* RESTART *





ここ最近、キャスケットの様子がおかしいのは分かってた。
様子がおかしいっつっても、怪我や病気じゃなさそうだ。
ただ、目を合わそうとしない、話してて落ち着きが無い・・・、つまり全体的に挙動不審。
観察してみると、他のクルーとは普通に接してる。

別段何をした覚えもないおれは、もう少し様子を見てみることにした。
あまり酷いようなら、ペンギンからキャスケットへ何かしら探りが入るだろう。



そんな時の出来事だった。




生臭い血の臭いが辺りを包んでいる。
嫌いじゃないが、こうして湿度の重い空気が漂っていると疲れが倍になるような気がした。
敵襲、という見張りの声と共に船上が戦いの場と化したのは、一時間程前。流石懸賞金が五千ベリーを超える額だけあって手強く、更にやり方が意地汚かったものの誰一人欠ける事なく勝利した。今は後片付けや手当てに追われている最中だ。・・・おれ以外。
「船長、あとは敵船の荷物を運び出すだけだ。怪我の治療を。」
「んー・・・。」
おれも、ペンギンも、他のクルーも、結構ボロボロだ。
ペンギンに声をかけられたおれは、生返事をしながらあたりを見回した。死人が出なかっただけマシだと思うが、酷い惨状だ。重傷者には先に応急手当をしておいたが、毒を喰らった奴もいるから油断は出来ない。夜になれば熱も上がるだろう。
「運び出しは後回しにして、先に全員一通り手当て受けろって言っとけ。」
一見何でもないような傷口が厄介だったりするし、菌が入ってからでは遅い。
そう思って言った台詞だったが、目の前の男は怪訝な顔をする。
「それは通達しておく。が、おれは船長自身の傷を言っているのだが?」
「ああ、」
はた、と気付く。
利き腕はパックリいっているし、頭からの出血も止まっていない。思い出して意識を向ければ、途端に刺すようにズキズキと痛み出してきた。ドクドクと体中の血が巡る音が脳に響くような気がした。畜生、おれとした事がしくじったな。
「つーかお前も似たようなモンだろ。血だけはテメェで止めとけ、んで、後でおれの部屋に来い。」
「分かった。皆に指示を出したらそうさせて貰う。で、船長。」
「はいはい、おれもすぐ自分の止血して部屋に戻る。」
「分かってるならいい。」
ったく、保護者ぶりやがって。
おれはペンギンの赤に濡れたツナギが去ってゆくのを見ながら、もう一度辺りを見回した。
そういえば、キャスケットの奴を見てねぇな。
敵船から引き上げる時に姿を見たから、やられてるって事はないだろう。とは思いつつ、なんとなく気になっておれは踵を返した。ふらりふらりとクルーに声をかけながら甲板を横切り、敵船へ渡るロープを左手に掴んだ。
「あれ、キャプテン何処行くの?」
「ベポ。キャスケット見なかったか?」
「うーん・・・おれはアッチの甲板で少し一緒に戦ってたくらいだからなあ。その後は見てないよ。」
「そうか。」
元、敵船の方へ目を向けると、当たり前だが人の居る気配はしない。当然だ、全て片付けたから。今は横付けしてあるだけで、ある程度怪我の手当てをしてから、動けるクルーから順に金目のものや食料を奪って船を沈める。これはいつもの、というより世の手順だ。
だから今、敵船には死体だけだろう。
けれども、何となくキャスケットが居るような気がした。
「キャプテン?」
「ちょっと行ってくる。」
ベポはおれの右腕を気にしていたようだったが、諦めたように眉根を寄せたまま「分かった」と頷いた。相変わらず聞き分けの良い奴だ。そうしておれはグッと膝を曲げ、勢い良く足場を蹴った。



歩くたびに木板の音と同時に水音を立てる床は、朱に染まっている。あちこちに武器が散らばり、そして同じように妙な方向へひしゃげた死体や切断された部位が落ちていた。おれは見慣れない甲板に立ってゆるりと辺りを見回す。自船よりも明らかに濃い臭気に顔を顰めた。頭に血が足りない所為だろうか、クラクラする。
「キャスケット。」
呟いてみたけれど、返事は無い。
自船から聞こえてくる少し遠い音や声をBGMに、そっと歩き出した。
・・・ああ、早く右腕、止血しなきゃいけねぇのに。
それにアイツも怪我してるだろう。
全く、ドコでナニやってやがんだか。
静かな敵の船内は全く見慣れず、逆におれが迷子になったような錯覚に陥る。甲板から内部へと足を進め、時折転がっているダガーやら刀剣やらが邪魔で足蹴にする。もし残党が残っているならば、逆に自分の位置を知らせてやった方が良い。コソコソ嗅ぎ回られると面倒だ。
階段を降りたところで耳を澄まして辺りの様子を窺ってみた。
人の気配は無い、が、途端、劈くような野太い悲鳴が響き渡った。
「うわあああああああ!!!」
思わず肩を竦める。
断末魔、と呼ぶに相応しいその声に聞き覚えなど無い。とりあえず右角の部屋から聞こえた事実だけを頼りに、おれは再び歩き始めた。
断末魔、という事は誰かがトドメを刺したという事。
見当たらないキャスケット。
進むにつれて濃くなる鮮血の臭い。
ああ、これだけでパズルのピースは揃っている。
「・・・・・。」
断末魔など聞き慣れているはずなのに、船内という狭い空間の中で反響した為か、やけに耳が痛い。ああ、頭に血が足りない所為だったか、などと思いながら、おれは"その部屋"をひょいと覗き込んだ。


男部屋と思われる部屋に、飛び散った四肢。

潰れた内臓が床にへばりつき、

部屋に散らかっているシーツや枕などの寝具を赤黒く染め上げていた。


そして、佇んでいるのは。


「―・・・、・・―・・・、」



「キャスケット。」
おれは戸惑いも無く呼びかけた。
ヒューヒューと空気が漏れるように肩で薄く息をしていたソイツは、紛れも無くキャスケットだったから。
「・・・・・・。」
背を向けていて、表情は分からない。
真っ白な筈のツナギはこの戦いの中、誰よりも赤に染まっていた。脇腹辺りを中心にパックリと裂けているし擦り切れている箇所はあるものの、出血は無さそうだ。ある程度の怪我具合と、妙な体重のかけた立ち方をしていない事を確認したおれは、小さく息を吐いた。どうやら重症の部類には入らないらしい。
2、3薄い呼吸を繰り返したキャスケットが、ガツ、と足元の"ひしゃげた何か"を壁へ向かって蹴った。鈍く重い音を立てて再度足元へ転がってくるそれを、何度も、蹴り返す。
「・・・、」
ガツ、ゴンッ、ベチャ、ゴロゴロ。
ガツ、ゴンッ、ベチャ、ゴロゴロ。

