●ベポとっておきの手品について



「・・・で、手品をするんだって?」
ベポが呼ぶ方へ足を進めながら、ペンギンが問う。ローも興味津々といった様子だ。
コッチコッチ、と呼ばれた場所はそのままローの室内で、さほど移動はしていない。ペンギンの部屋と繋がっている引き戸(今はローの私物によって塞がっている)の前で3人と一匹が集まった。
「うん、一度しか見せられないから、よ〜〜く見ててね!」
キャプテンとペンギンはその場に座ってね!と言われ、顔を見合わせ腰を降ろす二人。
残されたキャスケットは首を傾げる。
「おれはどうすんの?」
「ああ、キャスケットはコッチ!」
木箱やら服やら薬剤やら、色々な物が積まれたローの私物を少しずらし、ようやく姿を見る事が出来た引き戸の前にキャスケットを立たせるベポ。つまりはお手伝い的な立ち位置である。
「キャスケット使うのか?」
「うん、だってキャプテンには見てて欲しいもん!」
おれじゃねーのか、と残念そうに言うローへ、ベポは楽しそうに言う。
その一瞬で機嫌を直したローは、へぇ、と含み笑いをし、少しだけペンギンへと寄りかかった。
「ベポのとっておきだからな。お前もちゃんと見とけよ?」
「そうだな。」
肩に頭を乗せ、上目遣いで覗き見るローに頷くペンギン。
そんな二人にはもう刺々しい雰囲気など皆無で、心中そっと安堵するキャスケットだった。
「おれは何すればいいの?」
さて、とベポに向き直ったキャスケットだったが、次の瞬間視界がベポの背中で埋め尽くされる。
前に立ち塞がれたのだ。
「キャスケットはねー、そのまま!」
楽しそうな声に首を傾げるキャスケット。
ベポの大きな身体で遮られ、その位置からはローとペンギンの座っている足元しか見る事が出来ない。こんな状態で何をされるのか少し不安に思う、と同時に湧き起こる嫌な予感。
「あの、ベp」
「じゃー始めるよ!ここに一つのキャスケットが居まーす!」
キャスケットの訝しがる台詞はベポによって掻き消され、物扱いかよ、という突っ込みすら忘れて脱出を試みる。けれど足を動かそうにも、人一人立っているのがやっとなローの私物置場兼引き戸の出入り口は余裕など無い。挙句ベポの巨体が前を塞いでいるので逃げ場などあるはずもない。
「いや、あの、ちょ、」
必死に3人の間に割り込もうと試みるも、ベポを始めローとペンギンには届かない。
ローはベポの手品という響きに完全にワクワクしていたし、ペンギンも船長が嬉しそうであれば結局は何でもいいのだろう。キャスケットの嫌な予感が最大限まで膨れ上がる。
「二人とも、今から3秒間だけ目を瞑ってね!」
「ああ。」
「分かった。」
そして始まるベポのカウント。


いーち、
       ガラッ
にー、
       「ちょっ、待っ、」
さーん、
       ドンッ   ピシャッ


「キャスケットが消えましたー!!」
拍手ー!と盛り上がるベポ。
一瞬きょとんとしたものの、意味を理解したローとペンギンが賞賛しながら拍手する。
消えたというより、聞こえていた音と声からして締め出したという単語が近いだろうが、それはそれ。ベポが楽しそうなのでついついつられてしまうローと、やはり船長が楽しそうならば後は比較的どうでもいいペンギンだ。それぞれの思惑を仕舞いこんだ笑顔と拍手が2人と1匹の間に流れる。
「おー、すげぇなベポー。」
「ああ、一瞬でキャスケットが消えたな。」
ぱちぱちぱち。

そして二人は思い出す。

「「(あの引き戸の裏って・・・)」」





そう、引き戸一枚隔てた向こう側では。
「あああああああっ!だから嫌だったんだよおおおお!!」
後ろへ突き飛ばされたキャスケットが、ペンギンの部屋に仕掛けられている毒針を避ける為にブリッジの体勢で震えていた。咄嗟に片手をついた板が毒針でなかったから良かったものの。

「この板だっけ?あの板だっけ?てか何で未だかつてない危機が船内で起きてんの!!?

誰か助けてー!!と情けなく叫び声を上げるのは、あと数秒後の話。





Side magic fin.



キャスケットの嫌な予感=死亡フラグ となりました^^
苛めじゃありません、愛ある弄りです^w^
身体を張って船長を楽しませたと思えばキャスケットも・・・報われねぇえええ!!


2009.06.15    水方 葎