溺 れ、 る。 たまに、潜りたくなる時がある。 昔は泳げたとか、泳げなかったとか。 そんな事は忘れたし、思い出す必要も無ぇけど。 ザ ブ ン ッ ゴボッ、ゴボ、 ゴボゴボ。 ゴボ、ゴポゴポッ。 大きく小さく、空気が上へ上へと昇る音が篭って聞こえる。 『・・・っ、・・・・・・!・・・!!』 『・・・、・・!?』 海の中まで聞こえる声。 あれは、キャスケットとペンギンか? ああ、そういえばキャスは近くに居た気がする。 水面へ向けていた目がきつくなって、ゆるりと目を閉じた。 真っ暗。 ま っ く ら だ 。 ゆらゆら。 ゆらゆら。 もう大きな空気は漏れない。 どんどん水面が上へ昇ってゆく感覚。 光が、遠ざかる感覚。 嗚呼、違う。 おれが落ちてるのか。 ―堕ちてるのか。 何だかそれすらどうでも良くなって、 心地良い感覚に小さく笑った。 甲板には、ゲホゲホと空気を求め咳き込む声二つ。 「ガハッ、ゲホ、は、・・・っ、はぁ、は・・・っ」 「・・・ケホッ、・・・・・っ・・・・はぁ・・・・・眩し。」 仰向けで酸素を補給したローが、四肢を投げだしたままぽつりと呟いた。隣ではクルーの証である白のツナギをびしょ濡れにしたペンギンが座り込んで息を整えている。 「船長・・・、・・・・本当に、っ・・・はぁ、・・・いい加減にしてくれ。」 肩で息をするペンギンへチラと視線を投げたローは小さく「水も滴るイイオトコじゃねぇか」と答えになっていない返事をする。 「・・・船長。」 聞いているのか、とペンギンが眉を寄せる前に、隣でロープを片付けていたキャスケットが寝転がったままのローを覗き込んだ。 「おれだって船長が落ちる度に心臓縮むんですから!」 そんなにおれを殺したいんですか!と胸部に手を当てながら、ほぅと息を吐く。 落ちた瞬間を目にしていたのだろう、明らかに飛沫ではない水が頬を伝っているのがローの場所から見て取れた。冷や汗だろう。咎める言葉を飲み込むこととなったペンギンも、心臓を落ちつけようと胸をさすり深呼吸を繰り返している。 キャスケットが言った寿命が縮むという言葉も強ち嘘ではないらしいと、ローは心の中で頷いた。と、そこで一つの結論が弾き出される。 「・・・・・何、お前らそんなに早くおれから離れてぇの?」 「「今の話で何処をどうやったらそんな考えになるんだ(ですか)!!」」 当然、二人から詰め寄られる事となるのであった。 ******** たまに溺れたくなるローの話。一種の癖。 クルーを信頼してるからこその行動。 090923 水方 葎 |