* どうかどうか、その声で *




















「船長!!船長!!!」

あらん限りの声で叫びながら腕を伸ばすが、それは届く筈もない。そもそも今のペンギンには、四肢全ての感覚がなかった。腕や足が繋がっているのか、切断されているのかすら分からない。けれどペンギンにとってそんな事は重要では無かった。ただひたすら眼前の光景に、もがき苦しむ。

「船長!!」

複数の荒い息使い、急くような小声、その中心に居るのは。

「ぁ、あっ・・・!」

がくがくと乱暴に揺さぶられている人物こそ、ペンギンが命を懸けて守ると誓った、ハートの海賊団の船長。手足には海楼石の錠と思われるものがガッシリと重く嵌められ、細い体には酷く不釣り合いであった。その身体にはいくつもの生々しい赤の傷痕と、白い濁液が散りばめられている。何時からこの行為が行われているかなど考える余裕も無かったが、それでも男達やローの疲弊ぶりからして、今しがたではない事は簡単に計算がつく。

「っ、・・・は、ぁ・・!」

「船長!!!」

ペンギンがいくら呼んでも聞こえていないのか、はたまた意識が飛んでいるのか、ローは反応はしない。ただ虚ろに目を開いて、顔も知らない男たちのされるがままだ。
否、拒絶する力も残されていないのか、身体に力すら入っていないのだ。

「船長!!!」

叫び暴れ手を伸ばすのを嘲笑うかのように闇はペンギンを呑み込み、段々と意識をも奪ってゆく。

「オラッ、啼けよ、もっと啼け!」
「ふ、ぁ、ぁ・・!」
「ハハハハハッ!もう出す精子すらねぇのか!空イキしてやがる!」
「これじゃまるで女みてぇだなぁ?」
「俺達も全員空っぽにしてもらうぜぇ、トラファルガーよぉ!」

口に陰茎を銜えさせられ、無理やり動かされてもローは意識を戻さない。ただひたすらに、身体の反応のまま喘ぐだけであった。まるで性奴隷の扱いに、ペンギンは己が壊れそうになるのを感じていた。

「やめろおおおおお!!!」

叫ぶ、けれどローはおろか男達にすら届いていないらしく、近いようで遠いその場所はまるで別世界のようだった。

「やめろ、船長に触るな!!!」



バキバキと、心が悲鳴を上げていた。

どうしていいか分からない。

届かない。



「んぁ、はっ、・・・ぁ、あ、」

そうしている間もローは男達の手により乱暴に扱われ続ける。

「く、出る…!!」
「オイオイ、何発目だよ?」
「んな事言ったって、・・・ッ!」

男の言葉が途切れたと思うと、ローがびくりと身体を震わせ、目を見開いた。

「ひっ、ぁ、ああああっ!!」





「ロー!!!」


ペンギンの割れる程悲痛な叫びは誰に届く事も無く、闇に葬られていった。










「―ッ!!」
ガクリ、と、身体が跳ねた感覚でペンギンは目を覚ました。
まるで階段を踏み外したようなそれに、心臓がバクバクと激しく鼓動している。
「・・・・・っ・・・。」
目の前の闇を凝視して呼吸を整えると、そこは見慣れたペンギン自身の部屋だった。使い慣れた枕と、薄い掛け布、じっとしていれば波に揺れる船体を感じる事が出来る。
「・・・・・。」
闇の中で一瞬混乱してしまうが、どうという事はない。
ただ夢を見ていただけだ。
性質の悪い夢を。
「…何やってんの、お前。」
唐突に腕の中から聞こえるくぐもった小さな声に、ペンギンはそっと掛け布を捲る。昨夜、腕枕をと差し出しておいた左腕の下、ちょうど心臓あたりにローが頭を寄せている。そう、二人は昨夜ペンギンのベッドで眠りについた。
ローは少し背を丸めながらもぴたりとくっついていて、この距離ならば跳ねる心音で起こしてしまっていてもおかしくはない。何せローはこういう音にとても敏感だ。
「・・・起こしたか。」
返事をした声は少し掠れていた。
「起きてた。」
「・・・・・・。」
その言葉に、起こしたのではなくて良かったと安堵すべきか、眠っていなかったのかと溜息を吐くべきか。返答に詰まるペンギンへ、ローが少しだけペンギンを見上げた。
「悪い夢でも見たのかよ。」
からかうように笑みを浮かべるその表情に、ペンギンの緊張していた力が一気に抜ける。と同時に、なんて夢を見てしまったのだろうと自嘲した。

