* Mission! 3 * 〜ベポの場合〜 「う〜〜〜〜〜〜ん・・・。」 おれは、高い見張り台の中で考え込んでた。 あ、ちゃんと見張りはしてるよ! 「何なら食べてくれるかなぁー?」 考えてるのは、もちろん大好きなキャプテンのこと。 今はキャプテンの、って言うよりキャプテンのご飯のことだけど・・・。 午前中は見張りの当番だから、おれは時間をかけて悩んでたんだけど、もうそろそろ交替の時間だと思う。ついさっきおおきな揺れがあったけど、単に海王類の死体が船の側面に当たっただけだったみたいだから安心だし、もうすぐこのヘンテコな海域は抜けられるみたい。そしたら次の島まで2〜3日も無いはずだ! けど、結局良いアイデアなんて一つも出なかった。どうしよう。 キャプテンは、本当にモノを食べようとしないんだ。 って言うよりも、口にモノを入れるのが嫌いみたい。詳しくは分かんないんだけど、口に入れたものはイブツって感じちゃうんだって!おれなら食べれるものなら飲み込んじゃうけどな…。 唯一キャプテンが自分から口に入れるのは、水。コーヒーとか味がついてるのは嫌なんだって。 おれも苦いのは嫌だから、それはキャプテンと一緒で嬉しい! ・・・嬉しがってる場合じゃないんだ。 「えーと・・・お菓子とか・・・?」 でも、こんな船の上でお菓子なんて作れない。 今は不安定な海域を通ってるから、余計無理だなぁ。 「んー・・・果物!」 リンゴとかなら、食べてくれるかも。 あ、でも、ペンギンは「きちんとした食事」って言ってたし・・・。 「難しいなぁ・・・。」 おれの考えはちっとも進まない。 けど船は順調に進んでくから、その内交替のクルーがおれに声をかけに来た。 「ベポ、交替だぜ。飯食ってこいよ。」 「うん、ありがとー。」 他の場所で見張りをしてたクルー達も交替して食堂に向かってるみたい。おれはこの場所をバトンタッチして、ひょい、と甲板に降りる。そしたら、クルーに声をかけられながら食堂とは正反対に歩く細い姿が見えた。・・・キャプテンだ! 午前中は見張りだったから、起きてるのか寝てるのか分からなかったけど、きっとキャスケットが起こしたに違いない。けどアイツがキャプテンに何か食べさせたなんて思えないから(だっておれだっていいアイデアが浮かばないのに)、ここはおれの出番だ。 キャプテンだって、キャスケットよりおれに食べさせて欲しいに違いないもん! 「キャ〜プテ〜ン!」 「お。ベポ。」 「おはよ!起きた?」 「まぁな。」 今から顔洗いに行くとこだ、って言って歩き出すキャプテンに、おれも続く。 けど、ついて歩くのをいつもなら何も言わない船長が、ふと顔を上げておれに声をかけた。 「ベポ。お前午前中見張りだったんだろ?なら早く飯食ってこいよ。」 キャプテンの中に"昼食"っていう言葉は一応存在してる。 けどそれは自分には適用しないらしくて、こうやっておれやクルーを気遣う時にしか使わない。 「うーん、でもー・・・。」 キャプテンと一緒に居たいなー、しかもご飯食べて貰わなきゃいけないんだけどなー、って言葉を言えずにモゴモゴしてると、数人のクルーがおれたちと擦れ違う。 「あ、船長おはよございまーす。」 「さっき揺れましたけど大丈夫でしたか?」 「おはよございます、たまには食堂来て下さいねー。」 「キャプテンちゃんと寝れました?」 足止めされて囲まれるキャプテンは、いつもの光景だ。口々に心配事や軽い報告をするのもいつものことだけど、しつこくないのがみんなの良い所。一言言ったらちゃんと引く。だからその分おれやペンギンとか、あと一応キャスケットも…みんなの心配も引き受けてキャプテンに伝えてあげるんだ。みんなの想いが重くならないように。 そう思っておれは一生懸命キャプテンのご飯の事を考えてるんだけど・・・まだいいアイデアは思い浮かばない。 いつの間にかキャプテンは、みんなに「見張りご苦労な。」って言って別れて廊下を進んでた。 おれは少し急ぎ足で後を追う。 ・・・・ん。 食堂?みんなで? これだ!! 洗面台でパシャパシャと顔を洗うキャプテンに、先回りしてタオルを取っておく。顔を上げるのと同時にタオルを出せば、笑って受け取ってくれた。こんな天気の悪い日でも、キャプテンの目はキラキラしてるんだなあ。 そう思いながら、おれはさっき思いついたことを言ってみた。 「ね、キャプテン、一緒に食堂行こ?」 「あ?」 キャプテンはいつものふかふか帽子を被りながら、おれを見る。 その声は嫌そうじゃなくて、純粋にどうしてか聞きたそうなものだった。 「たまには行こうよ!キャプテンが居るだけで空気違うんだから!」 これは本当。 勿論キャプテンが居ない時も賑やかだけど、キャプテンが居たらみんなもっとにこにこすると思うんだ。夜は3〜4日に1回顔を出してくれるけど、朝や昼なんて滅多にないから、きっとみんな驚くよ!