* ゴクゴク *




















それぞれが好き勝手甲板に座り酒を煽っている、そんな夜の事だった。
適当に円を組んで、とりとめのない話をしながらも"ソレ"に気付いたのは、キャスケットだった。別に凝視して観察していた訳ではないし、気付いたのは本当に偶然である。
だからこそ、その言葉が思わず口から零れたのだ。
「船長、変わってますよね。」
常日頃から他のクルー達から考えが足りないだの後先考えないだの言われている彼だが、今回ばかりは否定出来そうにない。その証拠にキャスケットの一言にピクリと反応したローは小首を傾げていた―・・・のは良い、問題はその隣を陣取っていたペンギンだ。
彼はとてつもなく胡乱な眼でキャスケットを見ている。否、睨んでいると言っても過言ではないだろう。
「えっ、いや違いますよ?文句とかじゃないですよ!?」
「・・・まだ何も言ってないだろう。」
視線に気付いたキャスケットが慌てて身振り手振りで己の無罪を主張する。
その様子に呆れたペンギンがグイと手元のビールを煽った。
「で?おれの何が変なんだよ。」
言ってみろ、とあくまで尊大な態度でローが言う。あぐらをかいていた足を崩し、少し後ろへ凭れる体勢になりながら、ペンギンと同じようにビールの樽ジョッキを傾ける。船長用にとキャスケットが取り分けたツマミの皿は綺麗なままだ。
そんなローの様子を、キャスケットはじぃと見つめる。
見られていると知りながら、ローはキャスケットの言葉を待った。


一口。


二口。


三口。


コクリ、コクリとローの喉が鳴る間もキャスケットは喋ろうとせず、とうとう傍へジョッキを置く。
トン、と床を叩く軽い音が煩雑な空間に響いた。
「それです!」
「は?」
ジョッキを置いた途端声を上げられ、ローは再度首を傾げる。意味が分からずペンギンの方を向くが、彼も肩を竦めるだけであった。
「船長、何で三口なんですか?」
「・・・?」
「ビール飲むと、絶対三口でジョッキ置くんですよね。」
言われた意味が分からず眉を寄せると、ようやくキャスケットから説明が入る。するとローは面食らったように目を見開き、ぱちぱちと瞬いた。それは即ち、無自覚だったという事だ。
ペンギンは分かっていたのだろう、ああそのことか、と小さく声が漏れ聞こえる。
「・・・・そうか?」
「そうですよ。ね?ペンさん。」
「まあな。」
だいぶ前から知っていた、と言われてしまっては面白くない。ゴクゴクと勢いよく酒を飲むペンギンを尻目に、ローは多少の腹立たしさを覚えながらも再度己のジョッキへ手を伸ばす。
コクリ、コクリ、・・コクリ。
トン。
「ほら。」
「〜・・・っ!」
全く意識していなかったのだが、ジョッキを置いた瞬間キャスケットに指摘されて返す言葉が無くなるロー。楽しそうに笑うキャスケットと、苦笑しながらツマミを口に放るペンギンに挟まれ、居心地が悪くなりぷいとそっぽを向く。
他の奴らの様子を見回ってくる、と断わりを入れて席を立つペンギンに軽く返事をしたローは、憮然とした態度のまま口を開いた。機嫌が悪い訳ではないが、若干拗ね気味ではある。
「別にどう飲んでようと人の勝手だろ。」
「まあ、そうですけど。」
飲み方も大人しいですよね、と言いながら同じようにジョッキを煽るキャスケットは、ゴクゴクと喉を鳴らして流し込む。確かに両者を比べればキャスケットの方が確実に勢いがある、所謂普通の飲み方だろう。喉越しを楽しんでいるようなその飲み方にカチンときたローは、半ば自棄になって自分のジョッキを引っ掴んだ。
「・・・っ、はぁ・・・。やっぱあの島の酒はウマイっすねー。」
ドン、と床を鳴らして空になったジョッキを置くキャスケット。そして己の小皿に取り分けた唐揚げを手で掴んだ、その時だった。勢い良く酒をガブ飲みしようとしているローの姿が目に飛び込んできたのは。
「ちょっ!?せんちょ、何やってんですか!?」
ゴクゴク、というよりガブガブ、という擬音語が似合いそうなほど豪快にジョッキを傾けていく様はキャスケットがしていたら普通かもしれないが、今それをしているのは先ほどまで少しずつ喉へ流していたローだ。ジョッキを取り上げる事もやめさせる事もできずにオロオロしていると、限界だと言わんばかりにビクリと痙攣しローが咳き込んだ。飲みきれなかった酒が派手に服を濡らす。
「・・ッ、ゲホッ、ゲホ、ゴホッ、」
「あああっ、無理しないで下さいよー!」
「っくしょ…、無理じゃ、ねぇ・・・ゲホッ、」
「ああもう、分かりましたから!おれが悪かったですって!」
気管支に入り込んだのか、尚も咳を続けるローの背中をさすりながら、ハンカチを取り出して袖や胸元を拭うキャスケット。治まらないローの咳に水を持ってきた方がいいかと思案していると、背後から禍々しい殺気。


「 何 を し て い る 。 」


その低い声を聞いた瞬間、キャスケットから血の気が失せたという事は、きっと言うまでもないだろう。













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被害者はいつも一人!^w^(名探偵風に)(あれコレ前にも言った気が)


キャス「ほらおれ野郎ばっかの所に長い間いましたから皆豪快に飲んでましたし。だから珍しくてつい…。」
ロー「ふん。人を勝手に珍獣扱いすんじゃねぇ。」
キャス「駁Xねないで下さいよ!」
ロー「拗ねてない。」
ペンギン「おれも気にはなっていたんだが、ただの癖だろうと思ってな。(見ていて和むし。)」
キャス「(今この人カッコの中で何か言った…!)で、理由があるんですか?」
ロー「別に・・・なんつーか、あれ以上入れると喉が苦しいんだよ。…ま、癖だな。」
キャス「普段食べない挙句、飲み物も水以外あんまり受け付けませんし。そう考えると当たり前かも。」
ロー「酒は嫌いじゃねぇよ。」
キャス「じゃあツマミも・・・。」
ロー「(ぷいっ)」
ペンギン「船長、あっちにスミノフ用意してあるぞ。」
ロー「流石ペンギンだな、行こうぜ。」
キャス「ええ!?こういう二段オチ!?おれ可哀想すぎる…!」
ペンギン「自分で言うな。ほら、行くぞ。」
キャス「うぅ・・・はーい…。」




091128 水方 葎