そんな擬音語に混じって、キャスケットは口内で何事かを呟いていた。
「黙れ、だまれ、だまれだまれだまれ・・・」
ガンッ!!
勢い良く蹴ったそれは今度は壁にめり込んでしまい、ついにキャスケットの足元へ戻ってくる事は無かった。声をかける事を忘れたおれは、貧血だという事も手伝って、ただキャスケットの動作とひしゃげたものを視界に入れて、ただぼーっと立っていた。
ぼーっとしながらも、思考は働く。
赤と、頭髪のような黒と、覗き見える白い硬質・・・そうか、割れているものの、あれはきっと頭蓋だったモノ。あまりに変形しすぎていて、一瞬おれでも判断に迷う位だ。
つーかキャスケットの奴は、おれの事に気付いてるのか?まあ、気付いてるだろうけど。
それでも止まらないんだろ。
そんな事を頭のどこかで冷静に考えていた。
「船長は、そんなんじゃ、そんなんじゃ・・・」
変わらずぶつぶつと呟くキャスケットは、足元に"ソレ"が戻ってこないと知ると、グラリと身体を傾けるように方向転換しておれに向き直った。頭の動きだけが、身体よりワンテンポ遅れておれを捉える。
まるで、そう。
壊れたマリオネットのように。
「・・・・せ、ん、ちょう・・・・?」
トレードマークのキャスケット帽の下から見える目は、虚ろだった。
正面向いたことで初めて分かったが、その有様は後姿よりも酷い。あちこちに血液を浴びている、というよりも血が付いていない所を探す方が難しい。剣も銃も使っていないのに、どういう戦い方をしたらこうなるんだ、とおれは思わず眉を寄せた。・・・まあ、引き千切ったり潰したり、だろうけど。
何度も言うが血が足りてない所為だろう、おれはキャスケットの相手をすることも放棄して「後で洗うの大変そうだ」などと場違いな事を思っていた。いっそ新しいのを与えた方が早そうだ。次の島で仕立て屋あると良いけどな…。無人島なら予備の分で何とか、いや、最悪冬用を着せるか。綺麗に殺せばいいものを、無駄に暴れてダメにした罰として。ああ、それがいい。
自分の考えに没頭していると、キャスケットが無機質な声で呟いた。
今度はハッキリと、聞き取れる。



「・・・・・・・ ホ シ イ ・・・。」



「!?」
瞬間、ガッと上半身を掴まれ床へ引き倒される。しまった、ちょっとぼーっとしてた、と考えるけれど、おれの中に焦りは無い。
「欲しい、ほしいっ・・・!」
感情は篭っていない。けれど切望するような声で紡がれ続ける単語は、あっという間に部屋の中へ満ちてゆく。血溜まりに押し倒されたおれは、腰あたりに馬乗りになるキャスケットの、逆光になって見えない顔を見ようと目を細めた。けれどキャスケットはそんなおれに構う事無く、乱暴にTシャツを破き去る。ビィイ、とお気に入りのTシャツ(元々この戦闘で血に染まっていたし、ボロボロになっていたからもう着れないとは思っていたが)が引き裂かれる悲鳴を上げても、やはり驚きや焦りはおれを襲ってこなかった。
引き裂いた手をそのまま支えに、キャスケットがおれの唇へ噛み付くのも、そう、何となく予想してた。
「ん、ぐ、」
断っておくが、別にキャスケットとはキスなんてした事がないし、勿論恋人同士でもない。下ネタでからかった事は数え切れない程あるが、そういう空気になることなど一度も無かった。けれどおれは、何となく予想していた。キャスケットが、今、こうするであろう事を。
何度も何度も、本当に噛み千切るんじゃないかという勢いで口を合わせるキャスケットに、クラリと酸欠になりそうになる。ただ唇を伝うダイレクトな刺激が、おれをこの場に引き止めていた。
「んぁ、・・・・っ、」
ぐちゅ、と舌を絡め取られ、乱暴に吸い上げられる。
無理矢理引き出される快楽に、生理的な身震いをした。
「ふ、ぅ・・、」
「―っ、ぁ、ぐ、」
獣のように息を継ぐ声と粘着質な水音だけが部屋に響く。それしか音がないからだろうか、やけに大きく耳に届いた。
ああそういえば此処、敵船じゃねーか。
それも死体と肉片だらけの、
思い出せば血生臭い、
おれも、
こいつも、
混じるお互いの唾液さえも。

まとまらない意識の中、口内を蹂躙される。逃げはしないが行き場の無い舌を動かせずに居ると、容赦なくキャスケットが絡みついてくる。隅々まで掻き回す奴の舌の動きに、ただおれの身体は痺れるばかりだ。気付けば両手首は押さえつけられていて、これじゃまるで強姦だろう。
天井の明かりがチリ、と揺れ間近すぎるキャスケットの目がようやく見えた。
「―・・・ッ!!」

普段明るい青の色を灯している目が、炎のように蒼く濃く、揺れている。


行為そのものより、おれは、その瞳に。
"欲"を感じた。
何よりも強い、純粋な・・・"欲"。


思わずキャスケットを凝視してしまう。
すると唇を貪っていた奴もおれの視線を受け止め、まるで呼応するかのように緩やかに、けれどハッキリと眼を見開いてゆく。いつの間にか手首を開放しておれの腹を這っていた左手も、ゼンマイが切れた玩具のようにピタリと止まった。
互いに呼吸は荒い。
おれはキャスケットの目の色から視線を外す事が出来なかった。
瞳は焦点が合ってきたものの色は変わらず、見慣れぬ蒼の炎で。
「・・・・・、」
する、と唇が離れた。
急に熱いほどの体温を失い、唇に触れる空気がやけに冷たく思えた。どちらのともつかない唾液がほんの少し糸を引いて、途切れる。先程の荒々しさを考えると天と地の差、大人しくなったキャスケットに疑問を抱く。見れば、キャスケットの薄い唇が唾液で濡れたまま、小刻みに震えていた。
「・・・せ・・・・、せん、ちょう・・・・?」
「おう。」
ドクドクという心音すら聞こえそうなほどの静寂でなければ、聞こえなかっただろう。そんな呟きに、軽く返事をしてやる。
「う、わああああっ!!?」
信じられないものを見る目でおれを見たかと思うと、物凄いスピードで跳ね退いた。
「・・・っせぇな…。」
くらくらする頭で、血溜まりの中起き上がる。ああもう、背中も髪も、ベトベトだ。
キャスケットによって破られたTシャツは、見るも無残に切れ端が滑り落ちていった。
「お、おれおれおれ、今・・・っ!!」
さっと顔を真っ青にしたキャスケットが、腕を口元に当てながらパニックになっている。袖に付いてる血が口に移るぞ、と言いかけたけれどやめた。顔面も髪も帽子もツナギも真っ赤なキャスケットには、今更な忠告だ。
「あー…血が足りなくなってきた。キャスケット、早く戻るぞ。」
たった今起きた出来事を何でもない風に、おれはゆっくりと立ち上がる。
実際何でもない出来事だったし、この歳でキスがどうのなんて騒ぐつもりもない。
一つ気になったのは、キャスケットの目の色、だけで。
「おれ、せ、船長に、・・!」
おれとは正反対に、シッカリと騒ぐつもりらしいキャスケットが壁を背に腰を抜かしたまま、呆然とおれを見上げる。・・・これ、立場逆じゃねぇのか?
「だからどうした。」
ほら、さっさと行くぞと言外に告げるが、キャスケットが立ち上がる気配は無い。そればかりか、破り捨てられ血溜まりの色に染まったおれのシャツの残骸を見て、固まっている程だ。余程自分がした事がショックなのか、それとも。
「すっ・・、・・・・。」
「す?」
「すいませんでした!!!」
その声量はさっき聞いた断末魔と同じくらいかと思えるほど大きく、おれはまたも肩を竦めた。だから、血が足りねぇんだから大声出すなっての、と内心吐き捨てる。
「船長にキ、キスとか、服まで破いちゃって、ちょっと血の臭いでどうかしてたっていうか正気じゃなかったっていうか、」
しどろもどろと早口で捲くし立てるキャスケット。
「兎に角、本当すいません!!おれ、あんな事するつもりじゃなくて・・・っ、すいません!!」
ただひたすらに謝罪を繰り返す。本来なら船長に危害を加えれば、なんて思っているのかは分からない。けれど謝罪の要因は別のところにあるような気がして、おれはじっとキャスケットを見つめていた。
そういえばコイツ、おれと目を合わそうとしねぇ。
・・・・いや、厳密に言うと大分前から。
そういえばここ最近態度がおかしかったんだった、と思い出す。何がキッカケかは分からないが、ずっとおれを避けているような態度と、今回の暴走ともとれる行為。それと、先程の瞳の色。
あれは明らかに、欲に濡れた色だった。
「・・・・・・。」
血に塗れながらも謝り続けるキャスケットに苛々したおれは、口を開く。
「謝るくらいなら、最初からすんじゃねぇよ。」
それは自分で思っていたよりも、冷たい声だった。
―あんな、あんな瞳をしておいて。
今更謝るだと?・・・・ふざけんじゃねぇ。
するとキャスケットの身体がビクリと揺れ、しつこい程の謝罪が止む。
「そ、う、ですよね・・・。」
「先に戻る。」
履き捨てるように言い、おれは踵を返して部屋を出た。