最初は食べてくれなくても、食堂の雰囲気におされて何か手をつけてくれれば一石二鳥だもん。 ナイスアイデア★おれ! だけどキャプテンの返事は・・・ 「この時間からか?」 キャプテン、それじゃまるでおれが夜の街に行こうって誘いかけてるみたいだよ…。 さっきおれに昼飯食ってこいって言ったの、キャプテンじゃない! 「さっき見張りしてたメンバーとか事情があって昼ご飯遅れた奴らだけだから、いつもより静かだろうし、たまにはどう?」 そしたらおれもキャプテンと一緒に居れて、昼ご飯も食べれるもん! って付け加える。あれ?一石四鳥? とりあえず、おれが嬉しいからって事を全面的に押し出すと、キャプテンは一瞬考えてから、そうだな、って頷いた。 「たまには、いいかもな。」 力を抜いて笑ったキャプテンは、少し疲れて見えた。 あれ・・・眠れてなかったのかな? それとも、やっぱりご飯食べてないからかな? だとしたら、ちゃんと食べさせないと。おれもご飯食べてないと、ふらふらになって動けないもん。 「じゃあ決定〜!」 おれは機嫌良く歩き出す。 キャプテンは顔を拭いたタオルを首にかけながら、おー、と気の無い返事をした。 ふと海を見ると波は安定していて、曇りばかりだった空も遠くに少しだけ日の光が差していた。 「キャプテン、もうすぐ次の島に着くね!」 「あぁ。油断はできねーけどな。」 「んー、結局この海域って何だったの?」 「そうだな…。簡単に言うと、海底の地盤にある複雑で大きな割れ目が妙な流れを作ってるんだ。で、ログポースの通りに進んでても、妙な波に乗っちまえば同じ所を彷徨うハメになる。・・・波の負荷に耐えられなくなって船が沈むまで、な。」 キャプテンの説明に、おれは流石グランドラインだなあ、と思う。 「だがうちの航海士は有能だからな。」 ニィ、と船長が笑う。こんな海域なんて、抜けるのが当たり前って顔だ。 おれもそう思ったから、笑顔で大きく頷いた。 なるべく「ノリとその場の空気でご飯を食べさせるぞ作戦」を悟られないように、普段通りの話をしながら食堂に着いた。 ガチャリ、とドアを開けてキャプテンを先に通す。 レディファーストならぬ、キャプテンファースト! 「ベポ、遅かったじゃねーか。お前の分取っといた・・・って、船長!?」 「え、ホントだ!おれ夢みてんのか!?」 「んだよ、おれが来ちゃマズいのか?」 「いや、レアだなーって思って。めちゃ嬉しいっす!」 「人を勝手にレアモノ扱いすんじゃねぇ。」 先に食べてたみんなに笑いながら迎えられて、キャプテンも笑いながら薦められた席の方へ歩いてく。おれの分の食事はキャプテンの隣に移されたから、おれもお礼を言ってそっちへ歩いてく。並んでる長机の真ん中だ。 今日のお昼ご飯はスープパスタとサラダ! スープパスタ自体は勿論、上に乗ってる三つ葉もいい匂いだなぁ・・・。 「おれ船長の食事持ってきますね。」 向かいに座ってるクルーの一人が席を立つのを、キャプテンはきょとんとした顔で見つめた。 「なんで?」 「え、いや、なんで、って・・・。」 確かに普通、食事持ってくるよ、って言ってなんで?って聞かれたら答えに困る。 食堂は食べる事を前提にした部屋だから。 でも、キャプテンは、あくまで"おれに連れて来られた"だけだもんね。 「キャプテンはおれが無理矢理連れてきただけだよー。此処に居てくれるだけでいーの!」 「そーなの?」 「なの!」 焦らない、焦らない。 みんなでわいわい食べてたら、きっとキャプテンも何か食べるもんね。 しぶしぶ席に着いた目の前のクルーは、気が向いたら言って下さいね、すぐ持ってきます、とだけ言った。 よしよし。 「いただきまーす!」 「ベポ、焦って食うなよ。前に腹壊しただろ。」 「え?そうなんスか?いつの話ですソレ。」 「あれはおれのせいじゃないよ、キャスケットが!」 「見苦しいぞベポ!キャプテン、詳しく詳しく!」 そうやって、キャプテンとおれを中心に笑いが起きる。 やっぱりみんなでご飯食べると、おいしいなあ。 キャプテンが居るから、余計に美味しく感じるのかな。 とりあえずここまでは、計画成功! あとはキャプテンが"食べたい"って言い出してくれるかどうかなんだけど・・・ おれの腹痛の話にオチがついて笑いの渦が起こった時、食堂のドアが開いて、一人の茶髪が入ってきた。 「もーホント最悪…。よりによって…ていうかどうしよ…。」 暗い顔をして入ってきたのは、キャスケットだった。 何かあったのかな・・・?面白いから突付いてみようっと! Law vs Bepo …draw! →next「キャプテンのベッドで?一緒に寝たの?2時間も?何にもしないで?」「うっさいなあ!」 自分の為にと言いながら本当はキャプテン第一のベポを知ってるロー。 2009.06.01 水方 葎 |