* 鉢合わせ *





















鉢合わせ、というのは思いがけず出会う事を言う。
しかしこう頻繁に顔を合わせては、果たして偶然で言えるのだろうか。
一本道の前方に見えた黒い一団を睨み据えつつ、ペンギンはそう思った。
まばらな人混み、時刻は夕暮れを少し過ぎた頃である。その一団を認めた瞬間、買い出しの時間をもう少し早く切り上げていれば、夕食を外で取ろうと言い出したキャスケットに賛成しなければ、などと後悔が胸の内に渦巻く。
しかしそんなペンギンの心を知ってか知らずか、ローは気軽に声を掛ける。
「ドレーク屋じゃねぇか。」
「貴様とはよく会うな。」
本当に出来過ぎなくらいだ、とペンギンが心の中で吐き捨てる。
偶然であれ赤旗が仕組んでいたものであれ、気に食わないペンギンは機嫌の悪さを隠そうとしない。隣ではキャスケットが戦々恐々と冷や汗を流していた。
「まぁたパトロールか?海賊が海軍の真似事してんじゃねェよ。」
規則正しく街を闊歩するドレークのクルー達に視線を流し、ローが呆れたように言う。
「貴様がそれを言えた立場か。」
「おれはまだ何もしてねェ。」
むっとして睨みつけるが、ドレークは鼻で嗤うだけである。
「くれぐれも海軍お膝元のこの島で騒ぎを起こすなよ。」
「おれに命令すんな。バラされてぇのか。」
刹那、殺気を膨らませるロー。
本気ではないとはいえ、相手が乗れば即座に斬りかかる事の出来る構えだ。しかしドレークは先に放った言葉通り、挑発に乗る気は無いらしい。ローの間合いに一歩近寄って口を開く。
「・・・トラファルガー、お前ただ単に暇なんだろう。」
「まぁな。」
殺気を解いてケロリと言い切るローにドレークはため息を吐いた。
「ついでに飯を食いに行くのも阻止出来て一石二鳥、か?」
それほど深い関係ではないのだが、いつの間にかローの小食ぶりはドレークに知られていた。そしてドレークとの邂逅を理由に時間を潰そうとしている事も。
「そこまで分かってンならおれに付き合えよ。」
「生憎、貴様の思惑に乗ってやるほど暇じゃないんでな。」
だが、と続ける声にピクリとペンギンが内心身構える。
それが分からないドレークではないが、気にせず先を続けた。
「丁度こっちも飯時だ。それになら付き合ってやっても良い。」
ローが口角を上げる。
時間を潰せはしなかったが、それはそれで都合が良い。ドレークが居れば自然と船長同士話し込む事になり、無駄に食べ物を勧められる事なく酒が飲めるからである。
「奢りだろうな。」
「二億の首がそれを言うのか。」
呆れたように言うと、ローが振り返ってクルーに、特に大食らいのベポに向かって告げる。
「オイお前ら、今日は二千二百万ベリー分食っていーぞ。」
「貴様!」
賞金の差額を皮肉られ、額に青筋を浮かべるドレーク。しかしローに怒鳴るその表情は決して悪いものではなかった。
ふと突き刺さる、殺気を隠そうとしない視線にドレークが目を向けた。外される事のない漆黒の眼光とぶつかるものの、ドレークは気にも留めず身を翻す。
「…ほら、行くぞ。どこの店に行く予定だったんだ。」
「適当。何か良い店知ってんのか?」
「そうだな、この通りの先の・・・・」
偶然、鉢合わせ。
そんな事がこの一週間で五回も起こってたまるかと思いながらも、ペンギンは二人の後をついて歩くしかなかった。最早見慣れてきてしまった赤旗の一団を、明日はどう回避すべきかと考えながら。
「貴様はもうすこし物を食ったらどうだ。それと、殺り合う連中を見物するのはやめろ。もし海軍に嗅ぎつけられたらお前まで主犯と思われ―・・・」
「今日はジャックダニエルが飲みてェな。」
「人の話を聞け!!」



シャボンディ諸島、今日も色々な意味で平和である。













fin.





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何だかんだでほぼ毎日顔を合わせるドレークと、それが気に入らないペンギン。
心の狭さが伺えます(両者の)




100927 水方 葎