『・・・・せ、ん、ちょう・・・・?』

確かにあいつはあの時、おれを認識したんだ。

あー・・・いい加減、ヤバくなってきた。さっさと止血しねぇと・・・って、もう流石に止まったか。
全身がパリパリいう感覚に舌打ちして、おれは自船の方へ重い体を引き摺り歩いた。






夜になると、昼間の喧騒は嘘みたいに静まり返っている。それもそうだろう、勝利の美酒に酔いたいところだが、如何せん怪我人が多くてそれどころじゃない。おれもやっとクルー達へ縫合やら解毒やらを終わらせ、手が空いたところだ。動ける奴らが敵船から荷物を運び出したのもつい先程で、結果、船はあまり進んでいない。
予想外の遅れだが、それでも明後日には次の島へ着くだろう。
自室の一角で伸びをしながら、おれは薬品を片付けに入る。あー・・・脱脂綿が意外と少なくなってきたな。あれ?24Gと21Gの針が見当たんねぇ。散らかった作業台の上、ゴソゴソと注射針のケースを探しているとノックの音が聞こえてきた。このノックの仕方はもう聞き慣れた。ペンギンだ。
「船長、入るぞ。」
「痛み止めか?」
「いや。」
先程傷の縫合した際、苦しそうな顔一つしなかった化け物じみた男は、痛み止めさえ拒否するらしい。夜中に熱が上がっても知らねぇぞ、と内心舌を出していると、少し困った声が遠慮がちに投げて寄越す。
「・・・キャスケットと何かあったのか。」
「あ?」
珍しい。少しでもおれの手を煩わせないようにしているのかどうか…は、知らねぇけど、何か起きればまず"おれ以外の当事者"に事情を探りに行く奴が、真っ先におれの所へ来やがった。
よほど怪訝な表情をしていたのか、ペンギンは注釈を入れる。
「キャスケットに聞いても、ちょっと…な。」
「ちょっと?」
明後日の方向を見るペンギンに、首を傾げた。
そういえば船に戻ってきてからバタバタしてて、アレ以来あいつと顔を合わせてない。傷は大したこと無かったみたいだから、重症者を扱ってたおれが見かけなかったのは当然だろうが。
「何というか…心ここに在らずと言うか。」
「ふぅん。」
「船長、という単語にだけビクっとして反応すると言うか。」
「んだよ、それ。」
まるでおれがキャスケットに脅しや揺すりをかけてるみてぇじゃねぇか。
呆れながら顔を上げると、無表情の中にも少し疲れたペンギンの様子がありありと見て取れた。
「明日改めて話を聞いてみようと思ってるんだが、船長の方にも聞いておこうと思ってな。」
「ここ最近の事もあるし?」
「ああ。」
ペンギン的にも最近のキャスケットの挙動はそろそろ限界だったのだろう。逆にいい機会かもしれない。
「んー…別に変わった事はねぇよ。」
「今日も、か?」
たまにコイツ、鋭すぎて面倒になる。それとも、おれがキャスケットを探しに行った事をベポに聞いたか?
「そうだな…。」
正直、迷った。大袈裟に言うような出来事があった訳じゃない。少しキャスケットが暴走してただけだ。敵のクルーと事前に何か話してたみたいだったが、おれはその会話を聞いてない。
だから"特に変わった事"は、無かったと言っても嘘じゃない。
すると、少し考え込んでいたペンギンがふむ、と呟いた。
「やはり明日おれが直接キャスケットに聞いてみよう。」
・・・たまにコイツ、鋭すぎて。
・・・・・・・・楽だ。
「それがおれの仕事でもあるしな。忙しいところをすまなかった。」
「いや・・・別にいいけどよ…。」
「じゃあ部屋に戻るとしよう。何かあったら呼んでくれ」
さくさくと話を進めてドアノブに手を伸ばすペンギン。
「ペンギン、」
思わず呼び止める。
どうした、と顔だけで振り返るペンギンに、おれは言うべき言葉が見付からず口を閉ざした。別に何か用があって呼び止めた訳じゃない。
ただ、そう。
キャスケットが悩んでいるのなら、目前の男はどうなのだろうかと気になっただけだ。
けれどおれの事をどう思っているかなんて質問は全く以って下らないし、おれが疑わない限り確固たるものだという事は知ってる。だから、考えるだけ、聞くだけ無駄だ。
「・・・・何でもねぇ。」
「そうか。」
中途半端な表情のおれへ深くは追求しないペンギンが、部屋を出る寸前に少しだけ振り返った。
「ああ、そうだ。船長。」
「何だよ。」

「おれの事は、疑わなくて良い。」

パタンと軽く閉じられたドアに、おれはただ声も出せず脱力した。
・・・たまにアイツ、鋭すぎて。
・・・・・・・・・・・・・・憎らしい。
「ったく。」
ペンギンくらい潔ければ、楽になれるのに。…おれも、キャスケットも。
そう思いながら、作業台の片付けを再開する。
で、結局21Gの針が見付かんねぇんだけど、何処やったっけな。
おれは一人、部屋の中で小さく舌打ちをした。






