* 甘く *





















キャスケットがローの私室に入った時、ふわりと甘い臭いが鼻をかすめた。
「あれ?」
さっと視線を走らせてみるが、元になるようなものは見付けられない。キャスケットは訝しがりながら、黙々と本を読むローの隣に腰掛ける。
「んだよ。」
「いや、別に・・・。」
落ち着きの無いキャスケットを声だけで気に掛けるロー。首を振るキャスケットは気の所為だったか、と机上に上半身を預けてだらしなく伸びる。今日は疲れた。
ふと、視線の端でローの口元が動いた、ような気がした。
「あれ?」
「あ?」
「ローさん何か食べてます?」
「食ってるけど。」
やばい幻が見えるくらい疲れてるのか、などと思いながら発した質問は、それこそ幻ではないかと思うような肯定で返ってきた。
「・・・・・・・・・え?」
思わず喉を詰まらせるキャスケット。
ぱちくりと目を見開きローを見返すと、再びローの口元がもそりと動いた。
ぷくりと不自然な程大きく膨れる頬。
「あめ・・、ですか。」
「ん。」
結構な大きさなので返事もままならないらしい。そういえば部屋に入ってきた時から、何かを含んでいるような声だったかな、と思い返す。
どうせ糖分が足りないから、とか今日のサプリ代わりに、とかそういう理由だろうがキャスケットにとって、理由などどうでも良かった。
「何味です?」
チラと唇の隙間から見えた色は、白と黒。
口内の紅が混ざり合って、扇情的な光景に思わずクラリ、眩暈がする。
「んー・・・。」
考える風を見せたローが、また口の中のそれを転がした。


「ペンギン味?」


血が滲む包帯を右目に巻いたペンギンが、穏やかに笑った。










fin.





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ネタバレ↓
・眼球って結構大きいから口の中に入らないんですよ
・キャスケット「疲れた」→それなりの相手との戦い→ペンギンの怪我
・白と黒→あと黄色が見えてれば完璧ですね





100927 水方 葎