* かぞえうた *























「 ひとつ ひとよに ひとばしら 」


























「 ふたつ 
ふたあな ふたみごろ 」






























「 みっつ みごろし 
みなごろし 」


























「 よっつ よのつね 
よのむじょう 」


























「 いつつ いつしか 
ひとりきり 」


























「 むっつ 
むくろに くちづけを 」


























「 ななつ なみだも 
かれはてて 」


























「 やっつ 、               .









サクリ、
草原に足音が響いた。
「・・・・・・・・・・なんて歌を歌ってるんですか、船長。」
脛ほどまで伸びている草を踏み分けながら、キャスケットは丘の上に辿り着く。
海と街が見渡せる丘はしんと静まりかえっていて、ただ
かぞえうただけがゆるりと風に乗って運ばれていた。
足を伸ばし座るローの傍らには、いつものように腕を組んで立つペンギン。キャスケットはローを挟むようにその反対側へと腰を降ろした。ペンギンは、やって来たキャスケットをチラリと一瞥しただけで何も言わない。ローに至っては、まるでキャスケットの存在に気付いていないように海と空の境界線を眺めたままだった。





「やっつ やみよに―・・・」





ふと、流れていたローの声が行き場を失った。






「・・・・やっつ、やみよに・・・・・。」





同じフレーズを繰り返すが、そこから先に進まない。
ペンギンの視線が隣に座るローへと落ちる。彼の位置からではいつもの帽子しか見えず、表情を見る事が叶わない。対するキャスケットは覗き込めば顔を見る事が出来るのだろうが、そうしようとはしなかった。かといってローと同じ其処を見ている訳でもなく、じっと俯いて足元の揺れる草を目で追っていた。





「・・・・・やっつ・・・・、やみよに・・・・・・・。」





「「船長。」」
続きが思い出せないのか、その先を言い淀んでいるのか、それすらも分からないようなローの途切れる声音に被さったのは、両脇からの声。咎める訳ではなく、ただ普通に話しかける声はひどく優しかった。
「・・・・・・・・・・・。」
すると薄い気配も視線も変わらないものの、声だけがそっと止まる。
同時に、潮の匂いを乗せた生温い風が3人の間をすり抜けた。





「かえりましょう。」





「みんな、待ってる。」





キャスケットとペンギンの声に、ローがふわりと顔を上げる。
ぼうっとした光の灯っていない目が、左のペンギンを、次いで右のキャスケットを捉える。
その顔には表情が乗せられていなかった。
















「「船長。」」
















先程より幾分か切ない呼び声が、重なる。
ペンギンの求めてやまないような声に、キャスケットが泣き出しそうな声に、ローはゆっくり目を瞬かせた後、ようやく
かぞえうた以外の言葉を口にした。
「・・・・・・・・あぁ。帰るか。」
口元には、小さな笑みが浮かんでいる。















サクリ、サクリ、サクリ、



三人分響く、草を踏み分ける足音。



サクリ、サクリ、   、



一人分、止まる足音。



   、



つられて止まる、二つの足音。



一陣の風が吹き抜けた。










なにをかぞえていたんですか。











それは、決して聞ける事のない問い。
ペンギンとキャスケットは、立ち止まり丘を振り返る背中をただひたすらに見詰めていた。
































その先には、十で数え切れない無数の墓が広がっている。






























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ローはそういう人やものに呼ばれやすいんじゃないか、という妄想。




091115 水方 葎