次の日の、夕方に近くなった頃。
ペンギンの報告によると、そろそろ島に着くらしい。おれはその前に自分の分の買出しリストを作ってしまおうと、机に向かっていた。
「んー・・・後何か要るモンあったか・・・・。」
一度足りない物を認識してしまうと、芋蔓式にアレもコレもと思ってしまう。別に悪くない事だし、医療品は備えておいて困るモンじゃない。けれどそうやって書き出していくと、結構な量になっていた。
「一つ一つは小さいんだけどな。」
そう一人ごちながら、ペンを置いておれは外の空気を求め甲板へ行こうと廊下に出た。
最低限必要なものは全部書き出したつもりだが、気分転換をしてもう一度リストを纏めた方がいいだろう。何たって船の命綱でもある医薬品だ。
そうして軽く軋む床板の音と耳に馴染んでいる波音を聞きながら階段を降りようとすると、ぼそぼそと喋る声に気付く。
「・・・・で、・・の時・・・。」
「・・・・ったのか・・・。」
ペンギンと、キャスケット。
聞こえた二人の声に、おれは興味半分で息を抑え気配を殺した。そういえばペンギンの奴、キャスケットに話を聞いてみるとか言ってたな、と昨夜の会話を思い出す。真剣な様子からして、どうやら内容はソレらしい。
「おれ、その言葉に血が昇っちゃって、それで、」
「・・・・・・・なるほどな。」
「で、気付いたら船長を、・・・・・その、」
どうやら昨日の事を話してるらしい。
もう少し早く来てれば、キャスケットが何を言われて血が昇ったか分かったのに、と思いながら少しだけ二人の様子を覗き見る。
・・・・ものの見事にペンギンと目が合った。
まあこれだけ近くに居てペンギンがおれの気配に気がつかないなんて事ないから、仕方ねぇ。
なんて考えていると、ペンギンは何事も無かったかのように海へ視線を戻した。流石、分かってんじゃねぇか。
そんなやり取りをしている間もキャスケットの覚束ない説明は続いている。
「だから、もう、どうしていいのか分かんなくて・・・。おれ・・・。」
途方に暮れた、泣きそうな声。まるでクンクンと切なげに鳴く犬みたいだ。
・・・なあ、キャスケット。
犬には帰巣本能があるけど、お前には無ぇの?
本能に、任せるっつー手段が。
「やりたいように、やればいいさ。」
ペンギンが、おれの声を代弁するように言う。
流石に本能に従っちまえとは言わなかったけど、聞き方によっては突き放すようにも聞こえる台詞に、キャスケットは顔を上げた。此処からじゃ表情までは見えないが、困惑している様子は分かる。
「やりたいように、って・・・。」
「お前の中で"どうしたいか"は、決まっているだろう。」
「それは、・・・でも・・・。」
モゴモゴと呟き顔を落とすキャスケット。
「本人に直接言うと良い。悪いようにはならんだろう。」
「ちょ、ペンさん、そんな簡単に!」
「そういう事だ、船長。後は二人で話し合ってくれ。」
「え、船長!!?」
ペンギンから言葉を投げられ、仕方なく階段を降りる。
おれの姿を認識したキャスケットが、サングラスの向こうで大きく目を見開くのが見えた。薄暗い色に隠されてあまり分からないが、昨日のような色の濃さは見当たらない。少しだけ残念に思いながら、二人の前まで出る。
「別に全部聞いてた訳じゃねぇよ。今来たところだ。」
「うっ、あ、えーと・・・・。」
口篭ってウロウロと視線を彷徨わせるキャスケット。昨日の今日で、顔を合わせ辛いんだろ。
別にキス位、大した事じゃねーと思うんだけど、どうやらキャスケットはそうもいかないみたいだ。
「じゃあ、おれは行くぞ。」
「ん。」
背中を向けるペンギンに軽い返事をして、手摺の向こうに両腕を投げ出し海を見た。潮の匂いが強い…そろそろ島が見える頃か。
「船長、あの。」
「ああ。」
ポツリと落とされる声に、おれはそのまま海を見ながら返事をする。
「・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
たっぷり1分は過ぎた。
何も言わないなら部屋へ戻るか、なんて考えていたら、ようやくキャスケットが口を開いた。
「おれ・・・・。」
「・・・。」
無言で続きを促しても、キャスケットは再度口を開くのを躊躇っている。
ぱくぱくと口を開けたり閉じたりするキャスケットに視線を投げると、思い詰めた表情で静かに呟いた。
「・・・・すいません・・・。少し、一人にして下さい…。」
「・・・・・・。」
ここまできてそれか、と思わないでもなかったが、時間が足りないならいくらでもくれてやる。
分かった、と適当に返事をしてやってその場を離れようとすると、ポツリと背中に声がかけられた。
「もしかしたら・・・、おれ、船を・・・降りなきゃいけないかも、しれないんです。」
波の音で聞き取りづらかったけれど、確かにキャスケットはそう言った。
おれは疑問に思うよりもまず、許さねぇ、思う。けれどそこは敢えて言葉を堪え、何も言わず肩越しに奴を振り返る。俯いているキャスケットの顔は、帽子の唾に顔を隠されていて見る事が出来ない。

「・・・・だから、考えたい、です…。一人に、して下さい・・・。」

馬鹿か。
お前が何を考えようと、この船を降りられる筈が無いんだよ。
だから、言いたい事があるならさっさと言っちまえ。



そうじゃないと…おれが。

     おれが、お前を疑ってしまいそうだから。



「あ、キャプテン!」
「おう。」
部屋に戻ろうとすると、丁度ベポが自室から出てきて鉢合わせになった。そろそろクルー達は少し早く飯の準備をする時間帯か。手伝い兼摘み食い常習犯のベポに食堂へ行こうと誘われたが、軽く流しておく。しょんぼりしながら擦れ違うベポに、思わず口を開いてしまった。
・・・聞いてしまった。
「ベポ。お前は、好きな奴に好きって言えるか?」
深い意味は無い。
ただ、キャスケットが、あまりにも。
・・・あまりにも。
ベポはキョトンとしておれを見る。咄嗟に失言だったと思い直すけれど、やっぱり何でもない、と無かった事にするより早くベポは満面の笑みを作った。
「大好きだよ、キャプテン!愛してる!」
今度は、おれが面食らう。
それと同時に・・・・・何だか少し、安心した。
「おれも大好きだぜ、ベポ。」
ほら、告げるのはこんなにも容易い事なのに。

 『島が見えたぞー!!!』

見張り組が叫ぶように通達する声が響いた。ベポが弾かれるように顔を上げ、嬉しそうにおれの手を取った。
「行こ、キャプテン!今度はどんな島かな〜!」
「ん・・・まだ日が高いからな。少しは探索出来るか。」
「ご飯の前に探検だね!」
はしゃぐベポと話しながら、結局買出しリストの見直しが出来て無い事に気付く。
まあ、出航前までに再確認出来れば良いか。
元々捗らなかった作業だと諦め、ベポに引っ張られるまま甲板へ出た。時刻は夕方だというのに、まだ、日は高い。











