おにごっこ























「ハァッ、ハァ、ハッ…!!」


もうどのくらい走り続けただろう。
酸素を求め続ける肺が痛い。
それでも、足を止める訳にはいかなかった。


逃げないと。

逃げないと。

追い付かれてしまう。





逃げ場なんて、何処にも無いのに?





おれは頭を振った。
違う、違う違う違う!
余計な事を考えるんじゃない!



「(今はただ…逃げるんだ…!!)」



肺に入る冷たい空気に、ぐっと唾を呑んで耐える。
ともすれば止まってしまいそうな足を叱咤して階段を飛び降りた。



走れ、走れ。
捕まったら…捕まったら
喰われる…!



ここは駄目だ、
曲がろうとした先にペンさんの後ろ姿を見つけて、おれは即座に足を止める。
あちらからは死角になるよう、壁へ貼り付き気配を殺す。
必死に荒い息を抑え込んで、ギリリと唇を噛んだ。





どうして。どうしてこんなことに?





「いたぞ!」
「キャスケットだ!」





背後から聞こえた捕食者の声に驚く暇もなく、弾かれるようにして再度走り出す。
考える暇も与えてくれないらしい。
「(当たり前か…)」





もう、味方は居ないのだから。





追ってくる複数の声に心臓が跳ねる。きっともう、ペンさんにも見つかってる筈だ。
けどあの人がそのままおれを追ってくるとは思えない。どこか、先回りをしてくる筈…!
ガッ、と右手を軸にして角を曲がる。多少指が痺れるのも気にしていられない。
ここは甲板へ続いている廊下だ。
外へ出ても、一網打尽かもしれない。
そうなったら終わりだ。



「(逃げなきゃ…!!)」



けれどおれの思考は「逃げなければ」、そればかりで考えの先が一向に思い浮かばない。
思い浮かぶのは、ただ。













おれをこんな状況に追いやった、残酷なほど綺麗な船長の笑み。
















やめてください、と口にする暇はなかった。

懇願する事すら許されない。





そう、見付かってはならない。船長にだけは。





気を抜いたらガクリと折れそうな足で、甲板への扉を蹴り開けた。
段々と、足の限界がきている。
足だけじゃない。
「(・・・心、も。)」
逃げなきゃ、そう思う心とは裏腹に諦める気持ちがあったのは否めない。
だから、かもしれない。






甲板に佇む船長を見て、足を止めてしまったのは。
















「キャスケット。」





    おれの名を呼び、ゆるりと顔を上げ・・・、

















「―・・・ッ!」
我に返ったおれは、目が合う前に脱兎の如くその場から逃げ出した。
けれど、その先には。

「ペン、さ・・・っ!」

どこをどう回り道をしたのか、目前から向かってくるのは副船長その人だった。
ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
もう頭の中は真っ白だった。
警告音だけが真っ赤に鳴り響く。









ヤバイ!!!!








踵を返して逃げ出すけれど、甲板の広さなんてたかが知れている。
そんな事は、分かっていた。
けれど、逃げなければ。
後ろを振り返る勇気と暇なんて無い。
逃げなきゃ。






逃げなきゃ!!!








その瞬間、ガシリと肩を掴まれた。























「終わりだ、キャスケット。」












今までの火照りが嘘のように冷える身体。
噴き出していた汗も急速に引いてゆく。



荒い呼吸の中、見上げた視線の先で船長が笑っていた。



ああ、船長、おれはその顔が見たかったんです。



















  ― 残 酷 な ほ ど 綺 麗 な 、 そ の 笑 顔 ― 
































一つ、制限時間は半刻。

二つ、逃亡者の数+1を捕食者とする。

三つ、逃亡者を喰らった捕食者は以降の捕食を禁ず。(捕縛は可)

四つ、船長は逃亡時以外の能力を禁ず。

五つ、武器の使用を禁ず。
















fin.











***************
キャス「だから!別に気を抜いてた訳じゃないんですって!!」
ペンギン「どうだかな。船長を見た瞬間足を止めただろう。」
キャス「―って、何で知ってるんですか!?どこから見てたんですか!?」
ロー「ていうかお前、ヤバくなると甲板に出てくるよないつも。」
キャス「それはこう、広い所に出たがる心理というか・・・。(船長に会いたかったなんて言えない)」
ペンギン「狭い場所で敵と対峙したらどうする。そういう時の訓練も兼ねてるんだぞ。」
キャス「船長が今日に限ってあんな事言うからこんな事になったんですよ!?」
ロー「ああ・・・たまにはペンギンと同じ役がやりたい、ってか?」
キャス「だから船長かペンさんと同じ役をやる筈だったおれがこんな四面楚歌に…!船長とペンさんが組んだら誰も勝ち目ありませんって!!」
ロー「おれは見てただけじゃねぇか。勝手に足止めたのはお前だろ?」
キャス「そうですけど・・・!そうですけど・・・・!!!」


あ、ちなみにコレは訓練後などの身体が疲れてる時を狙って(あと船長の気分で)突発的に行われます^^
全力でおにごっこする夢を見たついでに書いてみた。
そしてもっとホラーっぽくしたかった・・・。




091119 水方 葎