欲に忠実









男が二人、対峙している。

白のツナギを着た男は、PENGUINとロゴが入ったキャップの下で、切れ長の目を険しくさせている。

黒曜石のような漆黒の瞳は怒気とも警戒ともつかない感情を湛えていた。

もう片方の男は、派手な桃色をした羽飾りの上着に身を包んでいる。

サングラスをかけているため表情は読み取れないが、卑下た笑みを浮かべている。

まるで目の前の男を値踏みしているようだった。


見た目からして正反対な二人は、互いに相容れない事を感じとっている。

歩み寄ろうともしないまま、時間だけが流れてゆく。

空間が切り取られたかのように、辺りには二人だけだった。





静寂だけが二人を見詰めていた。





やがて、蛍光色の羽織りをはためかせながら男が口を開く。

「人ってぇのは、己の欲と利益の為にしか動かねぇ。」

対峙する男は無言だった。

意図を測りかねている、というよりその先を促す沈黙。

「お前は、何故アイツの傍に居る。」

言葉は呟きなどと可愛らしいものではない。

弾丸のように速く、ナイフのように鋭く、男を襲う。


「何の利益がある?」


其の言葉を聞いた瞬間、口を閉ざしていた男の瞳がより一層鋭くなった。

生涯の憎しみ全てを込めたような威圧。

それでも問うた男は笑みの形を崩さない。

「―・・・それは。」

漸く呟かれた声は、憎しみを押し殺すのに必死なものだった。

今度は立場が入れ替わり、派手な色の上着を羽織った男が、やはり笑みを湛えたまま首を傾げてみせる。

ぅん?と漏らす声はまるで馬鹿にするかのようなものだった。

しかし男はそれに対して拘泥する訳でもなく、静かに口を開く。




「傍に居たいという、おれ自身の欲望の為だ。」




その台詞に、ハッ、と鼻で嗤う声。

「ご大層な理由だな。」

笑みを絶やさない男だったが、今のそれは明らかに不快を示していた。

男の返答が気に食わなかったらしい。

「金や損得だけでない想いが存在しているのは、貴様も知っている筈だ。」

憮然とした態度でそう告げる男の瞳は、あまりにも真っ直ぐだった。

サングラス越しに視線を受け、咄嗟に彼の頭の中に浮かんだのは初老の女性の存在。

反論しようと開きかけた男の口はそっと閉じられる。




ややあって、男は派手な羽織りを翻す。


「そうやって嘘吐いてると愛想尽かされるぜ。」

金が全てである彼には、男の返答は自身を理解出来ていないだけと映ったらしい。

存在を否定出来ずとも想いなどという不確定なものは、彼の中ではあまり意味を成さないのだ。

そうして捨て台詞と共にひらりと手を上げて去る後ろ姿。

残された男は溜息を吐くように小さく呟いた。

「嘘じゃない。・・・ただ、」

不意に自嘲が漏れる。

誰に見られている訳でも無いが、隠すように帽子のツバに手を掛け俯いた。




「・・・欲に忠実なだけだ。」




欲というより本能に近いものを確信しながら、男は愛し人を想った。











fin.




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偶然会ったとかそんなの。
娘はやらん!とか言い出しそうなやりとりですね。
微妙にドフツル入り。…ドフラのキャラ難しいなぁ。





100430 水方 葎