島に着いたおれたちは、いつも通りに船を泊めた。
いかにも港町な風体のこの島は、漁業が中心らしい。あまり新しい本は期待出来ないが、必要最低限の薬品などは揃うだろうと地に降りた。ミーティングも兼ねて今夜だけ晩飯は船の中、コックには悪いが支度が出来るまではいつものように自由行動だ。
だからおれは、つい。
クルー達に何も告げず、一人で船を出た。
さして大きくもない街だし、海軍の出入りも無い。何か騒動があれば適当に連絡がくるだろうと、宛ても無く街をふらつく。港特有の、強い潮のニオイと重い風。刺す様に照る日にジリジリと肌が焼かれる。
粗方の買い物は済ませてしまい、今、腕には大きな紙袋が一つ。ガチャガチャと鳴る中身は全部薬品や毒物や危険物、それから器具も少し。おれは頭の中に入れた買出しリスト(書き出した紙は机の上だ)にチェックを打ち、他に必要なものは無いか確認しながら通りを歩く。
「あっちぃ・・・。」
やっぱりペンギンかベポを呼べば良かったか。視線の高さまである、高い音を立てて触れ合う荷物に内心舌打ちをする。器具ならば他のクルーに任せても良いが、薬品類だけはどうしても自分で買い付けて自分で運ばないと危険だ。クルーを信じていない訳じゃない、自分で、この目で見たものを買いたいだけだ。
そんな訳だからこうして行方眩ませがてら買いに出たはいいが、暑いもんは、暑い。今頃船の中じゃ、おれが居ないって大騒ぎしてるんだろうな、とぼんやり歩きながら思う。船を離れる時は必ず誰かに一声かけるか、クルーを連れて歩いてるから。
けれど、たまにはいいだろ。
ペンギンにも、ベポにも、誰にも言わず、ふらっと消えてみたい時だってあるんだよ。
「マジであっつ・・・。」
消えてみたいとはいっても少しふらっとした後に買い物をしてるだけだし、普段とはあまり変わらない。それでも街を歩いていて隣や後ろに誰もいないという事が酷く新鮮に思えた。

あー…一人、だ。

それならばとおれは人一人分通るのがやっとな程の薄暗い裏路地に入る。普段クルーを連れている時は余り通らないし、こういう所に居る連中にも用事は無い。けれど表通りは夏島の所為かまだ日は高く燦々と太陽が照っているので、少しでも涼を求めて足を向けてみた。抱えている薬品類にとっても、直射日光は良いものじゃないからな。
少し進むと思った通り、ラリった顔をして転がっている連中や、客引きの女も目に入る。
治安は悪くも無く、良くもなく、か。
荷物の袋をガサリと抱え直したおれは、息をついて間を歩く。
やはり表通りよりは熱が当たらない分、いくらか涼しい。・・・マシ、という程度だけど。
「おい、そこのニーサン!」
路地に入った時から後ろをついてきてるな、と思っていた連中に、ガシリと肩を掴まれた。振り解きたいのは山々だが、手元には沢山の薬品。割ると面倒な事になる。おれは内心溜息をついてチラリと肩越しに相手を見た。いかにも体だけが自慢そうな髭を生やした大柄の男、細身でスーツを着ている眼鏡の男、それからサーベルを腰に挿した、見分けの付かない男が数人。
「ひゅぅ、イイカオしてんじゃん?」
「あーホント、やっぱボスの目に狂いはねぇッスねー。」
口笛を吹いたり囃し立てる連中に、おれは無表情のまま。つーか、暑いんだよ。
「ニーサン、この辺でイイ店があるんだけどさ、ソコで働かねぇ?」
「・・・。」
「今、何の仕事してんのか知らないが、報酬なんて今の仕事のメじゃないと思うぜぇ?」
・・・今の仕事のメじゃない、ねぇ…。
黙ったままのおれに何を思ったのか、男達は次々と口を開く。
「おれら、世の中に疲れた男を癒す店を経営してるんだけどよ、最近人手が足りなくてなあ。」
「だからこうやってスカウトしてるんだ、オニーサン、素質有りそうだし?」
「仕事前に魔法のお薬飲むだけで、仕事してる間の事なんて忘れちまうんだぜ!」
「そうそう、しかも気持ちよくなれちゃう、サイコーの仕事だ!」
「仕事は心配しなくていいぜぇ、ボス直々に研修してくれるし、俺達も手取り足取り優しく教えてやっからよぉ。」
まあ、こんな小さな港町でも、大きな商業都市でも、こんな商売はどこにでもあるよな。人間に欲がある限りこの手の店が消える事はないだろうし。…ん、いっそ切っちまえばいいのか?けど野郎の去勢手術なんて面倒だし面白くも無いだろ。
暑さと相手をする面倒臭さで、ぼーっと考え事をしていると、ふとボスと呼ばれた男に顔を覗き込まれる。
「どうだ、金が余るほど手に入るぜ?ニイサン、すげぇソソル顔してるし、身体の具合はおれが確かめてやるよ。」
舌なめずりしながら言う姿は正直醜い。しかも臭い。
あー…刀はあるけど荷物持ってっから、居合い抜き出来ねぇな。それに刀抜くほどでもなさそうだ。
「ちょーっとだけ体験してみるか?話はそれからでイイんだ、ハハッ。」
クイ、と指差した先、路地の奥にはきっとこいつらの言う"店"とやらがあるんだろう。体験、なんて言っておいて、こういう輩は最初から薬漬けにする気満々なんだよなあ。
「もし嫌だって言うんなら、・・・」
面倒で一言も発していないにも拘らず、話はどんどん進んでいっているらしい。
普段ならこういうシチュエーションは"あいつら"が居るから起きないし、起きたとしてもこの時点で既にどうにかなっているから、これもある意味新鮮だ。そう考えると少し楽しくなってきたおれは、続きを促すように黙りこくってみた。
「手荒な真似は嫌なんだけどよ・・・」
「へへ、大事な商品だしなあ?」
後ろに控えていた、サーベルを持った男達が数人、ズイ、と前に出てくる。
だから何でそう、揃いも揃って弱そうなんだよ。まず、構えからなってねぇ。何だその前に出してる左手は。斬って欲しいのか?足にくっつけて欲しいのか?
頭の中で武器の構えから服装やら顔やら武器の質やらを駄目出しをして、最終的に3点という点数を付けていると、連中の一人から驚き跳ね上がる声が聞こえた。
「ヒッ・・!?ぼ、ボス!!!大変だ!!!」
「何だ、うるせぇな!今いいとこなんだよ!!」
気色悪い猫撫で声から打って変わって、ボスと呼ばれた男が怒鳴り上げる。けれど悲鳴を上げた男はそれどころじゃない様子でおれを指差し、一枚の紙を掲げた。
「ソイツ・・・ソイツ、3000万の首、トラファルガー・ローです!!!」
ああ、手配書か。
「何だと!!?」
「3000万!!?」
「嘘だろオイ・・!!」
途端に路地が騒がしくなった。
まあ、船は分かり辛いところに泊めてあるし、上陸してあまり時間が経ってないから情報が伝わっていないのは確かだ。
再度荷物を抱え直したおれは、壁へ凭れかかる。いざという時は足で相手をしてやんなきゃならねぇから、こんな狭い路地じゃあ場所を開けておいたほうが良い。
「・・・・で、何の用、だって?」
「ぐっ・・・」
「ひっ!」
ゆるりと訊ねてやると、今までの威勢は何処へいったのか、男達は一歩二歩下がる。
けれどボスと呼ばれている男だけは違っていて、逆に一歩歩み寄ってきた。
「てめぇら、怖気付くな!!逆にコレはチャンスだぜぇ・・・。」
「…チャンス?」
その言葉に思わず首を捻る。
バックに誰か能力者でも付いてんのか?それとも…。
「ヘヘ、トラファルガーさんよ、てめぇをウチの商品にできりゃあ、凄ぇ事になるぜ!」
「・・・。」
「何たって賞金首がかかった、悪魔のみの能力者を好き勝手犯せるっつーんだからよお!!薬で廃人にしてやりゃあ、悪魔の実の能力なんざ怖くねぇ!!そしたら店は大繁盛、この海一番の話題店になる事ぁ間違いねぇ!!」
・・・・・深読みしたのは時間の無駄だったようだ。
だんまりのおれの顎に、男が手をかけて上を向かせる。
両手が塞がってるからって、好き勝手しやがって。割れて混ざったら危ねぇ薬品があるんだよ。そうでなくても勿体無ぇし、この暑い中、また買いに戻るのは面倒なんだ。
「嫌でもウチで働いてもらうぜ、トラファルガー・ロー…。てめぇなら、喘ぎ声もサマになりそうだしなあ?」
・・・人を勝手に淫乱扱いしてんじゃねぇよ。
もう少しで大通りなのにな、と思いながらチラリと右手の方を見やる。日が差した町並みは明るく活気に満ちていた。別に助けを求める訳じゃねぇけど、行き交う人間は路地の方など全く眼中にないようだった。
「は・・・、3000万っつっても大人しいモンじゃねぇか。それとも何か、性奴隷願望でもあんのか?」
かけられた声に、そろそろ始末つけるか、とりあえず目の前の男のの金的でも…と思っていると、ザラリとした皮の厚い手で頬を撫ぜられた。瞬間的に鳥肌が立ち、眩しいほどの表通りから男へ視線を戻そうととした、その時。



