* ひとがた *





















「おれと来るか?キャプテン・ジャンバール。」
おれを解放する声を聞いたのは、つい先日の事だった。
わざわざ『キャプテン』と付けたのは、自分の下に、という言外の威圧だったのだろうが、あの時のおれは天竜人の奴隷から解放されるなら何でも良かった。
もう一度海に出られるのなら、誰だって良かった。
けれどここ数日で、『誰だって』から『トラファルガーという男で』という言葉に変換されつつある。
太陽のように明るい訳ではない。
力で支配する訳でもない。
けれど確かに人を惹き付ける"何か"を、確実に持っていた。
そしてそれは生活の中で、戦闘の中で、如何なく発揮されているように思う。
本人の自覚は別として。














ひゅ、と一陣の風が抜ける音が聞こえた。
距離があるにも関わらず、まるで其処が舞台上であるかのように舞う姿を視界の端に認める。
二億の首だという噂は天竜人の会話から既に聞き及んでいた。けれど、悪魔の実の能力保持者だからとはいえ細い身体からはとてもそんな金額想像がつかない。グランドラインはいつだっておれに見た目で判断する愚かさを教えて来たが、この男はその最たるものかもしれない。


それほどまでに、男が人を殺す様は綺麗だった。


圧倒的な質量としての力は無い。
けれどそれを補うように、いや、上回る程のセンスが男にはあった。
どこをどうすれば。
次にどれを斬れば。
どう身体を捻らせれば。
どの力を抜けば。
どういう角度で振り下ろせば。
計算し尽くされたかのような、完璧な演舞のような動きで戦場をただ斬り進んでいる。
残るのは風音と、数秒で消える阿鼻叫喚。
遠目にも分かる男は目の前など見ておらず、只、薄く笑んでいた。




ああ、まるで。




まるで殺戮―・・









「人形だなんて、思わないで。」











ぼう、と男を見ていたおれの背後から、抑揚の無い若い声。
「船長は、人形なんかじゃ、ない。」
泣きそうな声を残して戦場に戻る青年の姿は、男を、船を守るために血塗れだった。
見渡せば同じように揃いの白いツナギを赤に染めたクルー達の姿。
戦場なんて見慣れている筈なのに、この海賊達が戦う姿はどこか暖かく、そして冷たい。
見下ろせば、自分の服も赤黒い血に塗れていた。
海に出ていた頃は不快でしかなかったそれが、他のクルー達と同じそれが今、厭ではない。
おれがキャプテンとして成りあがり、堕ちるように天竜人の奴隷となったのは、全てこの海賊と出会う為だったのではなかろうか。全くもって馬鹿げた考えではあるが、否定する材料は無い。
そうでなくともおれは解放を必要とし、男は力を必要とした。
利害の一致。
ならばおれは、おれの全てを捧げよう。






殺戮人形ではなく、トラファルガー・ローという男の為に。






「コッチ片付いたぜ。・・・って、何だよ神妙な顔しやがって。怪我でもしたのか?」
舞を終えて近付いてくる船長を見て、解放してくれたのがこの男で本当に良かったと心から思った。

















fin.





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ルフィのように明るい訳でも、キッドのように力がある訳でもない。
でも戦闘センスはズバ抜けてるんじゃないかと思う。
殺し方に無駄が無いというか。

そういうローと、ローをローとして守ろうとするクルー達と一緒に航海する未来を喜ぶジャンバールが書きたかった。ローに解放されて良かったね。




101114 水方 葎