてハブられてるっぽい表現を出したかった。。。



110111 水方 葎