大通りの中、見慣れた奴と目が合った。


走っていたらしい身体の動きをピタリと止め、


薄暗いガラスの向こうにある青の目が大きく見開かれる。



ああ、ナイスタイミングじゃねぇか。
             ・・・・・・・・・・・キャスケット。




瞬間、ひゅ、と風を切る音が目の前を走り、男の巨体が路地の奥まで吹っ飛んだ。派手な音をこの路地に響かせて少し遠くの地へ顔面からめり込む。吹っ飛んだ瞬間に砕けた音がいくつか聞こえたから、まず身体はひしゃげて使い物にならないだろう。
同時に、良い反応速度だ、と思わず満足する。頬を撫でていた手も無くなってスッキリした。
「ボ、ボス!?」
「てめぇ!誰だ!!」
着地した態勢から殊更ゆっくりと立ち上がるキャスケット。
「・・・それは、こっちの台詞だ・・・・。」
ザリ、と土を踏みしめ低く構えを取るキャスケットは、サングラスの下から凶悪な目を覗かせていた。
―蒼の…炎。

「船長に何してやがった!!!」


そこからは、阿鼻叫喚、…地獄絵図だった。
相手の戦意など頭がやられた時点で皆無に等しく、戦闘というより殲滅だった。
「うわあああ!!」
「た、助けっ・・」
「この野郎ー!」
おれは変わらず壁を背に突っ立っているだけだったが、キャスケットは誰一人通さない。攻撃をかい潜っておれへ向かってこようとした奴も、頚椎への肘打ちで一撃で沈む。中々肘の使い方が上手くなってるじゃねぇか。
折ったり潰したりを繰り返すもんだから、辺りは血まみれだ。ボキリ、ゴキリと鈍い音が高らかに響く。こんな戦い方してるからツナギが汚れちまうんだよ、とその様子を眺めていたおれは、下手をすれば逃げた奴まで追いかけそうなキャスケットに静止をかける。
「キャスケット。逃げた奴はほっとけ。」
追いかけたらキリがねぇ。
おれの言葉にバッと振り返ったキャスケットは、帽子からつま先までまた赤に染まっている。昨日ほど酷くはないが、赤黒い染みは白のツナギに目立つ。髪にも頬にも返り血が飛んでいて、洗うのは面倒だろうなあと思った。
瞳孔が開いたままおれを捉えたキャスケットは、パッと手を離して、首を締め上げていた男を解放する。崩れ落ちた男の首は、妙な方向に曲がっていた。そしてそんな屍累々には目もくれず、ズンズンとおれに歩み寄って乱暴に腕を取り、そのまま路地裏から表通りへ引きずり出した。
俯いている為、表情は見えない。
けれど暴走して押し倒されるなんて事はなさそうだ。とりあえず腕を引っ張る背中へ声を掛けた。
「お前が来て良かったぜ。薬品ダメにするの勿体ねぇから、手が出せなくてよ。」
ザワザワと街の連中が一気におれらを避けて歩く。
そりゃそうだ、血まみれの奴がいきなり路地裏から出てきたら誰だって引くだろ。
けれど今のキャスケットにはそんな事を気にする余裕は無いらしい、漸く向かい合ったと思えば、ガツッと音がしそうな程乱暴に、おれの両肩を掴む。


「おれ、おれ・・・!!貴方が、好きです!大好きなんだ!!!」


・・・・・・・・・・あ?