あんな状況になど、させる筈がない。

大丈夫だ、船長は此処に居る。

ローの言葉には答えず、ペンギンは右手でぎゅっと細い身体を抱きしめ深呼吸を繰り返す。体温はあまり感じられない上、気配も無い。けれど確かに腕の中に存在するローは、ペンギンを安心させた。
からかいを含んだ疑問を肯定するようなペンギンの行動に、珍しい、とローは思う。何せペンギンという男は、普段自分の事を表に出したりせず、ローの手を煩わせないように動く。それが今はどうだ、自分を落ち着ける為にローを抱き締めているのだ。
嬉しいような楽しいような気持ちになったローは、すり、と甘えるように、そして甘やかすようにペンギンへと擦り寄る。すると僅かに高くなっているペンギンの体温と、自身の低めの体温がゆっくりと混じり合ってゆくような気がした。昨夜ペンギンに腕を枕にしてくれと言われたが聞くつもりの無いローは、この懐に潜り込むような体勢が、体温が混じる体勢が、気に入っている。
いつもは首を痛めるぞと忠告しているペンギンだったが、今宵は何を言う気にもなれず、ただひたすらローを抱きしめていた。
何があったか、どんな夢を見たかは分からないがおおよその見当がついているローは、ペンギンの腕の中で小さく笑う。抱きしめられた力は強すぎはしないが、決して弱くもない。それは離すつもりはないという意志の表れか、無意識か。
「ペンギン・・・。」
「どう、した?」
呼ぶ声に返事をするが、ローは何も言おうとしない。
「ペンギン。」
「船長・・?」
「ペンギン…。」
「ロー?」
名を呼ぶだけで、その先を言おうとしないローへ、ペンギンは首を傾げるばかりだ。思わず名前で呼び返すと、悪戯っぽい瞳がペンギンへと向けられた。
「名前。」
「・・・名前?」
ん、と小さく頷いて、ニヤリと笑むロー。
「呼ぶ度に、お前の心臓の音が落ち着いてく。」
「・・・・。」
ローの言葉にペンギンは思わず呼吸を忘れる。
確かに、悪夢によって植え付けられた不安も恐怖も取り払われていた。
妙に強張っていた肩の力も、いつの間にか抜けている。
「そのまま心臓が止まったら困るから、もう呼ばねぇけどな。」
「心配しなくても止まらないから、呼んでくれ。」
「心配なんてしてねぇよ。」
「じゃあ尚更だ。」
引き下がらないペンギンに、ローは今度こそ声に出して笑った。
このまま妙に力が入っていては眠れないだろうから、と名前を呼んでみたのだが、効き目は抜群だったようだ。今度は先ほどよりも少し強く、ペンギンの胸元へとすり寄った。
「・・・しょうがねぇな。」
「頼む、船長。」
楽しそうに笑うローへ、ペンギンがつられて笑う。


愛しい者の声が、姿が、腕の中に在る。

もう此処は悪夢ではない。

船長は、自分を捉えている。



そしてローは乞われるが侭にもう一度、その名を口にした。








「ペンギン。」







ああ、もう悪夢など見ることはないだろう。


そう思いながらペンギンは、静かに瞼を閉じたのだった。









fin.





********
ペンロが一緒のベッドに入って、
ローがちょっと笑いながらペンギンの胸元に擦り寄って、
ペンギンが幸せそうにローを抱き締めてる。

そんな光景が、すごく愛しい。


・・・と思ったけど、ペンギンがあまりにも幸せそうでムカつくから、その前に悪夢を見て貰った^w^
ペンギン好きだよ!!ペンロはもっと好きだよ!!?<説得力皆無




090727 水方 葎