* 今此処にある体温 *




















行為が終わり少し落ち着き、熱が篭っていた部屋の空気は冷ややかさを取り戻しつつある。
ローを抱き締めたままのキャスケットは、己の中心がローに包まれている事実に幸福感を覚えて柔らかく微笑んだ。
「・・・何、笑ってんだよ。」
その気配を察したローが、咎めるように言う。決して怒ってはいないが不貞腐れるような声に、キャスケットはローに回している腕に少し力を込める。
「嬉しいなあ、って思って。」
それはとても充実感にあふれた声だった。
ローはそれ以上何も言う気になれず、黙り込んでしまう。恥ずかしかったのか呆れたのかは定かではない。そんなローの薄い背中にぴたりと胸板を合わせたキャスケットは、もう一度クスリと笑う。細い首筋に頬ずりをすると、夜の色を宿したローの短い髪がキャスケットの前髪と混ざり合う。

―・・・ああ、好きだなあ・・・。

普段体温が低いローだが、情事後という事もあり、少し身体を密着させただけでキャスケットへ熱が伝わる。その事がどうしようもなくキャスケットを安心させ、心を満たしてゆくのであった。
「…ね、せんちょ・・・。」
「ぁ・・?」
「このまま寝たら、駄目ですか…?」
抑えが効かなくて無理をさせた自覚のあるキャスケットは、ローの眠たそうな声に小さな罪悪感を感じながらも願い事を申し出る。普段ならばもうお互い身体は離れ、後片付けをしたり、シャワーを浴びたり、事後処理を後回しにして寝入ったりしている頃合いだ。
けれど今日は、何となく繋がったままで居たかった。キャスケットはローに返事を促すように、ちらりと首筋を舐める。
「ん・・・。」
むずがるような吐息に、再度キャスケットのものが反応しそうになる。
「あさ・・・ちゃんと、おきろよ・・・。」
「分かってますって。」
既に睡眠へ片足を突っ込んでいるのだろう、珍しく寝惚けた声を出すロー。
「それから、朝勃ちしても、ヤらせねぇからな・・・。」
その言葉にキャスケットはギクリとして言葉に詰まる。朝起きた時に繋がっていてローの温かさに包まれているのに、感じるなという方が無理であるからだ。
けれどここで馬鹿正直に「そんな事言わないで下さいよ」などと強引になれないキャスケットは、明日朝の自分に全てを託してしまえと思い小さく呟いた。
「・・・が、頑張ります…。」
果たして朝に頑張れているか、トイレで泣きを見る羽目になるかは分からないけれど、どんな代償を引き換えにしても今の幸せは大きかった。
キャスケットの台詞はローの及第点だったらしい。少し間が空いた後、勝手にしろとだけ口の中で呟いたローは相当眠いようであった。これ以上は話しかけない方がいいな、と判断したキャスケットは満足気にローを抱き締める。
「へへ…、ありがとうございます。」
明日起きたら、結合部分はきっと乾いてしまい、下手をしたらそのまま風呂場へ直行、という事も有り得るだろう。船じゃなく、室内シャワーがついている宿の部屋という事は許しが出た理由の一つかもしれない。


とっても、とっても贅沢な事だけど。
たまにはこんな日があってもいいと思う。




そうしてローを想い、腕にある存在を確かめながら、キャスケットは眠りに堕ちた愛しい人の耳元へそっと囁いた。



「おやすみなさい、船長…。」




明日も、変わらず貴方を守ります。











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そんなキャスロ!




水方 葎