「怖かった!!船長が船からふらっと居なくなって、凄く怖かった!!」
「あ、あぁ・・・わりぃ・・・。」
キャスケットの迫力に、思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。
けれどそれはキャスケットの意図するところではないようだった。
「違う、貴方は悪くないんだ!!おれが、おれが!!」
「・・・・・・・?」
ちょっと落ち着け、そう声をかけるまえにキャスケットは再び口を開く。
「最初、こんな気持ちは嘘だと思った・・・。けど、考えれば考えるほど、おれは船長が好きで!普通の"好き"じゃない、クルーが船長に対する"好き"、確かにそれもある、でもそれだけじゃなくって!!」
それだけじゃない??
おれはその単語に内心首を傾げた。"好き"に、種類も何もあっただろうか。
「必死にそうじゃない、そうじゃないって自分に言い聞かせてたのに!昨日の戦闘で、敵船の奴が…!」
「敵船の、奴が?」
「・・・・―っ、そんなに船長にベタ惚れで…、な、何回掘ったんだよ、って・・・」
ああ、成る程。
シモネタが苦手なキャスケットのことだから、これでも大分言い方を緩和していることだろう。
とりあえず性的なことを匂わせる台詞を吐かれたって事は分かった。
「違う、おれはそんな目で船長を見ていない、って自分で自分の気持ちを否定するのに・・・それでも、どうしても、船長を想う気持ちを抑えられなくて!」
だから、一人で考え込んでた?おれを遠ざけて??
「好きで、大切で!!抱きたいって、思ってしまうんだ!!」
キャスケットの声は泣きそうだった。
荷物に隠れているし、俯いている為分からないけれど、実際泣いているかもしれない。
叫ぶように言い放った後は一転して大人しくなり、小さくぽつり、ぽつりと独白するように呟き始める。
「本当は言う気なんて、無かったんです…。」
「・・・・。」
「だって、言ってしまったら、軽蔑されるかもしれない。相手にしてもらえなくなる。何より、船長の邪魔になってしまう。それだけは、嫌だったんです。そうなったら、辛すぎるから…。」
おれは、ただ黙って聞いていた。
「でも、おれの気持ちは毎日暴れて、押さえ込むのが大変で。またいつ昨日みたいに暴走してしまうか分からなくて。そうなったら、今度こそ船長に"事故"として軽く流して貰えなくなってしまう。おれの気持ちが、バレてしまう。」
「・・・・・・。」
「だから、そうなる前に、・・・船を、お、降り・・・・っ・・・」
声が、肩に置いた手が震えていた。
おれは小さく溜息をつく。何を思ったか、キャスケットがビクリと身体を跳ねさせる。
「・・・馬鹿か、口に出すのも嫌な事を、実行出来る訳ねぇだろ。」
「・・・・・・っ・・・・」
息を呑むキャスケットに、今度はおれが続けて口を開いた。
「大体、お前の気持ちなんて気付かねぇ方がおかしい。」
「え、ええっ!?」
「そりゃそうだろ。あそこまであからさまな態度しておいて。」
慌てふためくキャスケットに追い討ちをかければ、小さく唸って視線を逸らす。
「逆にてめぇがそうやって妙に距離置いたりするから・・・お前が分からなくなる。」
他に言い出せない何かがあるのか。
許すつもりは無いが、本気で船を降りようとしているのか。
一度弾き出した答えを、疑ってしまう。
「それは・・!」
「あー、分かってる。お前はおれから逃げようとしてたんだよな。」
「逃げようだなんて!」
「そうだろ。お前は、おれから逃げようとしたんだ。」
船を降りるとか気持ちがバレるとか。
全部、おれから逃げたいが為の考えじゃねぇか。
「違います!」
「違わねぇよ。」
あくまで否定するキャスケットに、おれも流石に苛々し始めた。
それはキャスケットも同じだったようで、おれとキャスケットの間を塞いでいた荷物を引っ掴んで・・・裏路地の方へかなぐり捨てやがった。人が居なかったのは不幸中の幸いで、ガラスが床に叩きつけられる音がいくつも響き渡る。
「てめっ・・!!」
折角買い集めて守った薬品を、というおれの言葉は、キャスケットに強く抱き締められた衝撃で飲み込んだ。途端に、少し汗ばんだ、キャスケットのにおいに包まれる。
・・・そういえば、おれを探して走り回ってたとか言ってたな・・・。
思い出して、おれは抵抗しようとした力を抜いた。
「確かに船を降りたほうがいいとか思ってました、けどそれは船長から逃げようとした訳じゃないんです!!」
「・・・・・・。」
今度は否定せず、黙って耳を傾けた。
「・・・逃げたいなんて、思う訳ないじゃないですか・・・。」
小さく、震えながら搾り出される声。
「さっき言いましたよね?おれ、船長が、好きなんです。離れたくないんです。・・・傍に、居させて下さい。」
強く、強く抱き締められる。
不思議と、苦しいとは思わなかった。
「船長が居ないって騒動になって、頭の中が真っ白になりました。その時思ったんです。おれ、船長が居ないと生きられないんだ、って。」
ゆるりゆるりと紡がれる言葉に、漸く一本の糸になってきた気がした。
つまりキャスケットは、ちゃんと、おれの事が…好き?
船を降りたい訳じゃないんだよな?
おれから、逃げたい訳じゃないんだよな?
「今思えば、船を降りたいなんて馬鹿な考えですよね。」
ふとキャスケットが自嘲する。
「おれには、此処しか居場所が無いのに…!」


ああ、なんだ。

やっぱりお前、おれの事が好きなんじゃねえか。

全く、迷路に入ったり遠回りしたり、手間かけさせやがって。


「男のおれが船長の事を好きだなんて、気持ち悪いって思っても、軽蔑されても、構いません。・・・でも、どうか、お、おれから船長を、取り上げないで下さい・・・っ・・・、船に、乗せておいて下さいぃっ・・・。」
いよいよ堰を切ったようにボロボロと零れ落ちる涙に、キャスケットの声も揺れる。
キャスケットの気持ちが分かれば、後はもう、簡単な事だった。
おれは荷物を捨てられた恨みを横へ置き、口を開いた。
「気持ち悪いとか軽蔑とか。おれの行動をお前が勝手に決めてんじゃねぇよ。」
「だ、だって・・!」

ぎゅ、と回された腕にまた力が篭る。
「お前、おれの事が好きなんだろ?」
「だから…っ、な、何回もそう言ってるじゃないですか・・・。」
「じゃあいいじゃねぇか。」
「でも、」
「降りるなんて、おれが許さねぇ。」
台詞を遮り、きっぱりと言い放つ。
おれの言葉に暫く黙ってしゃくり上げていたキャスケットは、少し息を整えた後にぽつりと口を開く。
「おれ、男ですよ?」
「だから何だよ。ペンギンだってベポだって男だぜ。」
そう言ってやると、今の今まで泣いていたと思っていたキャスケットはガバッとおれの肩に手を置いて距離をとる。
真っ赤な目の中心は穏やかに青く、その色に何だか久しぶりにきちんと目を合わせた気がした。
「・・・・や、やっぱり分かってません、船長…。」
何だよ。他にまだ何かあるのかよ。
「おれが言ってるのは、だから、男として、というか、」
もごもごと沈むように俯くキャスケットに、おれはさっき言われた言葉を思い出した。そういえば、抱きたいとか何とか言ってたな。
「抱きたいなら抱けばいいじゃねぇか。」
「そうじゃなくて!!!」
さらりと言ってやると、キャスケットは顔を真っ赤にして否定する。
ああもう、何て言ったら伝わるんだ、とか何とかぶつぶつ繰り返して頭を抱え始めるキャスケットに、おれは思わず首を傾げる。何だ、違うのか?
「確かに、そういう意味も含んでますけど―、ええと、その・・・」
そりゃまあ、昨日の件を蒸し返す訳じゃねぇけど、あんな目で押し倒されたら誰だって分かる。だから抱きたいならだけ、っつってんのに。分かってねぇのはどっちだよ。
「お前は、おれが好き。抱きたい。違うのか?」
「そ、それはそう、ですけど。何か違うような・・・。」
例えばキスとか、相手を想ったりとか、なんて言い始める。
キス、か。
「ほら。」
「・・・・・・・・・え?」
ふ、と目を閉じてやる。
相変わらず降り注ぐ太陽は暑く、目を閉じても自分の瞼に透ける血の色が見えるように赤でいっぱいになる。
そんな赤で満たされた視界の中、キャスケットの困惑した声が聞こえた。
「だから、キスだろ?すれば?」

キスしたいなら、させてやる。
抱きたいのなら、抱かせてやる。
だからもう、船を降りるなんて言うんじゃねぇ。・・・分かったか、馬鹿。

「・・・・いいんですか?」
キャスケットの手が、肩にかけられた。妙なシュチエーションだ、と自分で作り上げた土台に笑いが込み上げる。
「おれ、もう止められませんよ?ずっと船長の傍を、離れませんよ?」
「うっせぇな・・・離れるのはおれが許さねぇ、つってんだよ。キス、しねぇなら帰るぞ。」
「わわっ、す、すいません!します!させて下さい!!」
ぐ、と肩に置いた手へ力を入れられる。
そこでおれは再度思い出した。キャスケットに引っ張られて出たここは大通りのはずで、時刻は夕方とはいえまだ明るく人通りも多い。キャスケットと話をしていて辺りを気にしなかったけど、気配と人の声からして相当な見世物になっているに違いない。ざわざわと取り囲む声にちらほら"ハートの海賊団"だの"トラファルガー"だの囁く声が聞こえるけど、もう、今更気にしてられるか。
全部目の前のコイツが悪いんだ。
そこでおれは、気付く。

・・・・・・遅くねぇか?

何してやがんだ、とあまりの遅さとあまりの暑さに苛々しながらそっと目を開くと、キャスケットは・・・惚けて固まっていた。
「・・・おい。何してんだよ。」
顔の距離はちっとも短くなっていない。というより、肩に手を置いているだけだ。
これじゃあ、一人で目を瞑っていたのが何だか馬鹿らしい。
目の前で手を振ってやると、キャスケットは気付け薬を浴びた人間のようにビクッと身体を震わせて、おれから手を離し一歩二歩後ずさった。
「せ、せんちょう・・・!」
「あ?」
「え、と。何か、こう、オーラっていうか、色気っていうか・・・」
「・・・は?」
「凄すぎて、おれにはとても・・・!!」
良く分からねぇけど、とりあえずキスが出来ねぇらしい。
・・・何処の処女だ。
「昨日はあんなにガツガツしてたのにか?」
舌まで入れてたじゃねぇか、と言ってやると、キャスケットは首がもげそうなほどぶんぶんと首を振った。あれで帽子が落ちねぇのが不思議だよな。
「ああああれはおれだけどおれじゃなかったっていうか、ていうか昨日の事は忘れて下さい!!」
別にそれは構わねぇけど…キスとか、って言い出したのコイツだよな?
思わず呆れてしまう。
「ったく・・・。」
久しぶりにまともにキャスケットと目を合わしたし、話をした。
いつも当たり前のように会話をしていただけに、何だかここ数日は落ち着かなかった。ようやく、いつもの調子に戻れた気がしておれはキャスケットに気付かれない程度に安堵の息をついた。
「大体な、お前がおれを避けなきゃこんな話にはならなかったんだ。」
間違いなく元凶はそこにあると判断したおれは、ここ数日の騒動の発端を全てキャスケットに擦り付ける。
「え!?おれの所為ですか!?」
「当たり前だ。10割お前が悪い。」
「うぅ・・・確かに言い返せませんけど…。」
おれもおれでコイツを信じきれず悩みこんでたのも悪いかもしれねぇけど、それはそれ。勝手におれの態度を予測して勝手にマイナス思考になって勝手にうじうじ悩んでやがったキャスケットが悪い。
文句言ったものの別に謝罪を欲している訳じゃない。ただこの数日の苛々をぶつけておきたかっただけだ。けれど責任を感じて馬鹿正直に反省を始めるキャスケットに、おれは溜息をついてあたりを見回した。路地に投げ捨てられた無残な薬品類。化学反応を起こして煙を出しているやつもある。まあ、火事になったりはしないから放っておいても大丈夫だろう。また店を回らなきゃいけねぇのか、と思うとなんだかやるせなくなってくる。
「船長。」
「何だよ。」
無事な薬品は無いだろうからと、残りを踏み潰しているおれにキャスケットから声がかかる。
今度は何を言い出すつもりだ?
「精一杯頑張ります。けど、まだ船長に迷惑をかけてしまう事がある・・・と、思います。れでも。おれ、何があっても船長についていきますから。離れません、から。」
正面向いて放たれた言葉。
その目には、昨日見た炎とも、さっき見た炎とも違う、静かに強い青が息衝いていた。
「・・・・・・・当たり前だ、馬鹿。」
っていうか、それじゃ今までと変わんねぇよ。
ただ、おれの収穫としては、お前の気持ちをきちんと把握できたってところか。



おれはもう、お前の気持ちを疑わない。

そして多分、キャスケットも自分自身に迷ったりしないだろう。



「もうそろそろ店も閉まっちまう。帰るぞ。」
「・・・・、はいっ!」
顔を上げて辺りをみれば、元々帰路を急ぐ奴らに混じってちらほら解散してゆく野次馬達。バッチリ全部見られてた事実に舌打ちをするものの、今日のこれは不可抗力だろう。噂になったとしてもすぐに途絶えるし、元々やりたいようにやっているのだから咎められる謂れは無い。・・・気分が良いモンじゃねぇけどな。
パラパラと少なくなる人波に混じって、キャスケットがおれへと駆け寄る。
まだ何だか言いたいことはありそうだが、それでも憑き物が落ちたかのようにスッキリとした顔つきをしていた。やっぱりお前に悩んでる顔なんて似合わねぇよ。
「あ、おれ、すいません・・・。買い物を・・・。」
すたすたと歩き始めるおれに、キャスケットが慌ててついてきながら謝る。
全くだ。折角暑い中買い集めたってのに。
「明日、買い直す。お前は荷物持ちだ、キャス。」
「はい、勿論・・・。・・・って、え?」
反応を期待しながらそう言えば、案の定キャスケットが、小走りでおれの隣に並んでくる。
「船長、今。」
「何だよ、キャス。」
「・・・・・・それ・・・。」


「お前の愛称だ。悪くねぇだろ?」


ニヤリと笑って顔を覗き込むと、一瞬きょとんと目を丸くした後に、顔を綻ばせるキャスケット。
「―嬉しいです。船長。」
それはおれが気に入っている、見慣れた顔だった。





高く上がっていた太陽もいつの間にか沈み始め、辺りは赤く染まっている。結構時間食っちまったな、と思いながら歩いていると、少し考えていたキャスが口を開いた。
「船長。許されてるっていうのは分かりますけど・・・。」
「あ?」
「簡単に、誰にでも"抱きたいなら抱け"なんて言わないで下さい。」
何の事かと思えば、まだ考えてたのか。
キャスケットの真面目腐った意見に、おれはふと疑問を持った。
「おれ、お前にしか言った事ねぇけど?」
え、と口に出したきり足を止めて再び固まるキャスケットに、今度は目の前で手を振ってやる気は起きなくてさっさと歩き出す。
だから、お前には気を許してるっつってんじゃねぇか。


「ちょ、船長、それってどういう・・・!!」


さて、船に戻るか。
顔を上げると港へ続く広場の入り口で、おれ達を迎えに来たらしい柵に凭れ腕を組んでいるペンギンと、大きく手を振るベポの姿が見えた。
おれも軽く手を上げて、一人と一匹の方へ足を薦める。
後ろでは、キャスケットが何やら喚いてるがおれの知った事じゃねぇ。
足を止めて、肩越しに振り返る。


「キャス、早く来い。置いてくぞ。」

「だから船長、今の!〜・・・ああもう、すぐ行きます!!」





全く、手間のかかる奴。

追いついてくるキャスケットに、おれは小さく笑みを漏らした。








そうしておれはまた、歩き始める。







fin.


3万感謝リク小説お待たせしました、「キャスロでロー視点」!(勝手に)ローが3000万あたりの時で書かせて頂きました。キレキャス+告白+擦れ違い+ローの絡まれ、と、詰め込みたいモノを全部詰め込んだら長…く…orz

色々ありますが、キャスのグダグダと後ろ向きな悩みっぷりとローのちょっとズレてる考えが伝われば幸いです(^w^)
丁度アオトさんのお誕生日だったので、無理矢理押し付け!おめでとーー!!
ぺ、ペンロじゃないんだから!!キャスロ+ペン+ベポだから!!(笑)


2009.07.14(07.19訂正)    水方 葎